「漫画の3巻で登場したヒロイン」の話
※パッチは最新のものを当ててプレイ。セーブデータの互換性がなく、朋乃ルートが大幅に加筆されているとのことなので、これからプレイされる方は最初から当てることをお勧めします。
【共通パートと個別ルートの落差】
本作は共通パートの時点では、普通の学園ものに見えます。学生会が非常に強い権力を持つ、部活同士の権力争いが激しい、平民と貴族が区分されているといった特色はありますが、基本的には友人やヒロイン達と普通に学園生活を満喫する内容になっています。
本作の共通パートでは、何度も何度も見ることになる類のイベントが多めになっています。全くのワンパターンではなくそれなりに工夫はされているものの、繰り返しのネガティブなイメージを覆すほどではなく、少々ダレてくるのが一番の欠点と言えるでしょう。個別ルートに入ると、朝みかげに起こしてもらう(みかげルートのみ)と郁子のドジ(郁子ルートのみ)を除き全てピタッと止み、何かと極端です。
その個別ルートですが、共通パートとは一線を画する雰囲気、展開がプレイヤーを待ち受けています。リディと文月については終始共通パートの雰囲気の延長線にある一方、その他4名のヒロインは共通パートからは想像できない、一言で言えば死の淵を彷徨う展開が待ち受けています。
その特徴が最も色濃いのが朋乃ルートで、中盤以降はもはや何のゲームなのかわからなくなるレベルで重苦しい展開が続きます。しかしながら、私は本作において最も面白いのが朋乃ルートであると信じて疑いません。ということで、以降は朋乃ルートを中心に語っていきます。
【ギャンブルものとしての朋乃ルート】
朋乃ルートの中盤以降は「ギャンブルの駆け引き」が中心となります。
そこまでの経緯をネタバレしてしまうと、朋乃にはある才能があり、何年もの間親の残した借金を理由にマフィアに利用され続けてきました。故に朋乃は、遠く離れた地にある現在の学園に、逃げるように入学したわけです。
しかしあることがきっかけで、学園の地下組織でマフィアとも繋がりがある「ナイトクラブ」が朋乃に目をつけ、利用してやろうと画策。朋乃の行方がわからず半ば諦めていたマフィアから債権を取得したナイトクラブは、学園祭までに全額返済すれば拘束しない旨を朋乃に伝えます。朋乃と主人公は自由のために、ナイトクラブの運営する裏カジノでのギャンブルに身を投じることになります。
ハッキリ言ってしまうと、ギャンブルものとしての完成度はそれほど高くありません。理由は色々あるのですが、大きな理由を二つ挙げます。
一つは、最後の最後の、大逆転のトリックがあからさますぎることです。優れたギャンブルものは、敵対者だけでなく読者(プレイヤー)をも華麗に欺きます。それが先の読めない期待感、緊張感を生みます。しかし本作は、そのトリックのためでしかない不自然な設定がいくつも存在し、それを巧妙に隠す努力もされていないのである程度予見でき、特に驚きもなく終わってしまいます。
もう一つは、平常時に朋乃が勝率を上げるための方法が非現実的すぎること。ギャンブル漫画などでも一見すると筋が通っていても、後々思い返してみると「やっぱ無理だろ」と思うことはあります。ですが本作では最初から明らかに無理と思えてしまう方法で、朋乃の才能と何か関連性があれば良かったのですがそれもなく、いささか没入感に欠けます。
劣勢からの大逆転の熱さはありますが、それ以上に粗が見受けられ、ギャンブルものとしてはイマイチな感は否めません。
私もあまり人のことは言えないのですが、基本解説がくどく冗長なのもマイナスです。特に裏カジノに初めて行った時にカジノの運営の仕組み、本作で題材となるルーレットのルール、確率論の話を、数秒でループするBGMをバックに延々聞かされるのは辛いものがあります。朋乃ルート最大の試練は、後の暗い展開ではなくここの解説シーンと言っても過言ではないでしょう。
【ギャンブルものとして見ない朋乃ルート】
それでも私が朋乃ルートを高く評価するのは、ギャンブルの駆け引き等を通じて描かれる、決して諦めず立ち向かっていく朋乃の姿、そしてその原動力となる主人公との絆が強く描かれているからです。
朋乃は、それほどメンタルの強いヒロインではありません。勝利へのロジックを積み上げていく性格の割に詰めは甘く、同時にちょっと突かれただけで脆く崩れ去る弱さを持っています。実際、彼女は作中において何度も失敗をしています。
しかし、彼女は自由を勝ち取ることを諦めません。大敗を喫し無一文になり、一人ではロクに歩けない程に身体がボロボロになっても、可能性ある限り勝利へのロジックをまた一つ積み上げる努力をします。その姿には、自然と胸を打つものがあります。
何故彼女はこうも戦い続けられるのか?ということが次第に気になってきます。そのヒントは、ルート中幾度となく挟まれる中学(作中はセカンドスクール表記)時代での回想にあります。
この回想では、学校の屋上で何となく出会って、何となく口を利くようになった二人が次第に距離を縮めていく様を、シンプルながら鮮やかに描いています。また、現在との対比、そして現在の二人の精神の在り方の原点という意味でも非常に重要な意味を持ち、朋乃ルートの深みがグッと増しています。
マフィアの良いように利用されている中学時代の朋乃は現在に比べるとやや暗く、将来を諦めきった性格が見受けられます。現在のように未来への可能性を信じるようになった切っ掛けになる出来事がどこかにあるはずですが、なかなか出てこずヤキモキさせてくれます。それはエピローグの、朋乃が最も精神的に参っていた頃の回想でようやく出てきます。ここでの台詞を一つ紹介します。
「全7巻の漫画があったとしてさ。1巻で登場するヒロインと3巻に登場するヒロインだったら、メインヒロインはどう考えても1巻の方じゃない?」
1巻のヒロインは主人公の幼馴染のお姉ちゃん(=みかげ)、3巻の方は朋乃自身を指します。これは、当時の朋乃が人生を諦め、主人公との別れをも意識しているが一方で主人公にはそれを否定して欲しいいじらしい気持ち、そして人生観みたいなものが見事に表現された秀逸な台詞であると言えます。それに対する主人公の返しがまた秀逸。その台詞回しは、最後までやってようやく「良い」と思える台詞ですので具体的には言いませんが、簡単に言ってしまうと「これからも一緒にいよう」ということです。
「一緒にいる」と言うこと自体は簡単かつベタで、それ故に必ずしも重みを伴うとは限りません。しかし、ここまでやってきたプレイヤーは、ルート突入前に朋乃の悪だくみに渋々ながらちゃんと付き合い、ナイトクラブとの危険な戦いに自ら巻き込まれることを望み、時として自らが矢面に立ち、ボロボロになった朋乃を最後まで支え、いかなる時も朋乃の幸せを望み、後悔しないために「一緒にいる」ことを貫き通した主人公の姿を知っています。それ故、主人公の返しは力強く心に響きます。
こういった過去の想い出、そして常に共にある主人公との絆が、自由になれる未来の可能性を朋乃に信じさせ、また原動力になっているのは間違いありません。
一度大敗した後、後ろ向きな考えになっていた主人公も、朋乃が積み上げたロジックからヒントを得て、朋乃が本当に自由になるための大逆転のトリックを作り上げ、結果勝利をもぎ取ります。
つまり、このトリックは単に二人で作り上げたロジックというだけでなく、今までの主人公と朋乃の想い出や絆あってこその、いわば今の二人の集大成と言えるものです。このような見方に気付くと、私が先程「あからさますぎる」とこき下ろした大逆転のトリックも、単にそれだけではない、何か素晴らしいもののように思えてきます。
ギャンブルものではなく、「ギャンブルを通じて描かれる二人の絆」という観点なら、充分に良作と言えるでしょう。
【その他】
朋乃ルートは途中で分岐があり、「昔のことを話す」か否かで変わります。話さなかった時は、途中でいきなり「ここ3日間の記憶がない」と主人公がのたまい日付が飛び、何故か朋乃がボロボロになってベッドに横たわっており、何かに負けたことになっているという意味不明な内容になっています。結末も「俺達はまだ戦える!」という打ち切りエンドなのでやる価値は全くありません。素直に昔のことを話してしまいましょう。
これまで語ってきたように、朋乃ルートは中盤からダークな展開一直線です。また、朋乃以外のヒロインは一切出てこず、ルート序盤で熱い友情を語った清貴も中盤以降完全にフェードアウトするなど、登場人物が極端に少ないルートでもあり、暗さに拍車をかけています。よって疲れたり、イヤになる方もおられるかと思います。そういう方にお勧めしたいのが文月ルート。
文月ルートは、ナイトクラブを始めとした学園の暗部の話は一切出てこない爽やかな展開で、素直に文月の世話焼きな母性を感じられるルートになっています。また、多くの登場人物に出番があり、そして他ルートでは悪役のキャラを含め全員が優しいと、朋乃ルートの真逆を地で行くルートになっています。6ルート中唯一、タイトルにもなっている桜がストーリーにちゃんと組み込まれているのも好印象。ついでに無理やり制服に押し込めてる胸がステキ。
特に暗いみかげルート(のエピローグ)や朋乃ルートの後にやると、荒んだ心が癒やされますのでオススメ。
【まとめ】
本作は、意欲を感じさせるゲームではあります。周回ごとに増えていく選択肢や会話、学園や国にまつわる多種多様な設定、萌えゲー然とした見た目に反して特にみかげルートと朋乃ルートで見られる重苦しい展開、テーマ性。一味違うゲームを作りたいという熱意をひしひしと感じます。
しかし、それらが物語の面白さに繋がっているかというと、そうでもありません。特に設定については、ただただ登場人物に語らせることに偏重しており、物語にはさほど活かされていないため、面白さどころかつまらなさに直結してしまっています。そういう意味ではもったいないゲームではあります。
それでも、その中にキラリと光るものがあったのもまた事実です。私にとっては、朋乃ルートがまさにそれでした。二人の関係性の描写には満足できましたし、最後までプレイして良い感じの余韻が残ったのは紛れもない事実です。積極的に人に勧めはしませんが、私は好きなゲームですね。
感想は以上となります。このような拙い長文を最後まで読んで下さった方がいらっしゃいましたら、ありがとうございます。少しでも興味を持っていただけたり、共感を得られましたら、私としては嬉しい限りです。