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gonさんのこの青空に約束を―の長文感想

ユーザー
gon
ゲーム
この青空に約束を―
ブランド
戯画
得点
95
参照数
499

一言コメント

約束というテーマがぴったり。優しい世界(つぐみ寮)の住人が変化していく、とてもベタな内容。しかし見事としかいいようがない。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

         この作品が愛されているのは何故か・・・

 久々にプレイしたわけだが、そこの所に趣きを置いて読んでみた。この作品のテーマ
は約束。一言で言えば再会の約束。それとは別に各ヒロインごとにメッセージ性の強い
テーマを元に素晴らしいシナリオが展開されている。

 凛奈のテーマは人と深く関わる事という事。凛奈は優しい性格ではあるが、人付き合
いが苦手でネガティブ思考の持ち主。南栄島上陸しょっぱなから誤解(父親に愛人がい
るのは知っていたが現実に2人が一緒の所を目撃してしまい、自分の居場所がないと勝手
に錯覚)が生じ、世界に絶望した。そんな世界に絶望した彼女がつぐみ寮の住人の優し
さに触れ、人とのつながりの素晴らしさを再認識していくただそれだけの過程。

 海巳のテーマは自分の気持ちに正直になるという事。海巳は心配性で自分の事より他
人の事を優先してしまうという性格の持ち主。そんな彼女の母親と航の父親が自分達を
捨て、かけおちしたものだから、ずっと航が好きのなのに気持ちを正直に伝える事がで
きない。そんな境遇の彼女が、自分の幸せを望みそれを掴み取るただそれだけの過程。

 奈緒子のテーマもまた自分の気持ちに正直になるという事。奈緒子は味方と思った者
に対しては自己犠牲も厭わず、敵と思った者に対しては冷酷非情なまでにがモットーの
熱血漢の持ち主。過去に航を当て馬に使い傷付け、その罪滅ぼしの為に身体を差し出し
たはいいが、遊び人と思っていた航がその実初めてで、航の初体験の思い出をめちゃく
ちゃにしてしまったと罪悪感に苛まれる。そんな過去の経緯があるがゆえ、自分からは
気持ちを伝えられない。そんな彼女に航が再び歩み寄り彼女が自分の気持ちに正直にな
っていくただそれだけの過程。

 宮のテーマは自分を取り巻く世界からの脱却。宮は六条財閥の一人娘で、親にしかれ
たレールの上に沿っていくしかないと、物事を諦観しているそんな心の持ち主。親の敷
いたレールに乗る前にバカンス的な意味合いで訪れた南栄島。そこでの出会いがそんな
彼女の諦観を払拭していくただそれだけの過程。

 静のテーマは他人に心を開く(他人に関心を示す)という事。子供に関心を持たない
冷たい家庭環境で育った為、一人でいる事を好み他人に関心を示さず自分の世界に引き
篭もってしまう性格の持ち主。そんな彼女がつぐみ寮の住人の優しさに触れ、自分の世
界を広げていくただそれだけの過程。

 沙衣里のテーマは強くなる事。箱入りで苦労知らずで育ってきた為すぐに人に依存し
てしまう弱い心の持ち主。事なかれ主義のそんな彼女が教師という立場に前向きに取り
組み、強くありたいと願うまでに至るまでのただそれだけの過程。

 茜は明るく、少しうるさいぐらいではあるが、大事な場面でしっかり空気の読める性
格の持ち主。ずっと一途に航を想っていた気持ちが最後に実を結ぶ、ただそれだけの過
程。

 この作品はとりわけ難しい事を表現しているわけではない。ただストレートに気持ち
を押し出しているに過ぎない。その単純明快なシナリオこそがこの作品の真髄なのだろ
う。そしてつぐみ寮とそれを取り巻く南栄島の優しさに当てられた人は少なくないこと
だろう。私もその中の一人である事は言うまでもない。そんな優しい世界が織り成す人
と人との結びつき、たまにはこんな優しい世界に現実逃避してみるのも悪くない。そん
な気持ちに浸らせてくれるこの作品に感謝。
そして、忘れてはいけない【約束の日】のエンドロール。あの【さよならのかわりに】
の泣き声まじりの歌はどうだろう・・・・?
私は思わず笑ってしまったので、そこにマイナス5点ってところです。