EUをモチーフにした、戦争モノ。戦闘描写はありながらも決して【燃え】は存在せず、はたまた【萌え】もこの作品には存在しない。淡々と進行していく物語は時に痛々しく、だが同時にそこには確かにヒューマンドラマが存在する。好き嫌いはひとまず置く事にして、ライターの技量に敬意を表したい。
最初に言っておくが、私は早狩武志氏がそもそも好きである。この作品の点数に80点をつけているが、私はこの作品が好きではない。同時に、凄い作品であるとも認識している。それが私がこの作品にこの点数をつけた理由。
戦争モノという事もあり、私はこの作品に対し、些か【燃え】要素を期待していた。だが、実際にそんな描写はこの作品に無い。戦闘機での戦闘は、技術だけでその勝敗は決まらず、運であったり、生き残ろうとする意思等のそんな不確定な要因こそが大切であると説き、絶対悪や凄腕のパイロット、読み手に分かりやすい様に作品を作る事を皮肉交じりに否定している。(夕紀→美樹へのインタビューシーンにおいて・・・)
そして、専門用語を数多く用いながらも、戦闘描写は実にあっさり。上記記述の点が理由の一つであるだろが、個別ルートはあくまでGRAND ROUTEの為の布石でしかない。個別ルートが第一線で戦う者達を中心に描く肉弾戦と比喩するならば、GURAND ROUTEは、そんな前線で戦う者達をあざ笑うような頭脳戦。この構成には度肝を抜かれた反面、臨場感という点において言えば、若干物足りなくも感じてしまった。そもそもこの作品の背景が、ベルリンの壁が存在した旧ドイツを手本にしている様だが、東日本と西日本の争いに全ての人間が賛同しているわけではなく、ある程度穏便に暮らす人間がいるというのがこの作品の背景である。作中に、この戦争をネタに笑いをとろうとするお笑い芸人がテレビに映るシーンがあったが、そんな所が理想の為に戦う者達の存在を否定しているような気がしてならないし、臨場感に欠けると判断した要因。(私の勝手な思い込みだろうが・・・)
ヒロインの描写もこの作品においてなかなかの見所だろう。作中においてヒロインの行動や考え方が、ヒロイン像というものを否定し、また許容するのが何とも印象的である。例えば、夕紀は死線に対峙する者達が一時の逃避の為に、肉体関係を持つ事を否定しつつも、自分も社に対し似たような事を行う。また、グリペン(戦闘機)や物資援助の為に美樹が、その代償にお偉方に体を差し出す描写。恋に恋しているとの説明の通り、社と結ばれるルート以外での若菜は、タツとキスして生きて戻ってきたら交わる約束をする反面、若菜ルート・GURAND ROUTEでは一途に社を慕う若菜で在ったり。その不安定な若菜の立ち位置こそが、一途に思うという描写を否定し、ある意味これ以上ない程、若菜というヒロイン像に現実味を帯びさせているのかもしれない。他にも例に挙げればキリがない。ルートによってヒロインの立ち位置は見事に変わるこの作品に素直に感心した。正直私は、ヒロインという存在は主人公と結ばれてこそと常日頃思っている。(頭が単純なので・・・)だからこそ、この作品に感心する事はあっても好きにはなれない。人間交差点、その模様の描き方は好き嫌いではなく、受け入れる事が出来るかどうか?というのがこの作品の評価を分ける材料になる気がする。
【燃え】と【萌え】、期待する事無かれ。感情的に読み上げるのではなく、一歩後ろに下がり、冷静な視点でこの作品と対峙するぐらでちょうどいい・・・
私はそう思います。そして、早狩武志さんの凄さというのを、再認識させられた。この点がこの作品をプレイした最大の収穫であった事は言うまでもありませんねww
あと、最後に。アイキャッチ1のBGMは神だ・・・・ これは間違いない!!