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gluttonykingさんの9-nine- そらいろそらうたそらのおとの長文感想

ユーザー
gluttonyking
ゲーム
9-nine- そらいろそらうたそらのおと
ブランド
ぱれっと
得点
85
参照数
741

一言コメント

作中で都が翔に対し、天の"お兄さん"ではなく"お兄ちゃん"って呼んでいることに「わかる、わかるぞ……」としみじみ共感する作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

物語もキャラも、演出も総じて良かった作品ですが、
個人的に一番魅力的に感じた要素は「お兄ちゃんと妹の距離感、関係性」

人は年を重ねると視野が広がり人間性が豊かに、良い意味で変わっていきます。
もちろん他者との関係性も乗じて変わって行きます。
それらを踏まえて、ずっと長くつながっている関係は素晴らしく、尊いものとして扱われがちですが、
この二人の関係性はそんな美観を犬に食わせて、「うるせーッ! よそはよそ! うちはうち!」と言わんばかりにリアル庶民まるだしなやりとりをぶつけ
各々がそれに納得しているところがとても爽快、ずっと見ていたい微笑ましさがあります。

そんな妹との間柄において無意識に傍若無人を見せる主人公には"お兄さん"ではなく"お兄ちゃん"って呼称がしっくり来ます。
お兄様は綺麗だし、にいさんも……。
というか、私が他の呼び方を好きでないのかもしれない……。
兄妹といえども、男と女。生理的、性的な垣根がありますが、翔、天はそれら蹴り飛ばし、家族として兄妹という特別関係で仲睦まじく突っつき合ってたり、
下ネタな内容もしおらしくならず、それまでのノリで押し通してきたり……。
そんな不格好なやりとりは"お兄ちゃん"ってニュアンスです。
元来、こういう兄妹は呼び捨てで呼び合うことが多いと思うのですが、
本作は天ちゃんが"にぃに"や"にぃやん"と呼んでいて、二次元らしいエッセンスが盛り込まれてるあたり、エンタメしてるなあと好印象です。

また、先程リアル庶民と述べた理由として、この兄妹間には二次元らしい魅力以上にリアリティを感じる部分が強かったからです。
本編では主人公は他者のからの二人の関係について指摘を受けても「そうか? そんなことないって」とあしらう描写があります。
他者を一切介さず、二人の中で完成されたものとして、これからも続いていくはずと思っている心理が伺えます。
私には女性の姉妹はおりませんが、現実に妹や姉がいる友人と兄妹話になった際の反応が、翔とそっくりだったというのがリアリティを感じた大きな要因です。
呼び方はさておき、絶対こういう兄妹いるって、きっと。
しかし、現実世界でならいいんですけど、物語上彼の確信は軽率で、
混じり気のないものが、外の空気に脅かされると瞬く間に害されていくように、
他人ではない者同士の関係性は何が起こったら崩れてしまう、柔軟性に欠ける危うさがあると思います。
とりわけ兄妹の寝取られモノを見てる時とか……
そういう、「ああ微笑ましい、でも大丈夫かな……」と心配の色が見え始めたタイミングで、鎌首をもたげる脅威がやってくるストーリーは素晴らしかったです。

事件が起こり、妹が情緒不安定になることで、目を背けていた事実が明るみに出てしまい、それに翔は嫌でも向き合わなくちゃいけない。
そんな予定調和な展開を魅力的に書けるこのライターさんはとても文才があるような方だと思いましたし、それを楽しめるのがエロゲの醍醐味だと思うので見惚れてしまいます。
こういうの好き好き。
また、その対処法で選択肢を迫られるのですが、この先どちらに転んでも"お兄ちゃん"してる翔に大変好感が持てます。
何より、「人として」ではなく、「お兄ちゃん」として考えてるあたり。

他者の介入を許さず、自分たちだけの世界を構築出来る。兄妹ものの一番の魅力はここにあると思います。
それを徹頭徹尾に余すところ無く描いてくれた『そらいろ』には感謝です。ありがとう\(^o^)/

こうも拙い文章でこの兄妹の魅力を並べた私ですが、
個人的にヒロインは春風が好みだったので、いっぱい出番があって嬉しかったです。次回作も期待してます。