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gggrrrさんの月姫の長文感想

ユーザー
gggrrr
ゲーム
月姫
ブランド
TYPE-MOON
得点
100
参照数
898

一言コメント

我が原典。未だにこのゲームが私の基準です。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

私をPCノベルゲームというものに引き込んだ作品です。この「月姫」と出会わなければ、その後多くの物語に触れることはなかったでしょう。

きっかけは、ブックオフに置いてあった月姫のアンソロジーコミックに興味を惹かれたことでした。当時私はRPGゲームのアンソロジーコミックを好んで読んでおり、その近くに置かれていた月姫のアンソロジーコミックが目に入ったのです。

当時の私でも「恋愛シミュレーション」というジャンルのゲームがあることは知っており、別段興味はありませんでしたので、月姫もそこにあったのがヒロインたちが表紙を飾るものだけであれば、手に取ることもなかったでしょう。しかし、そこにはナイフを持った青年の姿もあった。これによって興味を持ちました。

恋愛シミュレーションにナイフを持った目付きの鋭い青年が登場するのか!? という驚きですね。私はこの頃はまだ月姫を「TO Heart」などと同じジャンルだと思っていたのです。

そしてPCにインストールし、起動して3秒で心を奪われました。

画面いっぱいに表示される満月。独特の書体の「月姫」というタイトル。そしてそのタイトルと同じ名前の「月姫」というBGMの綺麗さ。その3重の効果でしばらく画面の前で呆然としていました。

そして内容は圧巻の一言。素晴らしい以外の言葉が見つけられない。とくに翡翠TureEndの「まひるのつき」の終わり方は、魂を奪われるほどの余韻を味わいました。


この「月姫」はこれ以降私がやるゲームの選定基準となりました。とくに主人公がそうです。私はこの主人公「遠野志貴」が大好きであり、PCゲームの主人公の中でも最も好きな主人公と言って過言ではありません。

その精神は世捨て人的であり、「欲」というものが極めて希薄。それは彼の部屋をみれば一目瞭然で私物というべきものが全くない。そして「特別」な存在を作らない。誰をも平等に扱う。それは優しさ故ではなく、根底では誰も必要としていないから…… そうであるがゆえに「特別な存在」が出来た時は、どこまでもその「特別」のために進み続けるという在り方。

そのせいもあり、月姫が終わったあとに別のゲームをプレイしようにも、「志貴に比べてなんだこのヘタレ男……」、「なんだこいつは、自分の主張がない風見鶏かなにかか」という風に、「遠野志貴」のレベルに達していない主人公のゲームはまったくプレイしようとせず、ただ「月姫」だけを繰り返し遊んでいた記憶があります。

その数年後に考えを改めますが、しかし当時の私がやったゲームは月姫以外では同じ奈須氏の「Fate」と、「沙耶の唄」だけでしたね…… 「Air」もDream編で止めてましたし…

私にとって「月姫」という作品も「遠野志貴」という主人公も、未だに物語を選定する基準として残っています。初めに触れた作品が「月姫」だからこそ、これと同じ水準の物語を探してこの業界にのめり込んでいったのです。

おかげで多種多様な物語に触れることができました。ライターの奈須氏のこの上ない感謝を捧げ、月姫リメイクを命尽きるまでお待ちしております。








この先は余談ですが、Fate世界の造詣が深まるにつれ、月姫の舞台の世界がまったく異質であることが明らかになってます。

人理定礎という新たな概念を導入した型付世界において、月姫は「人類に厳しい、人類の立場が弱い世界」である模様。

ならばFateの世界観、即ち「英霊システムが存在し、人類種の守護者が存在する世界」ならば、人間が自身を脅かす吸血鬼などの「魔」に対抗するために生み出した「退魔」、そしてその「退魔意思」を先鋭化させた異常極まる一族「七夜」も実は存在していないのではと思ったりします。