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fusenekoさんの螺旋回廊2の長文感想

ユーザー
fuseneko
ゲーム
螺旋回廊2
ブランド
rúf(ruf)
得点
97
参照数
1324

一言コメント

ネットで祭られてフルボッコにされる恐怖(と快楽)。怒りと悔しさと不安と勃起で今夜も眠れなくなる傑作NTR

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

僕にとって初代・螺旋回廊のEDENはどこか神話的な薫りが感じられるものであった。それはネット環境が決して日常的ではなかった時代の「異界の恐怖」を描いた物語だったからであろう、ということを『螺旋回廊』のレビューで書いた。

対して今作の世界観におけるネット環境は、すでに日常の一部として定着していると言ってよい。普通のOLが気軽にネットオークションを利用していたりする『螺旋回廊2』の世界においては、もはやネット内の欲望は薄皮一枚隔てた日常と隣り合わせており、物語はサイコホラーではあってもオカルトではなくなってしまった。それだけに人間の恐ろしさが生々しく感じられるのだ。

前作の秘密主義・規則絶対尊守なEDENと比較すれば、今作のEDENは遥かに人間的・享楽的な傾向にある。EDENのマスターは最初からプレイヤーに顔を見せてしまうし、彼らの行動は非常識ではあっても理解不能ではない。彼らを動かすのはまず金銭的利益であり性欲であるが、なにより際立つのは「他人の不幸でメシが美味い」という、いまやネット内でありふれてしまった純然たる悪意である。もちろんそういう悪意自体は大昔から普遍的に存在していたのだろう。だがそういう感情は、けして表に出してはならない穢れ(untouchable)のようなものだったはずなのだ。ネットの普及は良くも悪くもそういった穢れを「異界」から汲み上げ、白日のもとにさらけ出す結果となってしまったように思える。

前作と違い、今作の主人公はネットに精通し、自分が巻き込まれた状況をいち早く把握する。だが自分の置かれた状況を理解できるからこそ、その絶対的に不利な状況に青ざめてしまうのだ。それは前作主人公の陥った無知ゆえの恐怖とは似て非なるものだ。

おそらく今作のEDENメンバーには、前作のようなEDEN独自の絶対的ルールなど存在しない。ただ悪意の共有をもって当たり前のように結束し、楽しそうに生け贄を祭り上げる。そして程度の差はあれ、そういう悪夢のようなチームワークを働かせる人間たちが実在するであろうことは、もはやネットを見渡せば疑いようのない事実だろう。それゆえに、この物語の描く「ネットの恐怖」は、僕にとって極めてリアリティの感じられるものであった。

展開にもよるが、EDENから逃れた主人公たちは緩やかながら元の生活を取り戻してゆけるのも、前作との比較として面白いところだ。もはや日常的にネットの悪意とつきあっていかなければならない現代においては、それは希望的観測かもしれないが、救いのある終わり方だと思えた。


ちなみに、初代・螺旋回廊から2にかけて「異界の恐怖」から「日常に潜む恐怖」へと変遷を遂げたインターネットの世界であるが、それでもまだ、広大なネットのどこかには「異界」と呼べるような領域があるのかもしれない、という前提を踏まえて描かれたのが神無木頼子シナリオなのだろう。

だからこのシナリオは神秘的で、オカルティックで、結局わけが判らないまま終わる。
彼女の世界こそが、初代・螺旋回廊から変わることのない真の異界───EDENなのだ。