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eroger_tさんの家族計画 ~そしてまた家族計画を~の長文感想

ユーザー
eroger_t
ゲーム
家族計画 ~そしてまた家族計画を~
ブランド
高屋敷開発
得点
85
参照数
183

一言コメント

短いながらもテキストが染みる良いゲームだったと思います。土手で末莉と司がした失ったであろうものと与えられたものについての会話や、換気扇の話とかは特に好きです。長文は9割自分語りなんで読まなくていいです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

家族の中で、とても生きづらかったことを覚えている。
よく想像できない将来や大人になったときのことを盾に自分の敷いたレールを走らせようとする母親。
子供にはめったに暴力は振るわなかったが家や物を破壊する父親。(まぁ無関心なだけだったのかもしれない。子供の頃に交流した記憶がほとんどないから。)
当然両親は不仲だった。年に一度の家族旅行では毎度のごとく喧嘩をし、小学校中学年に入る頃には行かなくなった。
ディズニーだったかユニバだったか、喧嘩の末に母親が泣き始めて、両親が別行動をとったときは何一つ楽しくなかったから、無くなってよかったのかもしれない。

そうした背景からか、小さい頃は兄に懐いていたような気がする。ただ僕が生意気だったからか、そもそも周りをウロチョロする弟が疎ましかったのか、反抗期に入ってからの兄にはよく殴られた。
生意気な口を叩いては(そうしないと無視されていた)石を投げられ、腕を殴られた。できた青あざも繋がりのような気がして、クラスメイトに青あざを見せびらかしたこともあった。当たり前のようにドン引きされたので、申し訳ないなぁ、と今更ながら思う。
笑い話のようだが、小学生のころ、家庭環境の悪さから一時期クラスメイトたちの間で両親不仲による離婚説・海外への引っ越し説が流れ、それが信じられていたことがある。僕が全く知らないうちにクラスメイトの中では僕はあと半年もしないうちに引っ越してフランスに行くことになっていた。なぜフランスなのかは今でも分からない。

中学にあがるあたりから徐々に、親同士の喧嘩だけでなく親と子での喧嘩も増えた。高校生になっても、大学生になっても、順当にすれ違ったまま。家は居づらく、自分の行動を決められることも、自分を理由に両親が喧嘩することも、家族の誰にも心を許せなかったことも、全てが嫌だった。

大人になり親元を離れ自立した今にして思えば、母親は夫婦仲が悪かったからこそ、子供だけはしっかり育てたかったのかもしれない。事実ネグレクトのようなことはなかった。
父親も辛い仕事の中、経済的負担を一身に背負ってくれたので、生活に困ることはなかった。自立するまで生きることが出来たのは家族のおかげであったことは間違いない。今は両親とも兄ともそれなりの距離感でいられていると思う。(兄は籠りがちなので年単位で会話していないが。)

反面あの居心地の悪さは、不平不満を飲み込んで、空気を読み、迷惑をかけずに、というよりそれ以上居心地が悪くならないように生きようとする精神的な自立を早期から強いたと思う。
今でも覚えてる。小さい頃(小学校低学年くらいだっただろうか)に家族で中華料理屋に行ったとき、ラーメンに入ってる海苔をスープに浸すか浸さないかで両親が喧嘩したことを。父親と兄は浸さず、浸す母親を糾弾していた。
泣く母親を尻目に味方を増やそうと詰めてくる父親と兄に、どっちも好きだよと答える僕。今にして思えばめちゃくちゃくだらないし、そもそもその中華料理屋で食事をしている他の方々の空気を考えろと言いたい。ギャグだろうか?と思うほどシュールな光景だが、当時はとても心を痛めていた。

自語りが長くなったが、だからこそ、家族計画の後の司がどう生きたのか、形成してきた人間関係や価値観の集大成をあかりとの交流や末莉との会話で描きながら、家族制度の損益も人間関係の美しさも汚さも認めて、それでも人と人は関わらずにいられないことや関わってほしいという願いを書いてくれたこの作品が好きだ。
身体はほとんど転ばなくなったし、もし転んだとしても自分で対処できるようになったから、幼い頃のように家族の手を借りる必要はないけれど、心は今でも転んでばかりな気がしている。痛みに喘ぎながら一人立ち上がらなければならない。だからといって結婚して子供を作る一般的な家族を作って、手を引いたり手を引いてもらったりしたいとは今はもう思わないが、生きづらい人たちが生きづらい中で、相互扶助しながら生きていけたらいいなとは思う。