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eroger_tさんのMissing-X-Link ~天のゆりかご、伽の花~の長文感想

ユーザー
eroger_t
ゲーム
Missing-X-Link ~天のゆりかご、伽の花~
ブランド
Fluorite
得点
91
参照数
357

一言コメント

遊離ちゃんの歪な魂が好きすぎる。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

脆い心で歪んだ強固な愛情を与えて求めようとする姿は僕の心に刺さるので、そこが一番好きだし、
ハジラブの当ライター担当ルートで感じた強みだったため、
本作品でも感じられてよかったなと思います。

僕にとってSF部分は舞台装置的な意味でしかなくて、割とどうだってよかったのだけれど、
造られた心が物語で物語がその人の魂であることや、行動や言葉に魂が宿る考え方は好きです。
他者を知りたいと思ったときに行動だけを見るのも、言葉だけを聞くのもきっと不十分で、
言葉と行動が他者の物語の一部を作り、魂の形を類推する根拠となる。
同時に、どちらも欺けるのが人間であるという思想はとても馴染みある考え方だったし、
それが敷衍されていくドラマを見ていくのはそれなりに面白かったです。
晶さんも、ひなも、遊離も、姫風露も個別ルートでは言葉と行動に嘘があって、
その嘘を暴いたり、解きほぐしたりするのが展開の肝だったように思えます。

つまるところ人間を人間足らしめるのはやはり魂であり、肉体ではない。
故に姫風露も人足り得て、義体とのリンクが可能だったのだろうと解釈しています。

散桜花ルートは言葉と行動で嘘をつき続けて、魂の消失から目を背けている話ですが、
ああいう話が好きなのは、普段から僕が言葉も行動も欺き続けているからでしょう。
偽物で満足しようとするということは、本物を何よりも思い出す行為ですから。
手から零れ落ちた大切なものを、言葉や行動の嘘によって、相対的に、そして遠回しに愛でている姿が、
いつの日かなくした何かや、最初から持っていなかった大切なものや、いまだに見つからない大切な何かを
求めながらも手に入らず、求めていない、満足していると嘘をつき続ける自分を慰めてくれるから。
…ひどく醜い自己分析だなぁ。

完全に失ったものは取り戻せないと信じているからこそ、
一方の死という絶対的な離別を前に、取り戻そうとするFinal chapter~優灯エンドは嫌いです。
ただ、壊れながらもお世話する姿は胸に来ます。栄養剤を口移ししているところとか大好きです。
意思なき言葉と遺志だけの行動がなぞる愛情は神性すら感じられます。
あのシーンが嫌いな展開から生み出されなければよかったのに。


さて、展開の話になったのでドラマの部分に話を移しますと
成長(?)のおかげで、銃の打ち合いや電脳世界のバトル展開は省略しちゃってもいいんじゃないかと思っちゃうんですけど、
散桜花や晶さんの立ち位置は少年ジャンプとかで学んで以来、後生大事にとっている童心をくすぐりました。
僕が歪む前から好きだった部分も、歪んだ後に好きになった部分も、同時に提供してくれたのはありがたいなぁ。

命を賭して物語を全うするとか、ピンチの時に駆け付けるとか、眩しすぎて直視は難しいけど
そういえばこういう展開好きだったなって懐かしむような温かさを感じます。
手放しに誉められないのが悲しくも苦いけれど、代わりに得られたのが
歪で面倒くさくて重たい愛情への渇望であるならば、そんなに悪くないかもしれない。

好きなヒロインを見て何故好きなんだろうと考えたり、
馴染みのある価値観を見ていつから馴染んでしまったのだろうと思いを馳せる。
普段ついている嘘を一つ一つ暴いていく。
そうした自己対話によって汚い本物をまた思い出して、創作の美しさを感じる。
もはや僕にとっては偽物に浸るほうが幸せなのだから、僕はきっと恵まれているのだと思います。