氏が書く物語としては正直そこまで面白くはないし特筆したい価値観があるわけではないけれど冥堂羽月ちゃんが生まれただけで価値がある。
以前近江谷ヒロインの可愛さの根幹はIQの低さであるというツイートを見て、なるほど。と思ったが彼女はまさしく近江谷ヒロインの良さを体現していたと思う。ただ、簡略的で誤解を恐れずざっくばらんにかいつまんで言ってようやく「IQが低い」という表現になるという形なのかな?とも思った。
冒頭にて、自称スーパーエリートの彼女が「やいのやいの言わないで!頭ごなしに色々言われるのすっごい嫌いなのっ」と言っていたシーンで、この子こそが近江谷ヒロインの象徴となるだろうと感じたが、直感は正しかった。
初回のやり取りを始めとした随所でディスコミュニケーションすら感じる彼女が細やかな気配りをし、勢いで振り回したかと思えば根っこの優しさが垣間見え、不遜な言葉の裏には甘えや純粋さが感じられる。これは逆も然り(甘えたかと思えば不遜な言葉でごまかしたりといった具合)で、単体ではマイナスな面を別の面との相互作用でプラスへと変えた上で、変わったプラスが別の面のプラスを更に際立てている。
本当に見事なギャップとバランスで、氏はマイナスをプラスへと昇華するある種の幼さの表現がとても上手だと思う。(ワルエレのクルルやパフ、猫忍のゆら、アンレステルミナリアのルチアや、竜姫ぐーたらいふ3のメイなんかは、言葉や行動のマイナスを行動や言葉でプラスに変えるという意味でこの系譜だろうか。このへんがIQの低さを感じる要因の一つだろう。)
もちろん前述したギャップも彼女を好きになった理由に違いないのだが、特に好きになったポイントは、彼女は自身の高慢さに対して自覚的であり、変えられない自己として受け入れて愛しながらも、それが引き起こす人間関係の不和に怯えている点だ。
終盤の「私は今までもこんなだし、これからもずーっとこんなだけど……なるべく頑張るからね?」というセリフのなんと健気なことか。
これからも忘れたくないヒロインの一人として、出来るだけ長く心の中に居座っていてほしいものである。