監禁凌辱としては一歩及ばず、蒙を啓くには当たり前過ぎた。
もしもこれだけの好条件が揃い監禁できるのであれば、まずは徹底的に尊厳を破壊すべきである。そのためには暴力と人格否定の鞭と快楽等の飴で奴隷としての自己を規定させ、思考を染めることが肝要だが、非情さが足りず回り道が多いためヌルく感じる。隷従や性玩具にするエンディングもあるが、元より着地点を明確に定めていなかったから外圧によって強制された選択の結果でしかない。
出発点が恋愛感情であるにも関わらず、肥大化した自己が自己分析を曇らせて、本物の世界をつくるなどという胡乱な目的を掲げてしまう。そうして白井美月の精神を残したまま自分を見てほしいという本当の欲求を解消するための手段を間違えたまま進んだ結果が行き当たりばったりの凌辱なのだ。
逮捕ENDで美月は彼女がこれまでの人生で培ってきた良心に従い、高熱に侵された主人公を看病する。それはつまり彼女の尊厳を破壊できなかった証左だ。案の定、可塑性の傷を与えてはおらず、主人公の逮捕後に彼女は心を癒やし夢を叶える。最後まで監禁凌辱をした犯人という無機質な情報以上の認知をしていないがためにタクシードライバーになった主人公にも気づかない。
逆にTrueENDでは勘違いでしかない主人公の優しさを何年も経った後でも覚えており、台風で視界の悪い中でも伝わった声で特定してみせた。彼女はなんとも義理堅く正しく真っ直ぐ育った女性で、たった一つでも優しく接することができたなら彼女の視界に容易に入れたことが明かされる。
主人公だって無機質な情報を集めて白井美月を理解した気になっていただけで、理解などできていなかったのだ。勝手なイメージを膨らませて他人を分かった気になり、認知されるための行動を起こさないバカらしさがよく描けている。(だからこそ知るのも知られるのも恐ろしいのだ。曖昧にしたままで、知らないことにも知られていないことにも自覚的でありたい。)
提示されたメッセージも当たり前の話で、出発点もありきたりな恋心だったからこそ、間違え続けたことや中途半端さに軽蔑してしまう。もっと振り切って恋愛感情の刷り込んだり神格視をさせていたら、あるいは壊れていくヒロインの内面が描写されていたら、また評価は変わったと思う。
ただこれは作品が悪いわけではなく、こうしたある種の若さを受容できなかった自分に問題があると思っている。天地がひっくり返っても自分が行わない行動への無理解や軽視、想像力の欠如が物語を読む上での致命的な欠点なのだと認識しているからだ。(人付き合いにおいては表面化させず攻撃的にならず、適切な距離を取ればよいだけなので致命的ではない)
物語としてよくできているし実用性もあり、寂寥を伴う読後感も決して悪くなかったが、個人的には中途半端さが目立って物足りなかった。
遺言
・ウンチ出ると真に迫った絶叫ができる声優ってすげぇなぁ。
・隷従エンド?で偽の世界だと気づいてから勉強や人間関係もうまくいって女にもモテはじめたみたいなテキストをみたとき、なんだか進◯ゼミみたいだなと思いました。
・白井美月の陰毛が濃いというのは解釈一致で大変に素晴らしい。きっとなんとなくいやらしい場所に触れることに忌避感を覚えつつ、整えるというのも誰かに見られることを意識しているようではしたなく感じているのだろう。