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eroger_tさんの純情セックスフレンドの長文感想

ユーザー
eroger_t
ゲーム
純情セックスフレンド
ブランド
夜のひつじ
得点
83
参照数
294

一言コメント

最後のタイトル画面は天才的な発想だと思います。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

きっかけは愛とか恋とかを信頼できない厭世観からですが、最近人を形作るのは何だろうと考えていました。
思いのほか僕らは曖昧で、輪郭がぼやけているのではないだろうか、と。
周りの人間と合わせていくうちに趣味や嗜好、言葉の端々が変わっていく経験をしたことはないだろうか。
あるいは、そういった人を見たことはないだろうか。

環境が人の輪郭を形作る。囲まれているものの形が自分の形になる。
それは、囲まれているものの形をコントロールできるのなら、他者の形を規定できるということに他なりません。

大切なものがあり彼女がいた主人公は重大な怪我と挫折によって状況に大きな変化が起こる。
サッカーに打ち込める自分、人間関係がうまくいっている自分、そうした自分を好いている彼女という状況が、
主人公を囲み、形作っていたのに、怪我によって綻びが生まれる。
後ろ暗い気持ちと浅ましい欲望を使って、その間隙を縫ったのが透であり、囲まれた状況をコントロールしたわけです。
とことんまで自己否定をさせて、過去との決別を促し、快楽に支配される存在を規定した。
あとは勝手に自分はそういう人間であるという思い込みが、その枠を維持し続ける。

他者の中に映る自分を見て、よりよくあらねばと思うのは当然の心の動きであるとは思います。
鏡を見て身だしなみを整えるのと同じように、社会で生きる上では大事なことではあります。
本当はネクタイなんて外して第一ボタンを開けて生きたいのに、鏡を見てだらしない自分を自覚してしまったらネクタイを締めずにはいられない。
当然、ネクタイは締めすぎれば苦しいから、何事も適度に、他者と自己の間を見たいものです。
なかなかうまくいきませんが。

話を本編に戻すと、未弥の存在はなかなかにイカれてて好きです。
普通の人間は愛情と欲望が両立していたり、欲望を愛情で繕ったりするものです。
「嫉妬だけが欲望を証明してくれる」
「・・・でも、嫉妬は愛を証明しない」
結実にて自分と同じところまで落ちた未弥を見て嫉妬ではなく親近感と愛おしさを感じている。
未弥は未弥で汚いおっさんに抱かれながらも主人公への愛を繰り返し紡いでいる。
嫉妬を絡めない視点は、欲望の存在を否定しています。
欲望を介して他者を見る透が嫉妬しているのも、対比として分かりやすいのではないでしょうか。

純情セックスフレンドは、結実での未弥と主人公の関係性のことなのかもしれません。