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elevenさんのあるぺじお ~きみいろのメロディ~の長文感想

ユーザー
eleven
ゲーム
あるぺじお ~きみいろのメロディ~
ブランド
SIESTA
得点
75
参照数
1100

一言コメント

正統派ヒロインでありプレイヤーが一番初めに攻略するであろう北見ちさと。彼女のシナリオを構成するテキストがオナニーテキストであったのが、この作品やプレイヤーにとっての最大の不幸だったように思う。あれのせいで著しく評価を下げているのではないだろうか。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

体験版部分である序章の出来は、このゲームを買ってみようと思わせる程度にはよく出来ている。淡い画面作りや緩やかにながれるBGMはテーマである「初恋」を見事に演出し、一昔前の恋愛小説風な雰囲気はプレイしていて心地よかった。
しかしこの体験版部分も改めて製品版を購入しテキストを読んでいくと、「オナ・テキ」が見え隠れし、何かがおかしいと思うこともしばしばだった。
この「違和感」に気づけなかったのは製品版を買おうと決めた時点でスキップモードにしたためだが、まったく「してやられた」と言うしかない。

長い序章を終え、個別ルートに入ったあたりからオナ・テキは全開モードとなっていく。前後と一致しない文章、意味不明な単語の使用等、シナリオに集中させないテキスト作りは最悪。初っ端からあんなものを読まされてしまっては他のシナリオの出来がどうであれこのゲームに対して良い印象は持ち難い。
あれに躓いてゲームをやめてしまったプレイヤーは少なくないのではないだろうか。
読み直し、辞書を引き、推敲し、他人に読ませ、客層を意識するというプロとして、基本的なことが出来ていないと言わざるを得ない。
ちさとシナリオのオナ・テキを読み終え、このゲームに懐疑的な感情を抱いたままプレイすることになるプレイヤーや他のヒロインにしてみればまったく迷惑な話であった。

またちさとシナリオに限らず全てのシナリオで気になったのが描写配分について。
主人公が海の死や自分の音楽に関して「悩む」描写はしつこいほどなのに、「解決」や「告白」といった重要場面に限ってその描写を省き、今まで悩んでいたのはなんだったのかというくらい安直に話しを収束させてしまっているのはどうにもいただけない。
あれでは感情移入など出来るはずもない。一番酷いのは告白したとたん、その場でHをするという流れ。そんな展開この主人公ではありえず、手を抜くのもいい加減にしろと言いたかった。

とはいうもののそういった問題点を抜きにすれば結構普通に楽しめたと一応フォローはしておく。
以下各ヒロインルートについて。
1、ちさと
カップルになった後のシナリオがヒロイン中一番長かったのは正ヒロインゆえか。
ただテキストが酷いおかげで無駄に長いと感じた。
シナリオ自体はあれでも良いとは思うが序章であれだけ拘ったのだから「ホワイトアンサンブルに出場し成功する」という王道シナリオでも別段良かったように思う。王道展開は正ヒロインに許された特権だろうし。なんにせよライターに恵まれなかったとしかいいようがない。
2、なるみ
ちさとルートから分岐。ちさとルートのおまけ程度の作りであまりの短さに拍子抜けした。後半部分ではルートに関係なくテキストと立ち絵が一致しないことが多々あり残念。
3、絢
このゲームにはそれなりな出来のシナリオが二つあるが、これがそのうちの一つ。
変な外人訛りと口癖を気にしだすと楽しめないのが難点だが、このゲームに期待したシナリオを担ってくれている。
エンディングの音楽と演出はいい感じでちょっと感動した。
ただこのルートでの、ちさとの放置っぷりには同情を禁じえないものがある。
4、ハル
絢ルートから分岐。
主人公の良き理解者という立ち位置がなるみとかぶるが何もシナリオのおまけぶりも同じにしなくても・・・。こちらもエンディングの演出は良い感じ。
テケテケと登場するシーンはいつ見ても和んだ。
5、更紗
まともシナリオその2。
やや独りよがりなテキストではあったが、問題なく読めた。
が、陸を好きになる過程は描写不足でいまいちだし、事故だったとはいえ「海が死んだのこいつのせいだよな」という事実を許せるほどの、葛藤や苦悩を描ききれていなかったのは残念だった。
また最後のラジオ放送で「DJ MAO」の格好に変装していないことの説明が一切ないのはいささか問題があるような。まあ最後の演出上仕方なかったのかもしれないが。
しかしながらエンディングは一見の価値あり。海原エレナが歌う曲には度肝を抜かれた。最初は別人かとも思ったが、スタッフロールを見る限り本人のようで「あんな声も出せるんだ、スゲー」としかいいようが無い。感動した。
エピローグはそれはどうなんだろうと首を傾げてしまったけれど。

総括。
絵、演出、歌、シナリオ等基本総合75点。
エンディング演出(特に更紗)、+10点。
テキスト(ちさとシナリオ)、ー10点。

よって総合75点。
普段はマイナス点なんぞ考えないんだがあれはあまりにひどすぎた。
自分でいうのもあれだが、高得点レビュアーな私に70点台を付けさせるとは・・・