少女達を囲む"現実"とこころを巡る良質なダークお伽話 長文は前半ネタバレ無し
(前半ネタバレ無)
Liarは初です。
まず、とにかくこれエロゲ?って言いたくなるような幻想的な絵が目を釘付けにしてきます。
ゲームの中で期待が裏切られる事は一切なく、ため息を吐きたくなるような精緻なステンドグラスめいたCGには本当に惚れ惚れします。
彼女たちは本当に美しく、また少女らしい無垢さや脆さを画面越しに感じるし、
それがシナリオと混ざり合い、どうしようもない所感に浸らせ、少女達を心から守りたいと思わせる。
本当に良い絵だと思います。エロいし…(抜けないけど)
絵買いしても裏切られないかと。
御伽話症候群(フェアリーテイル・シンドローム)と称された病気にかかった一人の少年と少女達が、
その病気と自らの心や記憶に立ち向かっていくというお話なのですが、
表向きにあつらえたその設定の裏には色々な物があり、各ヒロインのルートを辿る事で少しずつ裏側が見えてくるという作りです。
一人のルートを終わらせる事で得た真実がその後のルートの見方を大きく変える事になると思うので、
辿り方次第で途中のプレイ感は変わるかもしれません。
(個人的にはゲルダ→ラプンツェル→グレーテル→オディール・オデットの順が良いかなと思います、アリスは最初とグレーテルの後ろどっちがいいのか悩む)
ミステリー的に情報整理や推理をしつつ読み進めて行く構造上いくばくかの謎を抱えつつ攻略する事になるのですが、
グランドルートで綺麗に回収されているので悪い不安感などは持たなくても大丈夫です。
フラグの整理はかなり丁寧で、読みながらしっかり情報を整頓していけば終始気持ちよく読み進められると思います。
(もしかしたら、推理本を読み慣れている人などにとっては丁寧すぎるかもしれませんが)
気持ちよく読み進められるという点では、文章の描写もそれの一助になっています。
基本的には主人公くんの視点で物語が綴られるのですが、彼は理知的で冷静ないい奴なので共感しにくいなどと言う事は無く、
諦めがちな性格によって弱気な選択をする時でも、しっかりとした心理描写で彼の選択に違和感を持たせません。
心情描写もそうですが、状況描写なども時に詩的ですぅっと心に染み渡るような文章で、個人的にはかなり好きな文です。
全体的に腑に落ちるというか、温度を感じられるように丁寧に書かれていると感じました。
ややくどく感じる人も居るかもしれませんが、子供や御伽話をテーマとした作品には似つかわしく思います。
システムについては、バックログと右クリックで窓消しじゃなくメニュー出てくるのが不満ですが(かなりオールドタイプ)
まぁ糞スキップとかの本格的に不快な奴は無かったので良いかな…… フォント変えられたし。
あと全シーンに回想があるのは中々嬉しかった。目当てのシーンを探すのはやや手間ですが……
全体として、プレイして良かったです。
とても丁寧なつくりなので、内容や絵に興味を持っているなら是非。
↓言いたい事沢山あるのに大体言えないので以下ネタバレ *禁未クリア読*↓
絵ほんといい……
アリスがナナシ君に抱きとめられたCGとかあの絵だけで恋に落ちたんだっていう説得力100%で最高だし花火も最高だし
白鳥姉妹はダンスしてる時の偽オデットが可愛すぎて死ぬしTrueの逃亡時オデット可愛すぎかよってなるし
グレーテルは抱きしめCGで壊れながら泣く表情に胸締め付けられまくりだし
最後の皆で手握って空飛んで笑う所マジ……お前……ほんま……
なんかこういう時に尊いって言葉使うんだなって思いますね
最後は涙の出るようなハッピーエンドで、"物語り"の終わりはやっぱこうでなくちゃな!と思いました。
つっても彼女らのほぼ全員にとって、これから歩んでいかなければならない現実は楽園より極めてバッドである事は想像に難くないのですが。
願わくばゲルダとナナシ君以外の子達も、現実を戦い抜き幸せを勝ち取って頂きたい。
というかアレですね、グレーテルの破壊シーンに興奮したりこんな施設あったら俺も猿になるなとか思ったりしてると、
自分の下卑た汚さを突きつけられるようで中々苦しいですね。お前らもこの豚職員共と同じ穴のムジナなんやぞ的な…
普段のエロ創作物に対する見方も、なんだか後ろ暗くなってきます。
ヒロイン所感
・アリス
根っこが良い子なので言い回しは迂遠でも素直に好きになれる子ですね。作品内でもゲルダやナナシ君が言ってますが。
典型例的に症候群にハマっていた分、正気を取り戻しかけてからはなんだかゾクゾクするような感覚で見ていました。
正気を取り戻してからはかなり頼もしくて、良い子だなぁとしみじみしてました。家族が愛するのもさもありなん。
声良かったですね。裁判フラッシュバックの時の迫真の絶叫は本当に良かった。
こういう演技とテキスト演出が合わさって初めて、あの剥き出しのもろいこころを串刺しにしたようなシーンが出来たんですね。
声優さんに感謝。
あと上でも書いたけど木から落ちた時のCGは本当に美しくて、本当に尊い。恋に落ちるってどういう事なの?に対する完璧な回答。
告白シーンの言い回しも最高でしたね。
・グレーテル
症候群に飲まれていた時はとても無垢な少女で、か弱い妹属性は庇護欲をくすぐります。
一方で、アリスと共に行動する事の多い中で記憶の忘却や混濁の多いアリスを補佐するしっかりした一面も。
いつの間にやらナナシ君みたいに彼女を何が何でも守りたくなってました。
ラプンツェル√のグレーテル破壊のシーンではその直前のマップ画面で察して選びたくねー…とか思って暫く止まってました。
正気を取り戻した彼女はぐっと大人びて、頼りに出来る一人の人間になってて、良かったです。
あと声がやばい。脳が…
舌ったらずさが幼女のそれを思い出させるレベルなんだけどそれは幼児退行したからで、
正気を取り戻したり別のペルソナを被ってる時はちゃんとした滑舌なのも素晴らしい演技だと思います。
・ラプンツェル
個人的に胸に来るような所は正直余りないんですが、彼女のような大人の人が居るという事がとても大きな事だと思います。
全員が子供だと、ともすれば陳腐なおはなしの雰囲気を脱せないように思える所を、彼女の存在が引き締めてるような印象。
一番重い物を最初から抱えてた上に残された物は何もなく、更に或いはもう妊娠は出来ない身体なのかもしれないし、
それ以外にもこれから彼女に降りかかる物など考えると憂鬱になりますが、どうか幸せになって欲しいですね。
・ゲルダ
最初から彼女の"マトモ"な人間っぽさはかなり好意的に映ったんですが、それゆえに翻弄され続けるのが見てて辛かった。
グレーテル√での凌辱の末の投身自殺はかなりきつかったです……
彼女の芯の強さは時に頼もしく、時には悲壮に映ったものですが、
高潔な善さの象徴として最後の最後までブレなかった彼女は本当に好きです。好きにならない訳がない。
おもくそドラマチックにナナシ君の正妻の座に座った時には、報われて良かったと本当に思いました。
結婚して子供もできたようで何よりです。 ゲルダだよね?「まるで鎮魂歌ね」なんて他の人言わなそうだし……
一方でピーターのEDの方では、彼女の砕けない意志が彼女を殺すというあんまりな結末。
最後のナナシ君の欠片が涙としてピーターから吐き出されて、ゲルダという人が終わった時には、ものすごい寂寥感に苛まれました。
最初にバッドの方からやって心から良かったと思えました。如何にTrueが良くても読後感最悪になってた気がする……
・オディール
俺の推理をめちゃくちゃに引っ掻き回した悪い子。
推理苦手ってのもあったんですがナナシ君みたいに翻弄されてしまって、ルート終わった後も意味和漢内って感じでした。
彼女の心境は個別を終えてもあんまり分からなかったのですが、精神内の対話と日記の覗き見ですんなり来ました。
全てがオデットの為に動いてるんだなと理解できたら、これまで抱いていた胡散臭さも霧消して素直に良い子と思えるように。
『"見えるがゆえに"両目赤、或いは両目金である事を疑わない』という瞳の色の叙述トリックはめっちゃ脳汁でした。
前髪がかかった目が主線だけになるとかありふれた二次絵表現なのにそこを利用してくるとは……という。
あと舞踏会での偽オデットは本当に意味わからんくらい可愛かった。これはそらコロリと行きますわな……
・オデット
淫売なのか…?とかなり疑ってたんですが、本当は天使だった。
キャラ的に惹かれるというよりは絵が本当綺麗で……誘蛾灯のように引き寄せられるボンクラ共の気持ちが分かる。
そんでもってナイフで人を殺すCGでは双子故にどちらが犯人でどちらが目撃者でもあてはまるという事に気付かず、
最後のつみびと回答編でも答えを言い当てられなかった。つらい
最終的には強い所を見せてくれましたが、オディールが居れば大丈夫でしょう。
刑務所に面会しに来るオディールが目に浮かびます。その時に流れる、姉妹の間の暖かい空気も。
かわしまりのって凄い人だなって思った。声優ってすげえマジで。
・他
ナナシ君はかなり好きな主人公でした。というか文章が上手くていちいち心情とか弱さとか理解できてしまう。
ゆっくりと女の子を大事にしながら信頼を得ていくのは見ててなんだか気持ちが良かった。
でもレクイエムルートではちょっとキミ名探偵すぎん?俺がアホなだけか……
いいゲームでした。