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daitetuさんの加奈 ~いもうと~の長文感想

ユーザー
daitetu
ゲーム
加奈 ~いもうと~
ブランド
D.O.(ディーオー)
得点
85
参照数
238

一言コメント

戯言あり。ある意味アダルトゲーム。Hよりもストーリー、シナリオ重視の方なら、やるべきです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

戯言

 この作品は死を真正面から捉えたエロゲーとして、他に類を見ない出来だと思います。
設定自体は誰が見ても平凡だと思います。
「死」を物語上の演出として使うのは珍しいことでは無いし、ヒロインが不治の病で、さらには血のつながらない妹という、一昔前の少女漫画やジュニア小説で使い古されていたものであるのは間違いありません。
ですが、そんなありきたりな設定にもかかわらずこの作品が優れていると言えるのは、死に際した者を愛や奇跡に逃げ込ませなかった、そしてその「臨終」を、残された者の心の機微を、最後まで描ききれたところにあると思います。
また幼年時代から主人公と加奈の関係を描いたり、ヒロインを一人だけにして嫌が応にも感情移入させる等、これらの手腕はあざといぐらいの上手さです。

 さて、「死」をきちんと描くというのは本当に難しい事だと思います。
昔、黒澤明の『生きる』という映画をビデオで見て衝撃を受けたのですが、その作品でも巨匠ですら「死」というものを描くのに苦労しているのがわかりましたし、本作の『加奈』でもライターさんはかなり苦労したのではないかと思います。
「死」のやりきれなさ、恐怖…ハッキリ言って文章で表現しきる事は無理です。
何せこの「死」の苦しみこそが人生の苦悩の根源なのですから。
「それ」から逃れるために人間がして来たありとあらゆる事、それが歴史であり、文化であり、宗教なのだと言えるかもしれません。

んなの難しいモノに果敢に挑戦しているエロゲーだというだけでもこの作品は評価に値すると思います。
ちなみに自分はEDの一つで、主人公が加奈の墓前で録音されていた今際の時のメッセージを聞くシーンが心に焼きついています。
あの加奈の慟哭は、「死」という無明のものの本質の一端を描くことに成功した、エロゲーでも数少ない名シーンではないでしょうか。