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dacchi03さんのSteins;Gateの長文感想

ユーザー
dacchi03
ゲーム
Steins;Gate
ブランド
MAGES.(5pb.)
得点
89
参照数
2409

一言コメント

2002年にEver17と出合い、ノベルゲームというジャンルに興味を持った。2006年、そのEver17を世に送り出したKIDが自己破産し、もうあんな作品には出合えないのだろうと失意の中に…。そして2009年、KIDの意思を引き継いだ5pbが見事にやってくれました。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

【シナリオ・テキスト】 A
【音楽】 A    
【原画】 A
【演出】 A
【感情・その他】 A
【総評】 89点

読んだ順番は、鈴羽→フェイリス→るか→まゆり→紅莉栖→True

個別ルートを読んだからこそ栄えるTrueルート。
最初からTrueルート読めるのは考え物ですね…そこは考えて欲しかったところ。

各個別ルートで紡がれる大切な想い出は、主人公であるオカリンしかはっきりと持つことが出来ない。
そんな儚い想い出は以下のとおり。



○不可逆のリブート(鈴羽ルート)
暖かな人の温もりに飢えた少女に与えられた片道切符は、仲間と父との出会い、道中最後の想い出を。

○分離喪失のジャメヴュ(フェイリスルート)
ひた隠しにする自分自身、仮面に覆われた素顔は、失ってしまった父の愛と、父への想いを胸に抱き、泣きはらしたうさぎのような目をしている女の子に、父子との時間を。

○背徳と再生のリンク(るかルート)
ただ純粋で内に秘めた恋心を、新たな性によって内から外へ、相手へと想いを伝えられることの嬉しさを。

○透明のスターダスト(まゆりルート)
失意の底にいたときに、すぐ傍で支えてくれた人への感謝、いつしかそれは恋へと変わり唯一無二の存在に。
そんな大切な想いに気付けた最中に知ってしまう…親友の死によってしか成り立てない自分の生の危うさに。
そしてそれを変えようと前を見続け、歩み続ける愛する人の疲弊と親友の願い

「しあわせになって」

そんな二人の純粋な想いを。


○因果律のメルト(紅莉栖ルート)
共通の話題で激突しながらも共に同じ目的へと歩める仲間へ、そして弱音を吐き出せる親友に、そして愛する人の痛々しいほどの頑張りを、ずっと助け続けた最高の助手の想いを

「ねぇ、相対性理論って、 とてもロマンチックで―― とても、切ないものだね……」

自分を犠牲にしながらも、ただただ愛する人のしあわせを願って自分の心をおしつぶしてでも愛する人の背中を押し続けた彼女の想いを




個別5ルートにこめられた彼女らの想いをただ一人だけ背負っていける主人公オカリンの、自分の体と心をすり減らしながらも、前へ前へと進み続ける彼の姿勢に心打たれ、応援したくなる全ルート。
散りばめられた伏線を、次々に回収していく物語の完成度。
ラボの暖かな雰囲気、大切な人の死が迫っているという焦燥感、加速度的に盛り上がっていく雰囲気を見事に演出するBGM。
物語にリンクさせている詞が特徴的なVo曲。
可愛い絵とは言い難いが、不気味さと人の死を連想させる妙な生暖かさを感じさせると共に、清清しい色彩が放つ風景と共にあると、妙にマッチしているキャラクターデザインと塗りが良い。



TRUEルートへ至るスタッフロールの逆再生の演出も鳥肌物でしたが、上記にもある

「ねぇ、相対性理論って、 とてもロマンチックで―― とても、切ないものだね……」

この紅莉栖のセリフが心に深く深く残りました。
父に興味を持ってもらいたくてはじめた物理学、紅莉栖自身を構成するうえで根本になっている分野を使ったセリフは、ここまでこの物語を読み進めてきた読み手にとってこれほどまでに心に染みるセリフはないでしょう。

たった今読み終えたばかりですが、放心状態です。
読んでいる間には手に汗握り、どこでSAVEしてXBOXの電源を落とそうか終始悩まされました。
これほどまでにADV作品に熱中したのは久しぶりで、この作品のためにXBOX本体を買いましたが、一欠けらの後悔もありません。

素晴らしい作品をつくってくれたスタッフには、ただただ感謝したい。