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cyokin10wさんのヘンタイ・プリズンの長文感想

ユーザー
cyokin10w
ゲーム
ヘンタイ・プリズン
ブランド
Qruppo
得点
98
参照数
396

一言コメント

「ご安全に――――」この言葉に込められている想い、その優しい響きが好きです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想








特に素晴らしかったのは
全ての√のラストで、「もうこの終わり方しかないよね」と思わせてくれたことです。

千咲都√では、柊一郎には千咲都のそばでずっと千咲都の為の世界を創り続けていって欲しいと思いましたし
妙花√では、極妻ならぬ極夫(?)として妙花を支えていって欲しいと思いましたし
ノア√では、ノアと共にソフりんたちとも関わりながら、何気ない日常を過ごしていって欲しいと思いましたし

そして湊柊一郎の集大成を見ることが出来た柊一郎の√では

あの仲間たちで、常夏の青藍島で、面白おかしく過ごしながら、ゲームを創り続けていって欲しい

そう、思えたのです。


実際これは自分のエロゲ遍歴でも異例中の異例と言える事態で。


この作品の様に
TRUE√やそれに準ずるものがあるようなエロゲなら
やはりその√が、他のどれにも代え難い正史として心の中に残ることが圧倒的に多かったですし

そういう√の存在しない作品なら
一番好きになったヒロインの物語や
一番お話の流れの気に入った√の終わり方を
最も至高のものとして心に刻み込んできたのです。


しかるにこの『ヘンタイ・プリズン』という作品は

全ての√に惹き込まれ
全てのヒロインを大好きになり
全ての√の終わり方を尊いものとして受け止めることができた。

そのような作品に出会えたのはいつ以来でしょうか。

この完成度の高さ。
終わった後の満足感、熱をはらんだ余韻。

自分はこの作品に敬意を表します。

名作です。

プレイできて本当に、よかった。





























全裸は *** 蛇足 *** いいぞ



・とはいうもののやはり好みというものはあって
 一番好きなヒロイン、一番好きな√ともに、千咲都こと黒鐘伊栖未だったりします。

 だってああいう話なら

 伊栖未本人が柊一郎に支えられながら
 怖がられようが怖がられまいが胸を張って堂々と生きていけるようにポジティブな変化を遂げていく

 そんな終わり方を想像するじゃあないですか。

 でもこの√の柊一郎はそんな固定観念を吹っ飛ばして
 伊栖未ではなく世界の方を変えて
 今の伊栖未がそのままでも幸せでいられる世界を創ってみせた。

 自分にはそれが本当に衝撃的で。

 だって自分は
 これほどまでに、ただただヒロインの心情に寄り添って行動し
 ヒロインの為の世界を確保してみせた主人公を他に知らんのですよ。

 この√を終えた時点で湊柊一郎は
 史上最高のエロゲ主人公として、自分のエロゲ遍歴に刻み込まれたのでした。
 


・で、その千咲都こと黒鐘伊栖未の中の人、相模恋さん。

 今まで聴いてきた演技と全く別のものが出てきて本当に驚きました。

 どちらかというと、真っ直ぐに綺麗な声を出す御方という印象があったので
 ちょっとダミ声というか濁り気味の声を出す千咲都/伊栖未の演技はとても新鮮で。

 しかも頻繁にどもったり声がフェードアウトするように萎んでいったりを繰り返す喋り方の中で
 それでも豊かな千咲都の感受性を存分に表現してくださっておりました。

 作中で千咲都の声が「キレイな声」と他の人物たちから表現されているのは
 きっと相模恋さんのデフォルトの声が綺麗だから。

 たまーに千咲都/伊栖未が本当に、とても綺麗な声を出したりすることがあって。
 そんな時はそれをしっかりとボイス登録して、繰り返しうっとりと聴き惚れておりました。

 

・上履きの妖精ちゃん、最後まで浮き駒でしたね。

 立ち絵のあるキャラクターで唯一人、明確な役割を与えられていなくて。
 そのくせ妙に柊一郎に対しては好意的で協力的。

 水城所長に情報流してるのは彼女なんだろーなーと
 終盤まで結構本気で思っておりました(邪道の推理の敗北)。

 しかしそうなってくると一体なぜ彼女には立ち絵があったのでしょう。
 自分みたいに邪道の推理をかます不届き者へのミスリード?いやそんなまさか…………



・立ち絵と言えばこの作品は本当に立ち絵の使い方が上手かった!

 立ち位置や間の使い方、角度や奥行きの使い方
 喋ってる二人の後ろで全く違うことやっていたり
 場合によってはあえて見切れさせたりまでしながら
 笑いを取ったり恐怖や緊迫感を呼び起こしたり。

 色々やってくるので画面を見ているのが本当に飽きませんでした。

 で、この副産物ともいえるのがCG枚数。なんと81枚(差分抜き)。
 
 普通のフルプラ作品の倍くらいの長さがあるのに
 CG枚数はほとんど変わらないかむしろ少ないくらい。

 なのに、もの足りなさを感じさせないこの不思議。

 その答えこそまさにこの立ち絵芸の上手さなんですよね。

 余程の場面で無い限り、CGを使わなくても立ち絵で充分表現できてしまうのだと。
 そんなことを実践して証明してしまったこの凄さ。

 脱帽です。



・Hシーンは残念ながら性癖に刺さらず一度もお世話になりませんでした。

 そんなボクのアマツくんがこの作品内で最も元気になったのは
 逆茂木真城ちゃんが、ちょっと頬を染めながら舌っ足らずに言い放った

 「あんまりじろじろ見ないで」

 でありました。(即お気に入りボイスに保存)

 …………うん、自分はやっぱり少々ヘンタイなのかもしれません。



・十数年間、200本近くエロゲをプレイしてきたことで
 自分のエロゲに対する感性が昔に比べ摩耗してしまっているのは自覚症状のあるところで。

 昔だったらもっと楽しめて、もっと高得点をつけられたであろう作品たちを
 楽しみ切れないまま終えてしまうことが増えてきていた中で

 ああ、もう二度と自分は90点台後半なんて点数をつけることは無いのかもしれないな

 そんなことを思うところまで来ていたのです。

 でもこの『ヘンタイ・プリズン』という作品は
 そんなボクの屈託を丸ごと救ってくれて。

 エロゲというコンテンツそのものや
 自分の(摩耗し切ったと思っていた)感性に

 新たな希望の光を灯してくれました。

 改めてこの作品に敬意を。
 そしてこの作品を生み出してくれたクリエイターの皆様方に、感謝を。