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cyokin10wさんのハミダシクリエイティブの長文感想

ユーザー
cyokin10w
ゲーム
ハミダシクリエイティブ
ブランド
まどそふと
得点
88
参照数
1175

一言コメント

ハミダシた部分とクリエイティブな部分の双方を、濃いテキストを基盤とした濃いキャラ濃い日常を通して描いた、シナリオ〇テキスト◎キャラ萌え花丸な、レベルの高い作品。ただもちろん、濃い味付けが合わないと、終始胃もたれする可能性はあります。長文感想は半分愚痴で埋まっているのと、ハミダシ部分ばかり書いていて、クリエイティブな部分にほとんど触れていません。それをご承知の上、閲覧いただければ幸いです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想





〔父は理路整然と、解決に向かってしゃべる。
 明快に、冷静に、様々なことを難なくこなせる人特有のほほえみさえ浮かべて、しゃべる。
 父や、他の大人たちが言うことは、すべてわかり切っていることで、
 あたしがすでに何度も自分に問いかけたことだった。〕

(宇佐見りん著 『推し、燃ゆ』より)






とても穿った読み方で恐縮ですけど、この作品って

SSRどころかUR妹を引いたものの
両親を早くに亡くした上に
大人世界からも同輩世代からも排除されて
世を拗ねて半引き篭もりになっていた主人公が

大人の都合で半ば以上無理やり外の世界に引っ張り出されて
立場と責任を押し付けられて逃げられなくされて
似たような境遇の女子をあてがわれて篭絡された挙句

《更生》した主人公(とヒロイン)が
自分が元居た世界の住人たちに向けて
上から目線で説教をかましてめでたしめでたし

という、とても残酷かつ傲慢な物語ですよね。



全編を通じて通奏低音のように流れている説教臭さには多少辟易するものの
それでも最後の方までは、その説教は地の文やキャラの内省やらに収まっていることが大半で
概ね、目をつぶれる程度のものだったのです。

でも、最後の最後で

主人公が詩桜√で
あすみと華乃がそれぞれの√で

わざわざ言葉にして、大衆に向けて説教をかましてしまったのですよ。

それは絶対やってはいけないこと

智宏やあすみや華乃に、絶対やらせてはいけないことだったはずなのに。



だって主人公もヒロインも、そんなことをする人間じゃなかったはずなんですよ。



主人公もヒロインも、引き篭もっている状態と言うのが決して本意では無いのは
それこそ何度も描写されています。

それでも親戚一同にいらない子扱いされたり
妹を守るためとはいえ暴力をふるってしまった結果、同輩世界からもはじき出され
コミュニティというものに、大きな不信感と恐怖を持っているのが主人公ですし

頑張り過ぎて焦り過ぎて失敗してしまったあすみは
強圧的な教師に、権威ある父親に圧迫されて話をすることが出来ずにしおれてしまって
友人たちにも置いていかれてしまった結果、自己評価を大きく下げながらドロップアウトしてしまい

華乃に至っては一度失敗したところから、勇気を振り絞ってもう一度外に出たのに
そこでより深く傷つけられてしまい、引き篭もらざるを得なくなっている


外に出たい、もう一度世界と繋がりたい

でも失敗するのが怖いから、傷つけられるのが怖いから、また排除されるのが怖いから

そうしたくても出来ずに、かろうじて外と繋がっているなにがしか(絵でありVであり妹であり)を通じて
素直じゃない気持ちを交えながら、明るい世界を見つめている


そんな子たちなのです。


そしてそんな子たちだからこそ
『そうしたくても出来ない子たち』の気持ちが誰よりも分かっている。

周囲の《善意》や《説教》や《正論》や《当たり前》が時としてそういう子たちにとって凶器になってしまうことが
実感として解っている、そしてそれを慮れる、優しい子たちなのですよ。

共通√の前半部だったか(セーブ忘れててどの辺りだったか曖昧です)
本当に何気なく華乃に《当たり前》を押し付けかけた主人公が
華乃に謝る(内省しただけだったかも?)シーンがあります。

本当に些細なことで、私だったら気付きもしないようなことを謝る主人公に
その時は違和感を感じたのですが、似たような配慮を頻繁に行っている主人公を繰り返し見て
最後までプレイしきった今なら理解できます。

彼はそういうことに気付いて行動に移せる(場合によっては移さない)人物なのだと。


だからこそ、そんな彼や彼女らに
《正論》という名の暴力を、言葉と言う凶器で
『そうしたくても出来ない子たち』へ向けて振り下ろさせる。


そんなことは、絶対させてはならなかったのです。


あすみが歌で
華乃が絵で

それぞれ訴えかけるだけならまだ良かったのですよ。

そこには受け取る側の解釈の余地が残されるから。

説教だと受け取らない人もいるかもしれない
そもそも全く違った解釈をする人もいるかもしれない

情報の取捨選択は受け取り手が行うことになり
その中から、明日ちょっと頑張ってみようかな、とか思う子が出てくるかもしれない

それぐらいなら良かった。
むしろ綺麗に終わったなぁと感じたかもしれない。


でも、あれ程直接的な言葉にしてしまってはもう駄目です。
受け取り手は逃げようがありません。



『出来ない子たち』の世界から《更生》した主人公たちが
自分たちがついこの間まで居た『出来ない子たち』の世界の住人に向かって
「お外いいトコ一度はおいで」とドヤ顔で説教して終わる物語の終わり方はとてもとてもグロテスク。




ライターさんは、自分の造り上げた心優しい主人公たちに

ついこの間まで自分たちが所属していた場所に留まって苦しんでいる『ついこの間までの自分たち』を
自分たちがずっと傷つけられてきたまさにその方法を使って切り刻ませてしまったことに

気付いているのでしょうか。


































ハミ *** 蛇足 *** クリ



・Q:酷評してる割に点数高くありません?
 A:だって面白かったんだもの


 濃いテキストで表現される濃いキャラ濃い日常。

 なんてことない日常の一コマがもう面白くって可愛くって。

 特に妹キャラ好き敬語キャラ好きを公言している(サマリー参照)ワタクシとしましては
 妃愛とあすみの可愛らしさが直撃してしまって。

 170本近くプレイしてきて初めて、一作品で二人の殿堂入り嫁が出来てしまいました。
 (一ノ瀬結衣(@Love Sweets)以来1年振り11人目と12人目)




・この作品のヒロインの可愛さを支えてる大きな要因は声の良さだと思っております。
 いつも通り存在感あり過ぎの秋野花さんはさておき(詳しくは華乃のキャラ語りで)
 驚いたのは妃愛役の柳ひとみさん。

 この方『ぬきたし』の片桐奈々瀬しか知らなかったのですが
 その時いい声だなぁ~と感じて、もう一度聞きたいと思っていたら
 全く違う演技が出てきてビックリしました。

 明るくハイテンションでキレ良く会話を回す声も
 ふにゃっと幼く可愛らしくデレデレな声も良いですが

 ワタクシとしましては、シリアスボイスの時の
 大人の低音の上に、少女の高音を乗せたような
 大人と子供の声のいいトコ取りをしてミックスしたような声が素晴らしく好みでした。

 もっともっと聴いてみたい声優さんです。




・Hシーンもまた素晴らしい。
 
 初体験に全裸正常位が多いのはワタクシの好みからして大正義ですし(華乃の靴下さえ譲ればおそらく全員!)
 他のHシーンも、テキストの上手さもあるのかエロくてエロくて。

 特に実況無しのあえぎ声のみのセリフをたくさん入れたのは大正解でしょう。
 (実況ばかりでほとんどあえがないで終わるHシーンとかもありますからねぇ)

 HシーンにBGVがしっかり入っているのを鑑みても
 制作の方々がHシーンでのあえぎ声の重要性を、よく理解してくださっているのでしょう。

 後は初Hの時に全裸まで脱がす差分がもっと充実していれば完璧なので
 次回作にも大いに期待したいトコロです。

 いやむしろ過去作をチェックしに行くべきか、、、、、、




・ここからはキャラ語り。まずはしおぽよ。

 彼女は本来思いっきり部外者だったはずなのに
 大人たちの奸計に巻き込まれて悪役を背負うことになってしまった
 貧乏くじキャラではあると思うのですよ。悪いくじを引いたのは主人公だけでは無かったのです。

 ただ、それを差っ引いても
 他人を蔑んで悦に入る悪癖や、地位と権力に伴う責任を自覚しようとしない幼さ等々
 擁護できない部分が多すぎて、あまり好きなキャラではありません。

 実際大人たちの計画を聞いた後はかなり率先して加担してますしね、彼女。

 もちろんひよりんのファンだったり
 バイセクシャル気味だったり
 戦デレ始めたと思ったらあっさりハマっていたり

 可愛いところが無いわけではないのです。

 で、最も大きな長所はその面倒見の良さで
 主人公に対してさんざん悪態をつきながらも
 何だかんだ色々サポートしてくれる姿は頼もしいものでありました。

 ですから、その最大の魅力である面倒見の良さを、大人たちとの約束で縛られてしまい
 十全に発揮できなかったのが本当にもったいない人だったなぁと思います。




・続いてはそのしおぽよを巻き込んでしまった悪い大人の一人、ミリさん。
 この人もワタクシはあまり好きではないのです。

 この人が智宏と妃愛の幸せを願っているのはまぁある程度ですが見て取れます。

 問題はその幸せの中身です。

 どうもこの人、主人公が自分を幸せと規定するかどうかよりも
 世間から見て、主人公が真っ当に生きているかの方に重きを置いている節がチラホラと見受けられるのです。
 つまり、主人公がマイノリティにならず、マジョリティに属せているかどうか。

 決定的だったのがノーマルEND(広夢ENDというよりミリさんENDでした)。

 おそらくはLGBTQのトランスジェンダー女性であると思われる広夢との関係(誤解ですが)を否定するんですよね。
 しかもあろうことか智宏の母親、ひばりさんの名前まで出して。

 「ひばりさんごめん、うち育て方間違えた」

 どう聴いても、智宏にぶつけていい言葉ではありません。
 後見人として面倒見ていてくれた、親類で唯一人信頼していた人に
 死んだ親の名前まで出されて否定されることの重要性を、ライターさんはもっと考えるべきでした。

 この言葉を妃愛が聞いていなくて良かった。

 もし聞いていたら、その瞬間ミリさんも他の親類たちと同じカテゴリーに放り込まれていたことでしょう。

 ここまでの恩もあるし、当面は社交辞令で笑顔張り付かせた応対ぐらいしてくれるかもしれませんが
 自立して金銭等の借りを返し終わった直後に、二度と会ってもらえないレベルで切り捨てられていただろうこと

 疑いようがありません。 
 
 


・次はあすみちゃん。ワタクシが最も興味を持った娘。

 控えめで怖がりで引っ込み思案で事あるごとに
 「ごめんなさいぃぃぃぃぃぃっ!!!」とか言いながら自虐してる姿が印象的ですが

 その本質はとても強欲で傲慢な娘です。

 だってこの娘、自分が本当に手に入れたいもの、手放したくないものは、結局全て手に入れています。

 音楽学校からドロップアウトしながら、歌い手系Vtuberとして成功してますし
 一旦家族と決裂しかかっても、母親を味方につけて自分の我を通しつつ関係を保ってます。
 
 出会って早々【運命】と思い定めた主人公に対しては
 懐いてる、という体を隠れ蓑にして猛アプローチ。

 主人公が他ヒロインに褒められたりもてはやされたりするたびに
 ほぼ必ずと言って良いほど、あすみが追随の主人公礼讃セリフでそれを上書きしているのに気付くと
 その必死さにニヤニヤが止まらなくなってきます。

 もちろんその流れで考えると、例の温泉マッサージで
 ミリさんと主人公の関係性(親類)を失念していたというのは大嘘ですね。そんなもの承知でやっていますよ、この娘。
 「懐いてる」同様、言い訳を用意して誘惑しているのです。まぁしたたかで貪欲なこと。

 そんな彼女は、事務所に所属すると多少不自由になる
 自分に憧れてくれている、無名のVと好きにコラボ出来なくなる

 などと悩みながらも結局は、伝えたいことがあるからと
 それをより多くの人に伝えるために、より影響力のあるVになる。

 そんな道を選んで無名のVちゃん(くん?)たちを一旦切り捨てて、昇り詰めていく道を選びます。

 そんな大きな影響力のある存在になれるのか、というのはかなり難しい道のりだと思いますし
 それを達成したころには、無名のVちゃんたちはもう、Vを辞めている可能性の方が高いでしょう。

 一将功成りて万骨枯る、とまではいかなくても百骨くらいは枯れてしまいそうな道を
 それでも選ぶことが出来てしまう。

 自分の成功をあまり疑っていない感のある傲慢さ
 成功した上で全てを手に入れようとする強欲さ

 成功する人間の質をしっかりと備えている、小さな天使ならぬ小さな怪物。

 それが、錦あすみという女の子の正体だと思います。
 (そしてだからこそ遠く無い未来、別の欲しいモノの為に主人公が切り捨てられる光景が見えるような気もしたり)

 あ、それとこの作品のワタクシ的白眉は、あすみちゃんの告白シーンです。
 なにこの天使超カワイイ結婚したい(主人公並感)




・続いて華乃ちん。

 被害妄想とそれに基づいた攻撃的な言動。
 これだけでも本来、ヒロインになれそうもないほど大きいマイナスですが
 彼女にはそれを補って余りある愛嬌がありますね。

 義理人情に厚く、義侠心にあふれたその性質。
 あれだけ周囲を怖がりながらも、仲間と認識した人物が危害を加えられていたら
 声も体も震わせながら仲間をかばって立ちふさがる姿は、崇高ささえ漂わせるカッコ良さがあります。

 でもそれだけでは、正にも負にも振れ幅が大きいとっつきにくい人物になってしまうところですが

 とにかく分かりやすく表出される喜怒哀楽
 何か良い事をしてもらったと認識したら自然と発する「ありがとう」「嬉しかったよ」という言葉。

 詩桜や主人公がいじって遊んで楽しんでいるのにとても共感できる、数々の愛嬌あるリアクション。

 頭のおかしい陽キャや理不尽な詩桜の言動に対する
 プレイヤーの代弁者的役割も果たしてくれて、親近感はさらにアップ。

 そしてとどめは中の人、秋野花さんの声質と演技力。

 喜怒哀楽の激しい特徴的なセリフの連発などと言うのはこの方の得意分野で
 その演技力を以て暴れまわってくださっているのは全くもっていつも通りな訳ですが

 今回はこの方の声が持つ天性の愛嬌が、本当にこの起伏の激しいキャラクターを救っていて。

 攻撃的だったり逆走気味だったりするセリフを喋っているときでさえ、愛嬌が振りまかれ続けるんだから本当にズルい。

 演技力的には、この方クラスの方は他にもいるのでしょうが
 こと、『常盤華乃』というキャラクターにはこの人しかいなかった。

 この声の愛嬌で尖ったキャラを包み込んでこそのヒロインだったと思います。
 (でもこの娘も、主人公が仕事に関わってしまった以上、やはり遠くない未来喧嘩別れしそうよねとか思ったり)




・最後にひよひよ。

 ミリさん最大の失敗は智宏よりも妃愛の方が深刻であることに気付かなかったことでしょう。

 男性不信大人不信を拗らせて
 贖罪の気持ちまで背負ってしまった末の兄依存。

 小さい時から大人に混じって仕事をしていたせいで取り繕うのが上手くなり過ぎて
 一人で抱え込んでいた想いはどんどん膨れ上がってついには家族愛を逸脱していって

 7月の、『汚ギャル』というエピソードで母に似てきたと言われたときに大きく変わったと言っておりますが
 おそらくその前から、家族愛と恋愛が彼女の心の中でせめぎ合っていたのでしょう(本人も気付かないままに)。

 自分の気持ちを自覚する前にキスされていたとしても
 何で?とは思っても引きはしないとか言っちゃってる時点で
 それはもう家族に向ける感情とは異なるものが混じっているのは確実で。
 
 もし本当にそんなことが起こっていた場合は
 単にそれがきっかけになって、恋愛に移行しただけだろうと思われます。

 他ヒロイン(特にあすみ)にガリガリ嫉妬しまくったり
 他ヒロインの√で、必ず兄とくっついたヒロインと仲良くなって自分の居場所を確保していたり
 どう見てもアウアウなお兄好き好き言動をセフセフとして周囲に対してあまり自重しなかったり
 徹底的に兄に依存しながら、徹底的に兄が自分に依存することを望んで、ひたすら兄を甘やかそうとしたり
 
 「『私がいなくても大丈夫』そう思われるのが怖かった」

 この恐怖を根源とする熱烈な想いと眼差しを向けてくる彼女は、いっそ病的なくらいに感じられて。

 でもワタクシは、その病的にハミダシてしまっている部分までその全てを受け入れて
 愛おしみたいとか、割と真剣に思ってしまいました。

 だって彼女の方はすでにそうしてくれているのだから。




 さて唯一この√だけは説教が出てきません。

 妃愛が兄を全肯定してしまっているから。
 
 もちろん近親相姦などという禁忌を犯している二人が、どの面下げて説教できるのかという事情もあったのでしょうが
 それ以上に、妃愛のアイデンティティに≪兄の全てを受け入れて愛すること≫が含まれてしまっているから

 説教など出来ようはずがなかったのです。

 

 妃愛が有名人である以上、関係を隠しきるのはほぼ不可能でしょうし
 二人の行く先は茨の道で確定しているような気がしますが

 上手くいくにせよ、二人で堕ちていくにせよ

 この二人は最後までそばに寄り添い続けるのだろうと、確信しています。