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cinnamonさんの秋色恋華の長文感想

ユーザー
cinnamon
ゲーム
秋色恋華
ブランド
Purple software
得点
95
参照数
406

一言コメント

とても素晴らしい作品。それだけに惜しいと思う点も多々。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 絵買いしたソフトだったが、オープニングも良い出来だし、途中の演出も良い。キャラも魅力的だし、シナリオ、音楽も高いレベル。
Purple Softは、絵は良いがシナリオがイマイチという印象があったが、今作はそのイメージを多少なりとも払拭できたのではないだろうか。
特に真由と葵のシナリオが素晴らしい。
 真由シナリオではサブキャラの翼が最高に良い味を出しており、恋愛に不器用な二人が翼を仲立ちにして徐々に惹かれあっていく様子が上手く書けていた。最後の展開はちょっと唐突な感もあったが、すっきりと気持ちく締められたので結果オーライ。
 葵シナリオは、エンディングが特別扱いなのでもわかるように、このゲームの真のメインシナリオ。個別シナリオに入って共通部分同様に他ヒロインとのやりとりが面白かったし、ヤキモチ全開の暴走機関車ぶりは痛快。ヴォーカル曲で迎えるクライマックス、それからつながるエピローグは感動モノ。
ただし、高いレベルの作品であるが故に、不満点が凡作・駄作よりも気になるのも事実である(本当の駄作はレビューすらされないだろう)。
特に、キャラの設定がいい加減なために、シナリオ展開に無理や矛盾が生じてしまっている。
 ひとつは、伊吹が世界的プロテニスプレイヤーというのは必然性がない点である。
必要なのは、「主人公とは住む世界が違う有名人」という設定だけなのにスケールを大きくぶち上げ過ぎ。テニスに関する内容もかなりインチキ臭いためにより変に感じた。もう少し練りこみが必要だったのではないだろうか。
 最大の難点は、「主人公と英里子が元恋人だった」という設定。恐らく、設定をWeb公開しまったためにライターがこれに無理やりあわせてシナリオを構成せざるを得なかったのだろう。
しかし結局、マニュアルでは、「ささいな喧嘩で」別れたとなっているが、実際はとんでもなく重い理由であり、シナリオ構成の小細工では合わせ切れていない。
 そもそも大学3年生と中学3年生の間の恋愛はさすがに無理がある(そういうゲームもあるが、同級生との恋愛が主題である本作品の雰囲気に対しては違和感が強すぎる)し、主人公と葵の気持ちを知っていながら誘惑するというのは不愉快極まりないものがある。
 元々個人的に年上お色気全開お姉さん系キャラは好きではないが、このゲームではその中でも最悪の路線を行っている。葵シナリオ自体はとても素晴らしいのだが、こいつの話題の出る場面は折角の清涼感がぶち壊し。
 どうせ設定がシナリオと矛盾するのならば、設定自体を変更した方が良かった。元恋人という設定が無ければ、共通部分のシナリオにも無理(英里子との関係は主人公にとってトラウマなのに英里子が幼馴染であることを「優越感」と感じるのはおかしいし、葵も自分のトラウマをネタにして主人公と英里子の関係を茶化すのは違和感がある)が生じず、主人公たちをあたたかく見守るやさしいお姉さんとなり、逆に良サブキャラに化けただろう。葵が家を飛び出す理由が無くなるという意見があるかも知れないが、義理の兄妹である点や葵が焼きもち焼きであることを上手く利用すればいくらでも理由を作れるだろう。
 
 長々と書いたが、良作であるが故、である。
 特に葵はかなりツボに入ったキャラであるためにちょっとした点も気になってしまった。
 そのうちコンシューマーに移植されると思うが、その時は是非とも改良を加えて欲しいと思う。