多少不自然な点はあるものの、理想的な寓話としての1つの完成型
随分と読後感(プレイ後感?)が良かった作品だったように思う。
しかし、一方で何もかもが都合よく展開し、何事も綺麗過ぎる印象から、どこかひっかかる印象も受ける作品だった。
良い印象と、何かしこりの残る悪い点、
そのような点について、考えを整理してみる。
○秀逸な背景
このゲームを始めて、まず目に付いたのが背景の美しさだったように思う。
水彩画調に描かれたその背景は、思わず目を見張るものであり、ついつい見とれてしまう程好みのものだった。
これほど綺麗な背景を2Dでみるのは「果てしなく青いこの空の下で・・・」以来だろうか。
個人的には、あっちの日本の風景の方が好きなのだが、イタリアの町並みを描いたこちらの風景も非常に良いものではなかったかと思う。
○テンポの良い軽快な音楽
そんな背景に加えて、その場で流れる音楽もまた秀逸だったように思う。
軽やかに流れるアップテンポ、静かに盛り上げるメロディ、緊張感を高める重低音・・・と、
場に合った良質の音楽が流れていた。
音楽全体としてみれば、OP歌とかED歌辺りが好みではなかった、
といった不満もあるのだが、BGMとして考えれば、非常に舞台に合った音楽であったと思う。
○美しい舞台環境
こういった理由から、物語は非常に美しい舞台環境を持っていた、と言えると思う。
そのようなバックボーンがあるからこそ、
作中でさりげなく語られるキャラクターの街への想いや、風景描写が活きていき、
またそういった舞台で繰り広げられる活劇やドラマがより惹き立てられ、
一つの完成された空間を生み出し、それが心地の良い読後感に繋がっているのではないかと思った。
●見劣りする立ち絵
しかし、そういった背景、BGMに対して、どうしてもキャラクターの立ち絵が見劣りしているように感じた。
まぁ、この辺りは好みもあるのだろうが、個人的には、浮いている印象は否めなかった。
●現実的でない点
さらに描写にリアリティが感じられず、生活感や現実感があまり感じられないという印象を受けるシーンもいくつかあった。
確かに風景描写などは秀逸なのだが、どこかガイドブックの紹介を受けているような、
地元の視点というよりは日本人の視点でイタリアが描かれているような、そんな印象を受けた。
○イメージとしてのフィレンツェ
以上のことを総合すると、この作品、実際のフィレンツェというよりは、「イメージとしてのフィレンツェ」を描いている作品なんじゃないかと思う。
実際に生活している人間の視点というより、旅行に憧れる人間の視点によって世界観が構築されているという、
ありそうだけど、実は存在しない理想のフィレンツェが舞台なのだろうと思う。
綺麗だけど、自分がひっかかっていたのはこの箇所なんだろうと思うようになった。
しかし、この点は少々引っかりは覚えるものの、
作品全体としてこういった手法もまた一つの方法であり、
この作品においてはそれが有効に物語の中に作用しているので、むしろ良かったのではないかとも思う。
それぞれの作品のテーマや目的にもよるのだろうが、一概にリアリティを突き詰めれば良いというものではなく、
背景が2Dであることや描かれる物語、キャラクターのことを考えれば、
この作品においては、むしろこの方針が正しかったのではないかと思う。
○視点を変えて描かれる舞台、人々
そのように思える理由に、そんな舞台を元に描かれる物語が良質であった、という裏づけもあると思う。
この作品、プレイヤー=主人公の視点とうい方式をとらず、プレイヤーはあくまで傍観者であるという、この手のゲームでは珍しい視点を用いているのだが、
この点を利用することで、二つのグループ、6人の主要メンバー達の一つの軸の物語を、
時にそれぞれのキャラの思惑や考えを交え、また異なる価値観を作中で提示したり・・・と、
非常に巧みに物語をまとめていると思う。
また以上の手法で、上記したフレンツェという舞台を多方面で描いたり、
なんでもない日常を描いたりする様が、やけに個人的には心地よかった。
○なんでもないやりとりと緊迫感のあるやりとり
この物語、一応のクライマックスや謎はあるのだが、
個人的にはそういった展開よりも、何でもない日常を上記した良質の空間で描いたところがツボだったように思う。
本を読む、チェスをする、散歩をする・・・仲間とのやりとり、朝食の風景、買い物へ行く・・・
といったなんでもないやりとりが、退屈もせず楽しめてしまった作品だった。
楽しめた理由に適度に緊迫感のあるシーンを挟んでいる点もあったかと思う。
まぁ、ツッコミどころも多少あるような気もするのだが、
危険のある仕事、追い追われる立場、謎の追っ手、特殊な舞台空間。
こういった展開があるからこそ、日常の平穏な風景もより輝きを増したように思う。
○優れた文章構成、セリフ回し、適度なボリューム
さらにそのような展開だけでなく、
文章構成自体やキャラのセリフ回しといったところも秀逸で、個人的には気に入る結果となった。
後をすっ飛ばしてセリフだけ持ち出してもなかなか分かり難いのだが、
「秘密はいいが嘘はいけない」
「寝ている最中に起こされ、世間話や面倒な話を起き掛けに聞かされる程苦痛なことは無い」
「運よく定時に来たバスに乗りこみ」
「幸せになるのは簡単なことだ。こんなことで楽しくなれるなら、それが幸せという証拠だろう」
・・・といった風な台詞が、さりげなく、重くない程度に印象に残る言葉が、あちこちに散りばめられている。
そのような点が印象深かった。
さらに物語が1話構成で進んでいくのも、物語のテンポを良くし、
上記のような視点が変わる点や盛り上がりのメリハリ、また話を適度なボリュームでまとめる、
といった点で上手く作品をまとめていたと思う。
なお、この各話構成という手法は、一度のプレイでは全話を見ることができないといった構成にも利用されており、
これで全体のボリュームを調整したり、他のルートで見えなかった点が見えてきたり・・・という面白い演出が成されていたのも非常に面白いと思った。
○変わらない結末
ただ、それ以上に面白いのは、選択肢が異なっても用いても物語の結末が変わらない、という点だと思う。
この作品、この手のゲームにありがちな「選択肢」が存在するのだが、選択肢が存在しても、物語の結末は全く変わらないのだ。
単に、キャラクター達の物語の見える場面が変わるだけで、プレイヤーが得られる情報が変わるだけ、といった内容になっている。
この手法はこの手のゲームとしては非常に珍しいと思う。
例えばその辺のゲームなら、「レプレエンディング」というものを用意しようとしただろう。
しかし、このゲーム、敢えてそれをしてしていないのだと思う。
何故か?
予断ではあるが、「一つの空間を作り上げる」のがこの作品の目的だからではないだろうか?
と思った。
美しい空間で繰り広げられる一つの物語。
この完成度を維持するためには、結末も一つである必要がある。
プレイヤーはあくまでその空間の傍観者であり、下手な介入で、結末を変えてしまっては、
これまで築き上げてきたこの空間が台無しになってしまう。
以上のような理由で「レプレルート」といったものを敢えて用意しなかったのではないか、
と思った。
こういった措置はゲームという媒体手段を考えると有効でないように思うのだが、
用い方次第で優秀な作品足りえるということを見事に提示した作品でもあるように思う。
そしてこのような配慮があるからこそ、このゲーム、プレイ後感が心地よいものなのだと思った。
よって、この点に非常に感心した為、
●少し不自然な展開
パッケージの宣伝文句に「必然性のあるシーン」を・・・みたいなこといってる割に、
変な点が多くて、むしろエロいらんやーん、と思ったところや
キャラの幼児性はなんで?天使だから?流行?作者の趣味?
みたいな様々な疑問、違和感も気にならなかった。
気にならなかったハズだ。
・・・気にならなくなったと思う。
まぁ、きっと大人の事情なんだろうが。
○総括
この作品、総括すると「細やかな演出が光る、楽しめる物語」と言えると思う。
よって、変に細かいところにツッコミを入れるより、
楽しむ姿勢でもって、心地よい作中の雰囲気を楽しんで良いのではないかと。
また、こういった物語を現代の視点で描く・・・という作品は意外に少なく、
そういった点でも実に重要な作品であると思う。
大きなエンターテイメント性、深いテーマといった物語も良いが、
なんでもない、ありがちな話を良質に描き、現代に伝える・・・
そんな意味でも、この作品は他作品と違った、優れたモノを持っている作品であると思う。