ErogameScape -エロゲー批評空間-

bbbbbさんのグリザイアの果実 -LE FRUIT DE LA GRISAIA-の長文感想

ユーザー
bbbbb
ゲーム
グリザイアの果実 -LE FRUIT DE LA GRISAIA-
ブランド
FrontWing
得点
75
参照数
1408

一言コメント

バラバラの原画にバラバラのライター。どんなものが出来上がってくるかと思ったが…?

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

独特な構成をしてる。共通パートは、言ってしまえばサザエさんである。
何か一つの問題やテーマが持続して流れているわけではなく、
1話(?)ごとに問題や事件が発生し、典型的な相良宗介タイプであるところの主人公がミリタリーなボケをかましたり、おかしな言動をしたりして笑いを誘う。
ヒロインもそれぞれでユニークな(本当に、ユニークな。)ボケを返したり必要に応じてツッコミに応じたりする。
各話で話の繋がりは殆ど無く、それが個別選択肢になるまで延々と続く。また、各ヒロインの過去に触れるようなシリアスは多少仄めかされる程度しか出てこない。

個別に入ってくると隠れていたライター独自の色がようやく見えて来る。
余りにもライターが多いのでパッチワークのようなちぐはぐとした物語を想像していたのだがなんということはない、キレイに枝分かれしているだけだった。
ただ、ところどころ伏線が投げっぱなしだったり(地下の教授って何。ハンニバルかよ。)(で、お姉ちゃんはどうなったのよ)(上層部の手のひらとか言われても…)(校長と一体何があったんだ)(風見家とか風見両親とかどうしたこうなった)(師匠って何者よ)(結局ジュリアとはどんな顛末があったのだ)
ルートによっては主人公の設定が全く生かされなかったり、探せば色々と荒は出て来る。

ところで、私はまだドラクリウスがそこそこえげつなかった事をまだ覚えている。
そこから察するに、何かとドロリとした血を連想させる天音と薪菜は藤崎竜太氏が担当したのではないかと思う。まずはこの2人から。

薪菜: 話は一番好き。薪菜というキャラクターの喋り方も斬新(?)で面白い。民安。また、主人公の設定がきちんと生きているルートでもある。
終盤(リンゴの苗を取りに行って攫われるあたり)から失速。そもそもリンゴの苗を忘れたり、取りに帰る動機や入手経緯、苗に込められた意味、唐突に登場した地下の人物による謎の予言など、多少強引な印象を受ける。
あとは何故か警備のいない病院。(警護つけなくてもいいってなんでやねん。)母親との決着のつけ方とか臓器移植しなくてもなんだかんだ何とかなりそうな妹とか色々と残念な部分も多い。
それでも、娘となった薪菜に自分の師匠がそうしてくれたように(ここ重要。師匠設定が生きてる。)、父として娘に何が出来るだろうと考え(これも重要、主人公の軍人設定が生きてる。)
Beautiful...したり墓参りしたり主人公が殺人に葛藤したりするパートが本当に優れている。主人公が抱えている何がしかが解決されるのはこのルートだけであり、筋も巧く通している。
主人公は救われる。業は娘(嫁)に継がれるが、それもまた孫(娘)に繋がり、続いてゆくのだろう。師匠もそうだったのだろうか。そうに違いない。そういうきちんとしたオチをつけている。

天音: なんというかお姉ちゃんルート。確かに遭難の顛末とか過酷で生々しい様子であるとかは面白いんだけどそれはそれ。この事件を切掛に強くなろうと決心してなぜビッチになった。おかしいだろ。
この辺の眼鏡弱気から肉食系女子への変身をもう少し掘り下げてくれれば納得もできたかもしれないが。で、当然墓参りというか姉の痕跡を探りに行く話になるのは解る。そこで物語として一筋縄ではなく何かしら困難を用意しなければいけないのも解る。
でもそれで唐突にあのおやじを出されても…やっぱり強引じゃないかと思う。一姫がどうなったのかも投げっぱ。この事件後あやふやになって調べてない…とかも不自然な話。

残りの三人はなんというか主人公要らないんじゃないか、主人公別人でもいいんじゃないかといった印象を受ける。主にヒロインの抱えた問題を解決することで話は終了する。順当に分岐選択肢順で。

幸: 突然まさかの幼馴染設定。天音の時も思ったけど転校してきたのは偶然風見雄二でしたパターンは嘘くさい。伏線(隠れてもいないが)もルート入ってからなので余計とってつけた感が漂う。
いい子(何にでも従う) ならば 大切なモノは失われない という論理展開もちょっと無理。しかも証明したら矛盾に気がついて治ってしまうのも尚更無理。それで理解するなら最初から気が付いているだろうという考えが離れない。
この明らかに破錠した理屈を信仰するのならばもっと狂気を見せないと駄目だと思う。
キャラクターはかなり好きだっただけに落胆も大きかった。個人の妄想では何かのお願いでテロリスト化でもして主人公と対決したりする展開を期待していたのだが…

みちる: 劣等感から来る自分の否定。心臓移植による二重人格。現実逃避。ある意味一番異色でもある。これファンタジーやん…
キャラクターが好きだっただけに(略

由美子: 話自体は薪菜に似ていなくもない。ただし解決方法は自分は余り何もせず、コネで上司とクラスメイトを使い、なんだかあまり現実味のない方法で元凶である父親を退職に追いやっただけ。(しかも失敗し掛けて本人の預かり知らぬ事情で偶然上手く行った。)
ヒロインの抱えた心の闇の解決もカッコイイところを見せただけで8割型解決してしまい、主人公の問題に関してはもうなんか何にも無い。放置。反逆もよく分からない理由で許される。

--
総括: 共通ルートの笑いが全て。長いし面白いしこれでお腹いっぱいになれる。これだけで価値がある。どのキャラクターも個性的で面白い。
個別はそれぞれ毛色が違う。多分好みも分かれる。ピンきり。が、どれも物語として上手く出来ているわけではない。
伏線は投げっぱ。FD前提か?
ビジュアルは心配しなくていい。(統一感はないが。)声優の演技も大変良い。
音楽は普通。個別でテーマソングがあるが、空気。