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azureusさんのはじめるセカイの理想論 -goodbye world index-の長文感想

ユーザー
azureus
ゲーム
はじめるセカイの理想論 -goodbye world index-
ブランド
Whirlpool
得点
88
参照数
665

一言コメント

コンゴトモヨロシク・・・

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

世界の卵をあなたの理想で孵化させましょう
(世界を作り直しましょう)

このネタで思い浮かぶのは「女神転生」ですかね。
それぞれの主人公が、LAW(秩序)orCHAOS(混沌)、それともNEUTRAL(中立)に偏りながら再生を目指す歴史長いシリーズ、それを彷彿とさせるようなギミックが随所に見られたこともあり、大変満足。
ノベル版女神転生をプレイしているような。

例えば、ダンジョンシーン。
SFCの3Dダンジョンを思い浮かばせるような雰囲気があるCGだったり。
また、とあるルートでは「神殺し」という存在が出てきます。あーこれはapocalypse…

◆「神ちゃん」という絶対的存在。
流石に聖四文字というわけではなさそうですが、随所にそれを匂わせる文書があるあたり怪しいです。
(例:「聖職者にしか読めない文字」→ラテン文字(?)
   「隣人を愛せ」

「神ちゃん」がどういう立ち位置なのかわかりませんが、少なくとも人間は神の下で!という認識ではなさそうで、あくまでも人間の主体性を求めているようだった。
(じゃあなんで死際の人間を召喚したんだよ)
もしかしたら彼?彼女?も現世を滅ぼしたくなったのかもしれない。


◆異能力
転生先で主人公たちは異能力をもって生まれ変わります。
特に「ダウト」は、赤文字を用いることで、日常シーンやHシーンに良いアクセントとなって読み手を飽きさせませんでした。
まあハルカのはチートすぎてちょっと何でもあり感でてきてあまり多用して欲しくなかったです。
そこはライターの腕前ということで。。


◆√順序
どれも素晴らしいのでどこからやってもいいかと。
以下の順序は私がプレイしていて面白かった順に並べてる。


哲学的に、宗教的に、考えさせられる大作でありました。


☆ティア  「なぁにそれ? そんなの全然、面白くないわ」
・能力は「devotion(献身)」
「相手の痛みを自分のモノにする」とのことですが、ティアこの力をのちに「収奪」と呼んでいる。愛を知りたいと宣う彼女は、「自分を愛してもらった」後でその痛みを奪うことでその目的を達成しようともくろむのでした。
 しかし「devotion」の語源が「神に捧げる」という意味。
この時点でティアには自信が求めているのは、人が人に対する愛ではなくて、人が神に捧げるような愛を欲しがっていたように思えます。もし前者なら、lovedとかaffectionかな?

現に、ティア√は主人公とティアの気持ちが最後まですれ違っていく。


・例えば、主人公がティアに人々が育む愛について柄にもなく語るシーン
「共通の趣味とか探したり?学生自体はなんの部活に入ってたり…その先にあるものだ」
という愛を育む過程について、おそらく大多数が経験するようなお互いを探るようなやりとりを

「なぁにそれ? そんなの全然、面白くないわ」
と一蹴。
Hシーン中でも
「これはきっと、私が求めてる愛とは違う感情なのでしょうけど」
と欲する割に愛をバカにするようなティア



・主人公とお花を育てる
 ことになるも、動物に荒らされて終ぞ花を見る前に散ってしまう。
主人公が哀しみを覚える中、ティアは「正直どうでもよかった」と言い放ち、なんでそこまでシンがお花に真剣になるのか、そしてそこまで悲しむのか理解ができなかった。
しかし哀しむその姿を見た瞬間、ティアが主人公を抱きしめるシーンがある。
ティアは自身の行動理由がわからず
「どうしてかしらね? これが愛だというならあまりに単純に感じる」
と吐き捨てるが、
「単純じゃダメなの?」
という返答に、ティアは何も答えられなくなってしまう。

作中屈指の名シーン。本当はどこかでティアにも理解できていたんじゃないかと信じたくなる。


・嘘の定義
 嘘を見抜く能力を持つ主人公が、嘘の定義を見つけるという珍しい展開。
ここから主人公の能力に欺瞞が読み手にも生まれてきます。
「心にもない言葉が嘘の定義なら」
主人公自ら自身の能力が怪しくなってくる、
そう、もしかしたら「他者に嘘をつくということが愛がないからというわけではない」という認識がシンの脳裏にこびり付いてくる。
それは主人公が転生した理由を、過去を否定することになるからどうしても受けいれられない。
「ここにいる俺はまやかしなんだって突きつけられるような気分」
この後も、ティアの愛しているという言葉が赤く染まるのですが、もう読んでる最中不穏で仕方なかったですね。。
「伝わってる気がしない」
「同じものを見ているのに、俺たちは同じものを共有していない」


・神殺し 「再生のための破壊を始めましょう」
 インド神様!?
ティアは神ちゃんの言う通り卵を孵化させようとする。結局、最後まで愛について把握することができなかったので、
完璧な管理統制を目指す、そう、LAW√へと突入します。
闇堕ちではなく、天使堕ちですね笑

討伐対象として君臨してしまった彼女に対し
「それがわかるくらいには、俺たち…ちゃんと恋人だったんだ」
とシンが漏らします。
おそらく、この言葉をもっと早くに言えていたら何かが違っていたかと思います。
結局、シンが臆病で人と関わることが怖かった結果がこの結末。
「かつて、母と呼んだ人が俺に向けていたものだって愛だったんだ」
「俺がティアに抱いていた愛だって綺麗なものじゃない」
2人が潔癖を求め続けた結果、完璧な愛の世界を求める神に、シンは自分の愛を届けようとする。

最終的にティアは敗北し命を落としますが、
死の間際ティアは
「誰もが守られている。わが子に…そう教えてあげられる…そんな…」
と絶命。
この世界で命を落とした際の描写がいまいちよくわからないのであれですが、再度転生するのかな?
転生した際の描写がヨルちゃんやシン、シンに纏わるキャラしかなかったので。。

最後の世界は、シンが作り上げた世界な気がします。
少年少女が笑って過ごせる世界。
慈愛の神に見守られている、その神様こそがティア?
「私、この世界が好き」
と少女が笑って終了する。
何とも頽廃的なラブストーリ・・・


・聖職者
 ティアは修道女になっていますが、恐らく歴史的に教会には捧げられるという認識があるからでしょうか。
神の言葉を語るわけですからね、エロい理由じゃなくてちゃんと理由がある気がします笑
神の言葉を授かるものが神格化するのは、預言者を神と崇めるのは3大宗教にも近いところがあるでしょう?


総じてシンとの会話が最後までかみ合っていないのが読み進めていくのが辛かった。
「2人だけの国で、永遠の迷子ね」
この二人は。




☆ヨル 「突き放しておいて、すがりつくようなことを言ったり」
 実は父親違いの妹だった。
このことから、この世界の敵はヒナギクが生み出したが、敵としてのイメージはシンによるものだったのかもしれない。
シンにとって母親は敵、その新しい子供なんてまさに敵として捕らえてもおかしくはない。
そんな彼女だから、敵であっても親近感を覚えてしまった・・・というより、このヨルという少女自体がシンの妄想では。。
ヨルもメタ的にそういうことをよく話すので、こんな妹が欲しいという願望だったので、全国のお兄ちゃんの皆さんやってみてどうぞ。
こういうダメな自分でも受け入れてくれる都合の良い妹、
確かにそれは俺が望んだ世界だ笑



☆ヘルミリア√ 「このゴミみたいな世界で、私が私として生きていくために…!」
・なんか魔王としての能力を望んだので強い。煩い。あーいつもの渦巻きヒロインだ嫌だな笑
と思ったけど、それを覆すルートの良さ。 作品的には邪道√

・実は同級生
 シンの同級生で、顔も知らなかったが間接的にシンを自害に追い込んでしまった。
ある日突然、両親がいなくな、祖母と二人で住むことになってしまったが、その祖母に対してもつらく当たる毎日。
その結果、祖母の身体の異変に気づけず見殺しにしてしまう。
などなど悲惨な過去の結果首を吊ることにした。作中屈指の悲惨な過去な気がする。
ばあちゃん・・・・・・・・

・神ちゃんにキレられる
 転生世界で、不自由ない生活を営むシンとヘル。
それもそのはず、2人とも自死を選んでいるのだから、世界に未練何てないに等しい。
むしろ望む形で適切な形で顕現する転生世界は二人にとって都合が良かった。
その結果が神ちゃんがキレる。お前らはやく世界作れ!
転生世界で失っていく。
それは友達だったり、ダウトだったり…。思い出しくない思い出だったり、忘れてはいけない後悔だったり。

・決意
おばあちゃんの想いを思い出したヘルは、世界を作り直すのではなく元の世界に戻ることを決意。
彼女は愛に溢れていた世界に生きていたのに、それを自ら見ないふりをしていた。
それはヘルが弱いから。
しかし偽物の魔王の力を持った彼女は、そのおかげで心の強さを手にすることができた。
言いたいことが言えるようになった。脱引きこもりできるようになった。おばあちゃんに謝ることができた。


「この空も暗闇も心映す鏡なら 変えて行ける。いつだって その心が世界」(THE BACK HORN/生命線)

ヘルはおばあちゃんへの苦悩と愛と魔王の力で、
今度は主人公の自殺を止めにいくため、元の世界に戻ることを決意するのだった。
しかしそれは、新しい世界を作り直すというこのゲーム根本をひっくり返すジョーカー。
神ちゃんが許す訳もなかった
個人的にはもうちょっとここ神ちゃんのハードな妨害があってもよかったなと思いました。
だって神ちゃんの存在意義にもかかわることでしょう。


・現実
 首吊り中に戻り帰還する留美。何とか首にかかった縄を振りほどき、おばあちゃんに「ごめん」という。
ここはつらかったですね・・・。
シンが飛び降りる直前、留美は真を抱きしめて自殺を止める。
もちろん、現実では真は留美なんて知らないから「この女だれ!?」という表情だったでしょう。
しかし、全てを話し真を納得させ、以前生気のない真に留美は「私があなたの生きる理由になるから」と言わんばかりに、
内気で引きこもっていた彼女はどこへ。
世界に殴り込みに行くのであった。


まさか、世界再生物語で、その権利を破棄するものを出すとは思いませんでした笑
いやーよかったですね。
ていうか、長い間生きていると身内の不幸に対しては似たような思いがある人が多いと思うので、
結構クると思います…。


☆ヒナギク√ 「だが、私は平和を語ることができない。平和を理解できない」
 平和を望むも、ヒナギクという英雄がいる世界→敵がいる世界であってほしい
という矛盾した理想を持つ彼女。
良く彼女は
「私はバカだから」というが、
そういう葛藤に対して答えが出せないから「私はバカ」と言っている節がある。
確かにティアやハルカは望む世界が見えているからな。

・英雄
 なんかこれ世の世界救済ゲームの主人公のその後みたいな話だなー。
DQ2の主人公やLIVE A LIVEとか、魔王を倒した主人公は悲惨な末路を辿るし。
人修羅君もルシファー様と一緒にこれからあいつを倒しに行くぞENDあるしなー。

・紅蓮ちゃんが可愛かった笑
 個人的には、主人公とヒナギクというよりヒナギク主体で話が進んでいってるように感じた。
あまり主人公関わって無いというか、ヒナギクが自問自答を繰り返して紅蓮ちゃんと一緒に。。
そういったところ含めて成長を感じるルートであった。



☆ハルカ√
 世界は私が作るものじゃなくて、人々が歩んでいくのが未来。
ケセラセラ的な話?
最終的に宇宙言っていく末を見守る、一種の神的な立ち位置になったような気がする笑
まあ賢いハルカっぽい√。
しかし、現実のハルカの世界は、誰かが作った世界の成れの果てではないだろうか。





以上。

なんということだ。今までの渦巻きの作品はなんだったのか。
涼風のメルト以降クソゲーを連発してきてなんで人気出てるんだよこのメーカー
とネタ以外で買ってきてなかったが、今回いよいよ2024年最も、いやここ数年でも名作レベルの作品を出してきた。
近江谷宥、お前はいったい何なんだ。
今回はキャラ同士がディスりあう会話シーンもなく、
不快感なく読み進められたのも非常に大きい!!
アンレス、ピーシーズはまじでなんだったんだよ笑
この会話シーンで作り直したらプレイしなおすわ。。