共通√は全くストレスを感じることなく読めたが、個別√は深刻な悩みを抱えているにもかかわらず、軽く済ませてしまうケースが多い点が残念だったなと。
本作は不思議なメイドが営むシェアハウス「バーベナ荘」を舞台が描かれるハートフルストーリーであり、様々な事情を抱えた者たちが、新しい家族として共に暮らしていくお話である。
序盤の作りはかなり丁寧で、どういった経緯でこのバーベナ荘に来たかの話がヒロインごとに用意されている。いきなり両親が蒸発した者や、自ら家を飛び出た者、それから大切な人を失った寂しさからやってきた者など、本当に様々な事情を抱えたヒロインがいた。彼女たちに共通しているのは「幸せな家族」というものを知らないということ。そんな彼女達がやがて家族のいる喜びを知っていくことになるだなんて…実に惹かれる始まり方ではないだろうか。
共通√部分で特に良いと感じたのは菜ノ花と茉莉花が友達になっていく過程で、天真爛漫な少女が癖のあるお嬢様にアタックし、打ち解けていく光景は純粋に眺めていて心が和んだ。最終的には茉莉花の方から家を訪ねてくるようになっていって、凄く微笑ましいなぁと。主人公が変に二人の仲に介入しなかったのが良かったなと思う。もし万が一、茉莉花が主人公の事を好きになっちゃってみたいなシナリオになっていたら大変だった。
個別√に入るとヒロイン達と距離を縮めていくべく、それぞれの抱える問題に寄り添いながら解決に向けて歩みを進めていくわけだが...正直に申し上げると個別√の出来は良くなかった。共通√で各々の抱える悩み、事情が結構重めなのことはわかっていたけれど、そこへの対応がもう軽い軽い。そんなことで済ませてしまうのかと困惑する場面が多数存在した。
また、個別√に入ったのでヒロインとのえっちシーンが複数用意されているわけだが、これも不自然。さくらなんかは少し特殊なので省くが、それ以外はまるでギャグのような導入でえっちが始まるので、そこが少し残念だった。あとはどのヒロインも海に行ったらヤる、祭りに行ったらヤる…とワンパターンな点も気になったかなと。
ただ、個別√を読みながら良いなと感じる部分もあった。それは栞√の終盤であり、栞√も内容だけ見ればあっさりしているのだが、彼女を支えた主人公以外のもう一人の人物、雪ノ下結菜がとても良いキャラしていた。ただの明るいギャル友達かと思いきや、実は凄く熱い想いを秘めた女性だった。彼女の立ち位置だって相当に辛いはずなのに、それでも自分の弱みは決して見せず、“彼”の希望通り、いや希望以上に栞を大切にしてくれた。本当に姉のように彼女に接していたのだ。
「しーちゃんを泣かせたら、アタシが絶対に許さないからね?覚悟しておいてね」
この台詞も彼女の立ち位置、栞への想いを加味した上で聞き直すとすごく胸にくる。文句なしに作中で一番好きなキャラクターだった。TRUE√にあたる白菊√も悪くはなかったのだが、やはり感動を覚えた瞬間というのは栞√の結菜が本音を吐露するシーンになるかなと。
振り返ってみると不満を覚える場面はいくつもあったけれど、好きな部分はちゃんとあったのでそこは良かったかなと。また、どのルートでも周りが「家族」として味方についてくれるのは心温まる展開だったなと思う。