まだまだ序盤だからと、気持ちを落ち着かせつつ、作品を信じながら読み進めていたが…結局のところ最後まで気持ちが乗ることはなかった。設定的にもシナリオ的にも物足りなさを感じる作品であった。
lightから発売された完全新作ADVということで、発表があった時は本当に嬉しかった。非18禁のコンシューマ版(後にSteam版が発売される)という点は少し気になったが、それでも嬉しい事には変わりなかった。発売せずに終わった某P君のようにならなくて本当に良かった。
物語も『霊煌』と呼ばれる不思議な力が蔓延る世界を舞台にしているということで、陰陽系の作品が好きな身からすると楽しみで仕方なかった。ジャンルがそうと決まれば詠唱も感じの連なる素敵なものばかりが揃っているだろうと、あらすじを少し読んだだけで明るい未来が見えてくるかのようであった。
と、それなりに期待を抱きながら読み進めていったわけだが、共通部分(具体的には五章辺りまで)はかなり拍子抜けの内容であった。というのも思った以上に危機感のあるシーンが少ないのだ。日常シーンがあること自体は不満ではないし、マガツと人との共存を描いているという意味では良かったとも言える。けれど、それをだらだらと続けるのはジャンルに記載されている『新世代バトルアドベンチャー』が読みたかった身としてはやや苦痛だったかなと。
また、時たま差し込まれる戦闘についても、急に始まるのは平和を壊しに来た感があって良いが、全くと言っていいほどに緊張感がない。はじめのチンピラ戦は仕方ないにしても、続く戦闘もイマイチ乗ることができない。『十三魔将』も名前が立派なだけで、意外と人間でも戦えてしまうから驚き。これは余談だが結局、最後まで読み切っても出てくる魔将は片手で足りたので、そこも設定的な勿体無さを感じる。まあ続編のためにとっておいたのだろう…そう願っている。
そんな感じで共通部分を読んでいる時に面白いと感じた瞬間はほとんどなかったが、個別派生すればそんなことはないだろうと、まだ信じながら読み進めていた。けれども...。ここからは個別ルートごとに感想を述べていく。
●亜麻祢
弟の事が大好きなお姉ちゃんのルートだけあって、恋愛パートは他と比べるとかなりオープンというか、これが18禁の作品であったらもう何回もシちゃってるよと言わんばかりのイチャつきっぷりを見せてくれる。個人的に共通ルートの時に選んだ選択肢通りに、隼人が守る側にまわっている点が良かったかなと。
ただ、亜麻祢が暴走を始めてからは…正直、読むのが苦痛だった。あんなしょうもない茶番劇を見せられて面白いと感じる事は、私にはできなかった。実は灰厭の影響でしたと言われても亜麻祢の好感度が上がることはないわけで…ラグナロクでもそうだったが、キャラクターを腐らせるのが本当に上手いなと思う。
●翼
和を重んじるポニテの才女ということで、まあ矢の如くオタクの好みに突き刺さってくるタイプの女の子だった。キャラクターデザインが発表された時から気になっていた。しかも驚くこと実は男だなんてTS要素も含んでいる。こんなの気にならないわけがない。後になるとわかるが、厳密にはTSではないのでそこで意見が分かれるかなと。
ルートの中身はかなり平和的で、終盤には恵真や羅睺との戦闘が待ち構えているわけだが、命のやりとりをするわけではなく、あくまで試練のようなもの。もっと言ってしまえば模擬戦のような形なので、読んでいて燃えることもなければ、感動することもない。なので話としては残念だったのだが…翼ちゃんが可愛いのでそれなりには満足しているかなと。最後の満面の笑みを見て否定する気にはなれない。
●しおん
人間の生活に慣れ、やがて堕落していく。こういったタイプの人外娘キャラは好物なので、しおんちゃんにもすぐに心を掴まれた。家庭内での立ち位置も絶妙で、調子に乗ると一家の主である亜麻祢に粛清される流れがとても好きだった。
シナリオ面も他と比べると茶番で終わりではなく、きちんと危険性を伴うバトルを繰り広げてくれるので、そこは良かったかなと思う。灰厭が唯一ちゃんと消滅する点も評価したい。また脇役の使い方も良くて、中でも西環の使い方はピカイチ。ただ者でないと思っていたが正体を明かすタイミング、役割含めて実に私好みだった。
ただ、過去回想の使い方が雑だったり、羅睺との戦いが消化試合のようになってしまっている点は残念だったかなと。「天、昇──せよ──」はもはや笑い所だろう。
●彌瑞璃&西環
彌瑞璃に関しては本当におまけ程度の内容で、彼女が好きな身としてはもう少し彼女との時間を楽しみたかったがまあ、非18禁なので仕方ないだろう。西環はというと、ある意味作中で最も初心な恋愛が描かれていて、短くはあるものの、彼女の事を更に好きになることができた。しおんルートとのギャップがたまらない。
とまあ全体的にやや酷評気味だが、何もかも駄目という事はなく、脇役のキャラクターへの印象はそこそこ良かった。続きが出るのであれば、是非とも彼女達を活躍させてほしい。
…本音を言うと昏式さんを連れてきて完全新作を出してほしい。