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asteryukariさんの芙蓉の浄土に安き給うの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
芙蓉の浄土に安き給う
ブランド
サキュレント
得点
78
参照数
389

一言コメント

壊れていく二人の男女の関係を描いた苦しくも気持ちの良い作品。短い時間の中で欲しい要素をしっかりと盛り込んでくれた。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

本作はかなり簡素なサウンドノベルであり、スチルはおろか立ち絵すらも存在しない。パッケージや作品紹介で見た登場人物たちの絵が作中で描かれることはないのだ。しかしながらそんな事が気にならなくなるくらいには面白い作品だった。

読んでいてまず感じたのが本作のヒロインであり、主人公でもあるミータオが大変魅力的な事。薬に手を出してしまい荒れるリョウを支えるために、ストリップ劇場で日々働く彼女。拒絶されようが強い言葉で罵られようが彼のために尽くし続ける彼女を見て何も感じないわけがなかった。どこか噛み合わない二人が今後どうなっていくのか、序盤の時点で既にがっちりと本作に心を掴まれていたのは言うまでもない。

想い人のために尽くし続ける女とそんな彼女の行為を疎ましく感じ、果ては生きていることに罪悪感すら感じている男。そんな二人が上手くいくはずもなく、二人の関係は次第に壊れていく。その壊れていくまでの書き方が非常に好みで、何とか繋ぎ止めている状態を続けた上で一気に壊すというのが切なくも丁寧で良かったなと思う。そして、二人の関係が壊れるきっかけとなったウツブシもキャラクターとしてよく光っていた。

二人とは圧倒的に違う富裕層であり、勝ち組である彼はまあ厭らしさをその身に纏ったような人物で、ああいった男性が好きなタイプの女性(手塚さんとか...)はさておき、好感度を抱く人は少ないかと思う。ただ、物語における彼の役割はとても重要であり、特に彼の勝ち組っぷりが描かれた余すことなく描かれたウツブシEND、リョウの事を意識しながら読むと苦しさと共に興奮を味わえる。リョウとは行為を重ねても子を宿す事はなかったのに、ウツブシの子はあっさりと孕んでしまう。お金の差だけでなく、男としても負けている。そんな事実を彼女は知ってしまったわけだ。

といった感じではじめに選んだウツブシENDも個人的にかなりそそるものだったが、もう一つのリョウENDはというと...こちらはそれ以上だった。何が良かったかというと、一番は動いてくれたのがミータオだった点。取られる側の結末を見たので今度はまあリョウ側が頑張るのかなと思っていたが、そんなことはなかった。振り返ってみると彼は終始負け組に徹していて、本人もそれでいいと考えていたんだなと。

けれど、彼女は違った。彼女は負け組ではなかったのだ。欲しいモノと奪われたくないモノのためにすべてを壊し、勝ちを掴み取りにいった彼女を描いたリョウENDは私の予期しない、それでいて大変に私好みの結末だった。あの結末を見て完全に彼女にぞっこんになってしまった。彼女に出会えたことが本作における最大の喜びである。



こうやって感想を書き綴ってみると、いかにミータオという人物にスポットライトを当てた作品だったかがよくわかる。本当に素敵な女性を用意してくれたものだ。

次回作も楽しみにしています。