この作品に貰ったものは、とても大きくて眩しいもので。きっと、これからずっと私の中で輝き続ける。
無印発売から約二年の時が経ち、久し振りに鳥白島に訪れたわけだが、やっぱり楽しい夏が待っていた。正直、この作品の発売を知った時は新作を作ってほしいという気持ちが強かったけれど、この作品を作ってくれたことに今は感謝しかない。そして自分は本当にSummer Pocketsという作品が好きなのだという事を再認した。
当初の予定では追加の4ルートだけやればいいかなと考えていたものの、共通ルートの加筆が気になったり、懐かしい掛け合いを見て純粋に「もう一度あの夏を見直したいなぁ」と。そして、その判断は正しかった。まさか最後にあんなサプライズが用意されているとは…その凄まじい不意打ちに驚くばかりだった。本当に無印だと救いがなかっただけに、ああいうのは嬉しい。
以下ルートごとの感想。
●識
本作の顔と言ってもいいであろう新規追加のヒロイン。鬼というワードを聞いてすぐピンと来た。ああ、そういえばモデルの島がそうだったなぁと。こういうのは実際に訪れたからこそ気付けた点であって、本当に行っておいてよかったなぁなんてゲームとは関係のない所で浸っていた。
スイカバーガチ勢とか、チャーハンガチ勢とか。個性的なものが好きなヒロイン達の中で今度はおむすびが好きだと。やけに普通だなと思ったのもつかの間、ありとあらゆる食材、料理をおむすびと紐づけてしまう識ちゃんを見て笑ってしまった。サザエがおむすびに似てたから盗っちゃったってなんだ...。
天真爛漫の言葉が似合う識ルートは彼女の目的通り鬼の伝説が絡んでいくわけなのだが、あまり胸に響かなかった。たしかに島のみんなのため一人で戦い続けるという点は素敵だが、それによって生まれるモノよりは失われるモノのほうが多かったように感じる。シナリオによって彼女の個性が次々と潰されていったような、そんな感覚だ。
島の皆からも称えられて、本人も満足そうな顔をしていたので不快感はないのだけれど、なんか寂しいだけだなぁと。彼女の事を好いていた自分としては感動に至ることはできなかった。ただ、回想の使い方は非常に良くて、その辺は流石の一言。
●美希
無印の頃からデレたらさぞ可愛いんだろうなと思っていただけに、嬉しい昇格だった。イケメンかどうか問われて、顔を赤らめながら肯定しちゃう所とか本当に「萌え」をわかっている。
だがこのルートにおいてもっともデレていたのは羽依里くんだろう。異性の夢を毎日のように見て、そのせいでその人の事を意識していくことになり、やがては好きになってしまう。こういう露骨な思春期の姿を見せてくれる主人公はなかなか久し振りだった気がする。この手のタイプの主人公が好きな人にはたまらないはず。鏡子さんの反応が実に良い。
そして話の要となってくるのは美希の出生の秘密。なぜ彼女があれだけ島の監視に努めるのか、その理由に気付いた時、思わず笑みが零れた。なるほどここにきて、そういう島らしさ溢れるエピソードを差し込んでくるのかと、欠けていたピースが上手くはまったような気分だった。
個人的にあの親戚たちに対しては全くといっていいほど気持ちが向かなかったので、美希があれほどまでに苦しんだ意味も理解し難かったのだが、最後には私の望んだ通りの答えを出してくれて安心した。
「行きます」ではなくて、「待っています」なのが本当に素敵だ。
●静久
まさかの牛さんがヒロインになっていて驚きを隠せなかった。同時に本編で素晴らしいと感じたあの三人の輪が崩れてしまわないか心配になったのだが、それは杞憂に終わった。このルートの何が素晴らしいって、それは主人公と静久の関係と同じかそれ以上に三人の関係にも焦点を当ててあげている点。
二人の結婚式のシーンなんかは最高で、BGMに紬の夏休みのInstrument verを流したり、キスは鳥さんと牛さんのぬいぐるみでしたりと、メインは二人なはずなのに紬の存在を忘れさせない要素が詰め込まれていた。
そして、そんな紬ちゃんは終盤でも大活躍。あの「大嫌い」はその場しのぎの一言ではなくて、静久が無意識に行ってしまう事そのもののストッパーになったわけだ。あの矛盾を孕んだの一言によってシステムを機能停止させる。ふわっとしているようで物凄く賢い紬ちゃんであった。
加えてこのルートではもう一つ、静久の内面に触れる。なぜ自分が無価値だと言っていたのか、その答えが示されるわけだ。この部分に関してはもう少し尺が欲しかった気もするが、だからといって他に削るところもなかったので少し歯痒さが残った。それだけこのシナリオは静久というキャラクターの奥深くにのめりこんでいた。
ここにきてまた紬ちゃんの株が上がってしまって困った。静久と同じく私も紬ちゃんの事は決して忘れないと思う。本当に素敵な女の子だった。
●うみ
大好きなうみちゃんのお話追加ということで、本音を言えばこのルートが本作における一番の楽しみであった。あの救いがなかったうみちゃんにどうか救いをと、手と手を合わせながらルートに突入した。
うみちゃんが羽依里の娘だとわかっているからこそ、二人で過ごす日常の尊さに当てられて、なんでもないようなシーンでうるっときたりしていた。あの子供vs大人のくだりもちょっとしたイベントのようで実はとっても意味がある。あれが二人にとって実質、初めての親と子の対話だったわけだ。
あと単純にあの話はギャグ要素が豊富で面白い。天善ってこんなに面白いキャラクターだったんだなと。うみちゃんの無慈悲な「使用中です」で爆笑してしまった。
そして、あの最後の見送りのシーン。
あの「─ん、ありがとう」を見て、このルートを、延いてはこの作品をプレイして良かったなと心の底から思った。
●Pocket
Switch版で歌詞が変更された「ポケットをふくらませて」を聴くことができただけでも相当嬉しかったが、まさかあんなのが待ち構えているとは...。あまりにも強引だけれど、彼女に救いを与えてくれた、願いを叶えてくれた。その事実だけでも十分だ。「よかったね、よかったね」と泣きながら彼女の笑顔を見つめていた。公式で公開されていたうみちゃんのイメージビジュアルとあの最後の一枚絵を見比べるともう...。
二回目だからと思っていたのに、気付いたら忘れられない夏の思い出がまた増えていた。
改めて、素敵な夏をありがとう。