本当に様々な者たちの意志とそのぶつかり合いが詰まった一作であり、これがまだ前編である事実がただただ恐ろしい。濃密でキレもある素晴らしい物語をありがとう。
サークルゴリッチュさんの最新作であり、本作は前編にあたる。しかし前編と侮るなかれ。ボリュームはその辺の作品の比ではない。過去作と比較してもこれほどまでのものは少ないかなと。しかも風船のようにただ膨らんで中身はスカスカというわけでもなく、密度も凄まじい。前編の時点でどこをとって歴代最高傑作と呼ぶ他なかった。
さて、まずは本作の大きな特徴とも言えるゲーム性について話していきたいと思う。本作は過去作と同様にキャラクターに話しかける、あるいは指定の場所を選択することでイベントが進行していくというもの。実質一本道で、ヒロインを順番に攻略していくこと作品の世界観も明らかになっていく。
ここまではまあ普通なのだが、そのヒロイン攻略イベントの合間に挟まれる「バトルHイベント」が珍しいシステムであり、憎きシステムでもあった。まあ、あまりネガティブな感想を残しても仕方がないので割愛するが、慣れるまでは中々辛いものがあった。本作の苦労ポイント①といったところか。
では苦労ポイント②は何かというと、これはまあお金稼ぎになる。本作は必要素材や術式は勿論、イベントに必要なヒントだってお金で買える。なので、お金さえあれば困ることはないのだが、そのお金稼ぎが序盤はなかなか難しかったりする。実際に私も術式に投資するという答えに行き着くまでに数時間くらいかかった。けれど仕組みに気付いてしまえば、あとはもうお金が減らなくなるので、苦労したかというと微妙なところかもしれない。
といった感じでゲーム性で少し辛い部分もあったわけだが、それを加味しても本作が名作であることは揺らがない。それほどまでにシナリオの出来が素晴らしかったのだ。最序盤から続く用務員同士のやりとりも好きだし、攻略ヒロインは皆それぞれに魅力がある。その上で核となるストーリーまで面白いときたら、本当に褒めちぎることしかできなくなってしまうだろう。以下、章ごとに印象深い部分、好きな場面等について褒めちぎりながら語っていく。
★ディッセンバー編
プロローグを経て最初のヒロイン√となるわけだが…最初からかなり飛ばしてくる。想い人の情報を得るべく近づいたら、その人を好きになっちゃった!では済まないほどにはっちゃけた内容となっていた。アモンをおんぶした瞬間から薄々気付いてはいたものの、リゲルが想像以上に変態さんで笑ってしまった。しかしまあディッセンバーもディッセンバーで性癖も言動も変態のそれなのでお似合いだったかなと。
また、えっちして終わりではなく、ディッセンバーの戦いと成長を描いたお話もしっかりと用意されているのが嬉しかったかなと。後の話に比べるとややあっさり気味ではあるものの、挫折を経て更にリゲルの事を想うようになる光景は眺めていて悪い気はしなかった。ケビンとの関係性をもう少し掘り下げてくれたらよかったかなと。
★イリヤ・ミラ編
さて、この章ではイリヤとミラの二人をヒロインとし、物語が進行していく。イリヤと言えば生徒に嵌められ、教師から用務員へと降格させられてしまった女性で、プロローグの時点でもかなり可哀想な印象を受けた。そして、ミラはその彼女を貶めた張本人。どう考えたってイリヤに肩入れしながら読むに決まっているのだが…私の場合はミラちゃんがもう本当に生意気可愛くてぞっこんになってしまった。
パラケルスス完成の為に近づくリゲルに攻撃を加え続けていた彼女だが、まあ相手が悪かった。持ち前のチョロイン属性も相俟って、即堕ち。しかも急降下していくから面白い。
「アタシが権威を取り戻したら、お前に明日は無ぇんだぞっ?」
「突き放してから優しくするにゃんて、裏技…♡ 誰でも堕ちるに、ふぁ、決まってんよ…♡」
ほんとにもう面白いほどに墜ちてくれて、そんなアホ可愛い彼女が好きになった。
終盤になるとミラの父の死が明らかになり、ミラらしくない態度をとるようになっていくのだが、その暗い空気をえっちでぶち壊してくれたのが良かったなぁと。あのギャグみたいな行為を本当にギャグとして使い、雰囲気を和ませる。本当に良い使い方をしてくれたと思う。
また、忘れてはいけないのが、本作はしっかりとイリヤとミラの物語である点。本当にミラの心情の変化が繊細に描かれていて、それを理解するイリヤの態度もまた素晴らしい。初めて「先生」と呼ぶ彼女を見て涙込み上げてきた。主人公は空気だったが、あくまで後押し役として、イリヤとミラの物語にしてくれた事実が私は嬉しかった。
★アルゲバル編
リゲルの妹であり、組織の要となる大事な立ち入りにいるアルゲバルちゃんのお話。この辺になるともう大体ヒロイン攻略までの手順が見えてきて、案の定リゲルの性技に完堕ちのアルゲバルちゃんだった。勿論、堕ちて終わりではなく、上から良いように使われていた彼女がしっかりと意志表示をし、力を示す素敵なお話が用意されていた。
この章では作品の世界観に迫る様々なヒント、人物が登場する。特に「ゴーレム」というワードは人物関係を理解する上で極めて重要な概念であり、謎だったクラウ、ヌアザ、ロックの三人の関係についてもようやく理解が及んだ。また、ではリゲルのもう一人の妹はどうなっているのかなど、また新しい疑問が生まれてくるのも面白い。
そして、皆から恐れられていた冬のダイヤモンドもこの章を機に登場回数を増やしていくのだが、この人がまた可愛い。息子同然のリゲルを死ぬほどかわいがってくれて、リゲルが主導権を握るとメロメロになる。まったく、こんなに可愛い母親を用意してくるなんて聞いていない。息子には甘さを見せる一方で、最も大切なのは自分だと断言するその底知れぬ黒さもまた彼女の魅力である。
★アモン編
待ちに待ったアモンの話という事で、序盤からまるで夫婦のようなやりとりを見せられ悶々としていた自分はもう楽しみで仕方なった。恩返しで繋がり、同棲することになり、手料理を振舞ったり、デートをしたり。そうやって着々と恋人へとステップアップしていく二人を見て何も言えなくなった。純粋にアモンというキャラクターの性格、容姿、立ち位置が大好きなことに加えて、物語で正妻みたいな扱いをしてもらえる。これほどまでに幸せなことなどあるのだろうか。
中盤になると過去話がメインとなるが、これもまた非常に読み応えがある。アモンとアダマスの信頼関係を見て、もしかしてとは思っていたが、髪色が変わり、「コンセントレーション」を見て即時に理解した。ああ、こうして彼は生まれたのかと。恐らく本作に対する評価が大きく音を立てて変わり始めた瞬間だった。
そして、時間軸が過去から現代へと戻り、「神の目計画」について語られると、終わりの時間がやってくる。
「あれだけ嫌いだった、記号の名前が…お前のおかげで、好きになれた…」
「オレの赴く地獄にはっ…あいつを同行させて、なるものか…!」
「お前が、いないと…意味が、無い…あの部屋で無いと、意味が無い…」
「宝物だった…んだ…」
リゲルに負けないくらい彼女のことを気に入っていた自分としては辛くてしかたがなかったし、なかなか堪えた。一番胸に突き刺さったのは単なる生き死にの事実ではなく、どんな姿になろうとも最愛の人を護り、戦い抜こうとする彼女の心の大きさと豊かさだった。この先、中編、後編と話が続いていっても、彼女のことは忘れないし、一番好きなヒロインであり続けると思う。個人的な願いとしては、どんな結末を迎えようとリゲルには最期、彼女のことを思い出してほしい。
★ダイス編
ミステリアスな雰囲気が漂うダイス。今までのヒロインとは少し違って、かなり恋愛関係に至るのが難しそうに見えたが、まあ天下のリゲル君の前では何の問題もなく堕としていた。印象深かったのは、アモンという存台を失った直後であることもあり、やはり会話の節目節目にしんみりとした時間がある点であり、個人的にはそれが少し嬉しかった。相変わらずヤリチンなのは変わらないけれど、やはり彼にとって彼女の存在は大きかったわけだ。
また、この章のヒロインはダイスだが、それ以上に目立っていたのはアルマースだろう。レイドとダイヤモンドのゴーレムとして覚醒した彼女の変わりようにはとても驚かされた。周りから見下され、何をやっても上手くいかなかった彼女が、ようやく周りを見返す力を得た。そして、今まで自分ができなかったことにどんどん手を伸ばしていく。醜くも人間らしく行動する彼女はなかなかに魅力的だった。しかしながら、好きになることはなかった。
かませ役が板についたキャラクターは好きになりがちなのだが、彼女の行い、彼女が殺めたキャラクター達のことを想うと絶対に好きにはなれなかったのだ...。ミラちゃん...。
★カタナ編
ルートに入る前からチョロインなカタナちゃんのターンということだが、この章もまたダイス編やアモン編と物語に夢中になりすぎて、カタナちゃんとのいちゃいちゃには目がいかなかった。
それよりもカタナちゃんの正体だ。どうしてレイドがあんなにも溺愛しているのか、どうしてラファエロの「コンセントレーション」を使えるのか、彼女が覚醒すると同時に全ての事実が繋がって、思わず声を上げてしまった。いや、こんなのもめちゃめちゃ面白いじゃないか。周りが即堕ち過ぎて違和感を持たなかったが、リゲルにデレデレなわけもよくわかる。
★EX編
前編を締める最終戦として、この上ないドラマを見せてくれた。何といってもおっさん達の活躍だ。特にトライがもう...。アルゲバル編にて良い人なのはわかっていたし、カイザー編でアンフ=トライであることがわかると、ますます好きになったが…ここでさらにもう一段階上にいってくれた。最期まで師匠としてその役割を全うし、愛を注ぎ続けてくれた彼にただただ涙した。
また、出番は少ないがらラファエロも良いキャラしていたなぁと。過去を見せ、彼に対する印象が変わったところで、「味方」として彼を登場させる。あくまで敵の敵は味方状態なのがまた良いなぁと。そして、彼の口から「アモン」という言葉が出た瞬間は、やはり込み上げてくるものがあった。…お前のそういうところが大好きなんだよ。
カイザーに関しては思う所もあるわけだが、家族や種族以上に、何よりもリゲルのことを想って行動していた事実を目の当たりにすると、こちらからは何も言えない。やはり彼に何か言うのはアモンの役割だろう。彼の言った通り、あちらで叱られてほしい。
ここまでざっと振り返っただけでも感情の波が押し寄せてくる。ここまで魅力的なキャラクターを揃えながら、物語の質も高い。こんなに充実した気分を味わったのは久方振りだった。これが前編なのが本当に信じられない。
次作はマンイーターフォレスト編ということで、またリゲルは悩み、苦しみ、決断していかなければならないのだろう。早くその苦悩を共に味わいたくて仕方ない...。