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asteryukariさんのSummer Pocketsの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
Summer Pockets
ブランド
Key
得点
89
参照数
1013

一言コメント

夏の物語として相応しい作品でした。本当にどこか懐かしい...。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

タイトルからすでに夏らしさが感じられ、keyの新作ということもあり発売日を心待ちにしていました。プレイしてみた感想はまさにひと時の夏の物語でした。やっぱり島が舞台の作品はやっててまずわくわくしますし、夏ということでノスタルジックな雰囲気を感じられます。また、肝心の内容についてはグランド√だけでなく、その他の個別√も理解しやすい且つ心に残るエピソードが多く全体的に見ても完成度が高かったと思います。以下ルートごとに感想を述べていきます。

●共通√
普段、個別√に行くために共通√を複数回見る必要がある作品の場合にはスキップしたりするのですが、この作品の共通√は毎回しっかり見てました。恐らくこれは誰もが感じたことだと思うんですが、うみちゃんが可愛すぎるんですよね。やたらチャーハン推しで年格好より少し大人びた口調で話す、おませさんな小さな女の子。こんなの好きになっちゃいます。もうずっとうみちゃんとの生活風景を見ていたい、そんな気持ちにさせてくれました。
また、体験版の時から注目されていた卓球のミニゲームが面白く、私はあまりやり込みませんでしたがミニゲームにハマってしばらく物語は進められない、そんな人もいたんじゃないかと思います。この作品に限らずノベルゲーム等の読み進めることが主体の作品にミニゲームがあると、いくらちゃっちいものでもやってみると案外楽しかったりします。
そして共通√の時点で懐かしさを感じるものがたくさん出てくるんですよね。駄菓子に始まり、ミニ四駆、ビーダマン、ハイパーヨーヨーなどプレイヤーが子供の頃に良く触れあったであろうものばかり出てきて、この作品は雰囲気だけでなく、懐かしさというもののすべてを感じてもらいたいんだなぁというのがよく分かりました。

●蒼√
蒼は最も女友達という言葉が似合う女の子だったと思います。そのくせ恋愛については免疫がなくすぐに慌てふためいたり、すぐにデレたりと年相応な女の子で、白目になって「ああああああああ!」と叫び出したりするなど見ていて飽きませんでした。肝心の内容は双子の姉である藍の存在が深くかかわってくるのですが、藍がまたいいキャラしてるんですよね。蒼も藍のことが大好きなんですが、藍も蒼のことが大好きという。事故も蒼を想う行動が原因で起きてしまったもので、藍が蒼を探している時の回想シーンでは想いの強さが伝わってきました。
ただ、話が思ったよりあっさりしていて、希望を目指す終わり方でEDに入ってのは悲壮感も漂ってきてよかったのですが、ED後に目を覚ますのはあんまりしっくりきませんでした。あれが主人公が諦めずに毎年頑張ってきた結果なのか、それともこれから目を覚ますのは難しいであろう彼女が主人公に見せた幻覚、もしくはストーリー上のせめてもの救いだったのかわかりませんが。また、発売前からやたら公式に推されていたイナリがそんなに活躍しませんでしたね。わざわざ設定に人間の言葉を理解できるなんて書いてあったので、てっきりもっと重要なキャラクターだと思っていました。

●鴎√
元気な黒髪ロングの女の子。単純に容姿的な好みで言うならメインの四人の中で一番かわいいと思いました。この√は最初、鴎の友情物語が語られていたのでそういう方向に話が進むもの思いきや、鴎が急に消えてから話の流れが一転しました。しかしそれは無駄シリアスなどではなく、しっかりとなぜあんなに友達に拘っていたのかにつながるお話でした。また、どうして10年前にすぐに計画を実行しなかったのか。それは単なる恥じらいではなく、皆を想うもので、小説の主役として、自分に憧れてくれた皆をひっぱていくリーダーとしての考えであり、やりだしたら最後までしっかりやりぬこうという鴎の意志の強さを表していました。
この√はかなり好きなお話だったのですが、好きだったために不満点が目立ってしまいました。それはED後の手紙なんですよね。これは正直やり過ぎだと思いました。ライターはまだ発表されていませんですが、多分あの人でしょう。「船の上で鴎が笑ってるように見えた」とかなら元々幽霊みたいなものですし良かったのですが、手紙という形のあるモノで残すのはどうなのかと思いました。手紙自体が幻覚なのかもしれませんがそれでもハッキリ言って蛇足でした。この√こそED後の蒼√のような感じで終わらせてほしかったです。

●紬√
この√は始めた時こそなんか変な娘いるなあくらいの印象だったのですが、メイン四人の√で唯一、それも号泣と言っていいほど泣きました。金髪ツインテールというだけでも可愛いのに、それに加え「むぎゅ」という口癖が非常に可愛らしい。また、この娘は私服もめちゃめちゃ可愛いんですよね。愛らしさと綺麗さを兼ね備えたパン屋さんのような服に加え、猫のパジャマ。ここまで可愛い可愛い言ってますがホントに可愛いしか言えなくなるんです。それでいてシナリオの完成度も高かったです。始めは半身のような存在であるツムギのために「わたしは、わたしを探しているんですけど...知りませんか?」と聞き込みをしたり、無事にこちらの世界に戻ってきた時に寂しいだろうなと思い、ツムギのためにお友達を作っていた彼女が、羽依里や静久、島のみんなと出会い初めて恋をして、初めてやりたいことを見つける。それはツムギのためではなく、紛れもない紬の意志であり、そのことに気付くのがもう終わりに近づいている時というのが、切なくも美しいものでした。この√で私が最も泣いた理由はズバリこれであり、勿論消えてしまうこと自体も悲しかったのですが、最後の最後に自分のやりたいことを見つけ満足げに笑顔で消えていく彼女の姿に心を打たれました。悲涙ではなく感涙なんですよね。
また、この√は扱いこそサブキャラクターですが静久が素晴らしいですね。大人びていると思いきや意外と涙もろく、はじめは師匠という立ち位置だったのに友達として三人の輪を構成していく重要なキャラクターになっていきました。この√をやって「ああ、非18禁でよかったな」と思いました。所謂三角関係になりにくいからです。別に非18禁だからならないとは限らないのですが、少なくともそういった騒動は起きにくく、現にそういった描写は本作では見られず最後まで綺麗な終わり方をしていました。
ただ、思うのはツムギは最後まで報われないなと...。紬がツムギのために尽力したのは痛いほどわかるのですが、もしツムギが現実に戻ってきても周りの人はいくら仲良くしてくれようが知らない人だし、ツムギが受ける悲しみと絶望は計り知れないものだと思います。なので戻ってくるのが紬なのは良かったと思いますが、どう転んでも不幸なツムギが可哀想で仕方ない...。

●しろは√
はい、きましたね、ぼっち系ミステリアス少女!大好きです。おまけに誰もいない場所で「れいだーん」と言っていたり、人と話すことが苦手だったりして非常に共感出来ました。「れいだーん」はボイス設定でしろはをクリックする聞けたりして暇を見つけては設定画面を立ち上げて「れいだーん」に聞き入ってました。話は伝奇のようなもので、問題の結末こそあっさりしていますが、見どころは結構あったと思います。
まずは良一ですね。子供の頃から内気でひ弱で、実は水泳の時間に裸になるのも恥ずかしがってた彼が図書館で知り合ったのがしろはであり、一時は友達がとして接していたのに自分が弱いせいで騒動が起きた時も、しろはには何も出来なかった。そんな自分が情けなくてそれから胸を張って生きようと思い今に至る。別に重大な謎という訳ではないですが、そんな良一が今の二人を見てどう思ってるかという発言を強調するという意味で、キャラとしての良さを際立たせていたと思います。
また、主人公である羽依里の謎がこの√だけではないのですが明かされていましたね。別に感情移入などはしなかったですが、一人なのに周りに連絡などせずに放浪旅のように感じた違和感が解消されました。最後の「夏が大好きだったことを思い出すために、俺は、ここまで来たんだ」という答えは夏の終わりを感じる良い終わり方だったと思います。
そして私が一番良いと思ったのが、しろはと主人公の関係なんですよね。ひと夏という限られた時間で出会い、最後までプラトニックな関係で終わる。非18禁だからこそこんなにもきれいなものになったんだと思います。二人で向き合ってるシーンなんてもう見ているこちらまでつい頬を緩めてしまう。そんなシーンでした。

●ALKA
この√からkey作品らしい展開になっていきます。まず驚くべきはうみちゃんのキャラの変わりようですね。以前は年格好より少し大人なしゃべり方だったのに、年格好よりもだいぶ子供なしゃべり方になっていました。話はそんなうみちゃんのために母親と父親を演じてあげようという言わば家族ごっこのようなものになるんですが、これが本物の家族だったとは...。スマホのことや未来が視えたり、時間旅行の話と伏線はあったのでそうかなと思っていましたが。そして時間旅行の反動でボロボロになっていくうみちゃんは見ていて辛かったです。あんなに大好きだったチャーハンの味がわからなくなってきたり、記憶が、うみちゃん自身だけでなく、うみちゃんに関わる記憶までもが、しろはと羽依里の中から消えていくのが悲しくてたまりませんでした。そして花火のシーンで、笑顔で折り紙を折る“母と子”のCGが出てきたところでつい泣いてしまいましたね。あんなの泣くわ。
そんな悲しみに追い打ちをかけるように、しろはが妊娠した時に、うみちゃんがなぜそうまでして過去に飛んできたかを知るんですよね、こんなの悲しすぎる。

●Pocket
ALKAでプレイヤーを深い絶望に追いやったまま全く知らないキャラが出てきた時はポカーンとしていましたが、そういうことかと。ALKAでチラッと語られただけの絵本の内容がここまで重要なものだとは思いませんでした。あの絵本は伝承を基に作られたものだったのですね。そして最後までうみちゃんいや、羽未ちゃんが持っていきましたね。しろはが自分を産んだ後死んでしまうことに気付いた彼女は、姿形が変わっても彼女を助けたい一心でここまでやってきた。それは母親を想う娘の姿であり、娘を想う母親の愛の深さというものはよく見るのですが、逆は珍しいと思いましたし、それ故涙が止まらなかったです。最後に奇跡の復活みたいな冷める部分もなく余韻を保ったまま終わりましたね。チャーハンという食べ物を見る目が変わりました。
また、羽未がしろはを止める時に現れた蝶の中に、しろはの母親である瞳らしき蝶がいましたね。エピローグでも鏡子さんが「これでよかったんだよね」、「瞳」と言っていたり、同じ時間旅行ができる人間として瞳も、未来を視る、あるいは未来に訪れており、しろはと羽依里、うみちゃんの身にこれから起こりうることを知り、何かしら鏡子に伝えていたのかもしれません。

総評すると名作だったと思います。あっさり感や少し足りないところはありますが、それでも難解過ぎることや、大きなマイナス点はなく、後半は最後まで感動しっぱなしでした。また、CGは言わずもがなBGMが素晴らしかったですね。流石は折戸伸治さん。純粋に曲がいいのと、智代アフターやAIRを思い出す旋律が使われたりしていてクリア後もしばらく聴いていました。早くサウンドトラックが欲しいです。
夏を感じられる作品として最後まで飽きることなく楽しませてくれました。ありがとうkey。