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asteryukariさんのCHAOS;CHILDの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
CHAOS;CHILD
ブランド
MAGES.(5pb.)
得点
92
参照数
395

一言コメント

設定と世界観を存分に生かした魅せるシナリオが素晴らしい。それと同時に最初から最後まで「誰かのために」という人の行動心理をうまく描いていたと思う。読了後はしばらく余韻に浸ってしまった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

--そして。僕は、このくそったれなゲームをクリアーした。

クリアしてこのキャッチコピーを見た時に、「ああ、逆だな」と感じた。勿論これはキャッチコピーの意味に対してではなく、私の気持ちである。もう凄まじい熱量を感じる、まさに名作であったし、それ故にまだまだ読み込み不足な点があるなとしみじみ思った。伏線を探しに行くためにも読了後すぐさま二週目に取り掛かろうと思ったが、まあ難しかった。そのうちやるはず...。

前作、「CHAOS;HEAD」の良い所を受け継ぎつつ、そこから更に読みごたえのある物語を作っていくという。その設定や世界観を用いた重厚なシナリオも素晴らしいし、何より登場人物達に関しても、その行動心理などについて繊細に描いてくれたのが嬉しい。そう、この作品の面白さはシナリオとキャラが合わさったからこそ生まれたのだ。

また、これは前作にも言えることだが、実際にある渋谷という地を舞台にしていたり、実際に起きているネットの問題を物語に組み込んでいったのが、とても好奇心をくすぐられた。ますます渋谷に赴きたくなった。いや、恐らく近いうちに行く。特にネットについての話は主人公達に投げかけられているようで、実はプレイヤーである私たちへのメッセージなのではないかと思う。

ネットの噂が噓であれ何であれ、重要なのはそこではない。問題はその「拡散性」にあるのだと。SNS社会に生きる者としては耳に痛い話だった。この問題を取り扱うニュースをほぼ毎日のように見る。

このように彼らの世界へすんなりと没入していけるのもこの作品の魅力ではないかと思う。


それでは話の中身について√ごとに語っていく。

○ノーマルエンド【Over Sky End】
コンテナの次はトレイラーかよ、そう突っ込まざるを得なかった。しかし前作の主人公に比べるとそれなりにまともな印象を受けた。オタクなのは変わらないが。そしてヘタレさも幾分かマシにはなったものの、やはりヘタレだった。まあヘタレじゃなかったらこの事件というか、話が丸々パーになるので必要だったのだ。

他人の生き死にを食い物をネタにする新聞部は、正直どうかとも思ったが、しっかりとお灸を据えられていた。それもだいぶきついのを。

結衣ちゃんの件はあまりの悲惨さに涙も出なかった。葬儀が終わってやっと涙を流す乃々や主人公を見ても涙は出なかった。よし、耐えきったと思ったのだが、結人君が感情を露わにするところでだめだった。

「...お姉ちゃんの、カタキ取れるかなぁ?僕とお姉ちゃんを、もう二度と会えなくした悪いやつ...捕まえられるかなぁ...」

今までそんなそぶりは見せなかったのに...。この不意打ちは効いた。

そしてこれに続き、乃々も殺されてしまったことで、犯人は誰なのか、私もいつの間にか憎しみを抱き始めていた。しかしながらこの√の犯人というのは中々複雑であり、誰を恨めばいいのかわからなかった。

勿論、実行犯は世莉架であるし、彼女を恨めばいいのかもしれないが、彼女の心情を考えると嫌いにはなれない。だがまあ主人公のためだからチャラという考えもできないものだから、私自身とても悩んだ。

が、やはり「架」という漢字のごとく主人公の献身として動いていたと思うと、好きの気持ちに傾くキャラだったなと。

「ねえ、タク。叶えられた?やりたいこと」

この台詞を言い換えたものが他の√でも最後に聞こえてくるのだが、ああ、本当に彼女は主人公の事だけを考え、行動していたのだなというのが伝わってくる。そしてそれだけに他の√での彼女を見るのがとても辛い...。


○うき√
地下施設で老人たちの世話をしていた少女。警戒心が強く、それが逆にそそられるというかなんというか。一言で言えば非常に愛らしい女の子だった。共に暮らしていくうちに段々と心を開いていく光景が妙に眩しかった。

彼女のENDは二つあるがどちらも救いというのはないように見えた。ただ、物語の結末としての救いはなかったものの、うき自身の悔いは少なかったのではないかなと思う。

うきはその優しさから、自分が幸せになるよりも、誰かが幸せになるほうが嬉しいと言っていた。その言葉に偽りはないはずだ。悲しいことには変わりないが、そんなうきの気持ちを考えてあげると少しは気が晴れる。


○華√
ネットゲームにハマっているサブカル女子。この子の√はやりたい放題だった。正直なところ微塵も面白くはなかったが、笑える要素に富んでいた。

『巨大力士シールマン』

これがツボに入ってしまった。なんだろう、気持ち悪いのに突き放せない。こういうのをキモカワ系と呼ぶのだろうか。

ただ、この√は和久井が委員会だとわかったり、エンスー2にて意外な人物が華に助言を与えてくるなど見所はあった。特に後者について、ナイトハルトもとい西條拓巳の登場は嬉しかった。口調もそのままでなんだかホッとした。あの頃は何も知らなかった彼も、委員会についての知識があったりと、彼なりに色々調べていることがわかった。


○乃々√
みんなのお姉ちゃん。作中でもお気に入りのキャラクターだった。いつも主人公や家族の事を気に掛けており、度々危ないことをしないでと言っていた彼女が、なぜあんな目にあったのか、ノーマルエンドでは悲しみしかなかった。

そんな彼女に救いをと言わんばかりに話に集中していたが、まさかの展開だった。私も彼らと同じく彼女の正体には戸惑ったがすぐに受け入れることができた。その理由は今までの姿である乃々以上に魅力を感じたからだ。

気付けば過去のエピソードに感情移入してしまい、涙を流していた。自分が嫌いになることや、誰か憧れたこと、そして大切な人を失った辛さ。そのどれもが私の胸に突き刺さってきた。

そして乃々として生きていくことの大変さというのも知った。この√をやっている最中、序盤に主人公が乃々に言い放った「俺たち家族でも何でもないじゃんか」という台詞を思い出した。あの時の乃々、いや千里の気持ちを考えると涙が...。

個別√の中では一番良い出来だった。南沢千里とその家族に幸あれ。


○雛絵√
あでぃおすぐらしあー、あでぃおすぐらしあー。容姿と性格に見事、射抜かれた。可愛すぎる。後輩キャラというのも小悪魔感があってよし。主人公の事を小馬鹿にしながらも、なにかと頼りになるし、心配してくれるという。女神か。

彼女はどの場面でも可愛いのだが、不意打ちでキスをし、その後、「えへへ。あでぃおすぐらしあー」と言いながら満面の笑みで帰っていくというシーンが印象的だ。一人で悶絶していた。もっと彼女とイチャイチャしたいと思っていただけに、話の結末を見た時は唖然とした。

人間不思議なもので、本当に受け入れられない事態に遭遇すると何も考えられなくなる。どうしてこうなった、親も失い、兄も失い、やっと見つけた心の拠り所であるところの主人公まで失った。どれだけ不幸になればいいのだ、雛絵ちゃんに幸せを...。


○TRUE【Silent Sky End】
個別√の多くがイマイチだったのと、ノーマルエンドのインパクトから、これ以上面白くなるのかと疑問だったが、それは杞憂に終わった。とんでもなかった。

まずは本作の大きなギミックとして存在した「カオスチャイルド症候群」には驚かされた。全ての伏線は回収しきれてないが、作中で気になっていた「こんなヨボヨボなやつ~」という表現や、街の人の視線などが伏線になっていたことを瞬時に理解し、震えた。

雛絵√にて雛絵と主人公が手を繋いだ時に、それを見ていた女性の反応も伏線だったのだろう。

「あたしたちも、あのふたりみたいになりたいね...。」

この台詞に違和感があったから覚えていたのだが、なるほど、彼女達には老夫婦が仲睦まじくしているように見えていたのかと。こうなると全伏線を拾いたくなってくる。

そして仲間のために、親友のために彼が選んだ道というのは涙なしには見られないものだった。記憶改変で彼女がやってきたこと、彼女を縛っていた「生きる目的」をすべて忘れさせ、彼女の罪も何もかも自分がしょい込んだ。

そのことを印象付けるためか、何も知らない世莉架が主人公に向かって「人殺し」などと非難するシーンがあった。あれがじわじわくる。やっぱり簡単なことじゃないんだと、重さがよくわかる。

劇場の演出に関しては入り方といい、世莉架の涙、スタンディングオペレーションのおかげでもう涙が止まらなかった。そしてそれだけはない、EDであるところの「silent wind bell」がどこまでも彼女想いであり、今までの出来事と、その出来事に向き合った彼の心情、彼女へ幸せを願ったものだった。画面が滲んでよく見えなかった。

そして結末についてなのだが、この上ない素晴らしいものだったと思う。冷めることもなくて本当に良かった。自分の意志を貫いた主人公も良かったが、彼の気持ちをしっかりと受け取り、「--ううん。知らない人」と笑って言った世莉架も良い。記憶が戻っているわけではないというのがミソ。

くそったれな茶番、現実が終わった。ハッピーエンドではないのかもしれないが、この終わり方が堪らなく好きだ。この先、彼女は罪を忘れ、知らず生きていく。主人公の事を想うと少し寂しい気もするが、「彼女が幸せになること」、これこそが彼の願いなのだ。彼を想うからこそ、この結末を愛したい。それが私の出した答えだ。