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asteryukariさんのカミツレ ~7の二乗不思議~の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
カミツレ ~7の二乗不思議~
ブランド
りぷる
得点
72
参照数
119

一言コメント

引っかかる点もいくつかあるが、設定の活かし方及びヒロインに対する主人公の向き合い方には好感を覚えた。自分の役割というものをよく理解している。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

心に男の人格を持つ女の子が主人公という中々珍しいタイプの作品。純粋な百合ゲーを求めているのであれば嫌悪感を抱くユーザーもいるだろうなと思いつつ、私的にはさほど気にならなかった。むしろこのレア設定をどう活かしていくのか、そこが最も注目すべき点だと考えていたからだ。

「二乗不思議」ということでよくある学園七不思議のように本作でも様々な謎が序盤から仕込まれていた。良かったのはロックがかかっている七海√で全謎が解けるのではなく、√ごとに特定の謎が解消されていくところ。決してメインのための前座ではない、他のヒロイン達も魅せようとする意志が感じられた。

また、いきなり謎が解けるのではなく、物語の合間合間で関連するワードが小出しにされていく感じも嬉しい。「姉」という言葉も始めは単に相手を慕うためのものだと思っていたが、話が進行していくにつれて意味を帯びてくる。そこに大きな感動を覚えたわけではないのだが、好きな要素の一つだったなと。

√として最も好きだったのは狛江√であり、話自体はこじんまりとしていたものの、設定の活かし方とそれから単純にテーマが私好みのものだった。

もう一人の人格「蕗絵」に思い悩む狛江に対し、同じように悩み苦しんだ経験のある主人公が助言する。これにより解決に向かうという流れがとても気持ち良かった。また、直接助けるのではなく、あくまで後押しするだけという点ついてもかなり気に入っている。変わるのは自分なんだと、それを狛江に理解させる。それが大事なのだ。自身と向き合い、本当の意味で「狛江」になった彼女が零す笑顔はとても美しかった。最後の集合写真が凄く良い。

七海√に関しても設定の謎が解けるあの感覚及び落とし所は良かったと思うのだが、少し「むつき」の扱いが気になった。某√を除いて変にでしゃばる事もなく、最終的には「睦月」を助けるために良い役割を全うしてくれたとも感じるのだが、一方で男であることのメリットはやや薄かったかなと。単純に女の人格二つで片方がゆうりと一緒になる流れの方が感情を揺さぶられたかと思う。ただ、男だからこそ動ける場面もあったので…男勝りな女の人格だったら尚良かったかもしれない。

あとは薫子√があっけなく終わってしまったのが少々残念かなと。読み手の心を掴む可能性は十分に秘めていたし、カナコというキャラクター自体ももっと掘り下げられたように感じる。まあ、メイン√で注力したといったところか。

消化不良な点もいくつかあるが、作品自体の出来は悪くなかったかなと。EDについても物語に沿うような素敵な歌詞が書かれていてとても良かったと思う。