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asteryukariさんの幼馴染と十年、夏の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
幼馴染と十年、夏
ブランド
夜のひつじ
得点
94
参照数
757

一言コメント

幾星霜を経て結びついた愛の物語。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「幼馴染」、「十年」、「夏」...一つ一つの言葉がいいですよね。タイトル画面ではこれらの言葉と合わせて幼馴染である枝梨とピアノのBGMが流れており、タイトル画面の時点で作品への期待度が上がります。舞台はタイトル通り小学生、中学生、高校生の夏休みになっていて、夏休み〇日目という形で物語が進んでいきます。どれも素晴らしいのですが、特に印象に残ったのは小学生時代の話で、この物語のテーマである純愛とは別のそこはかとない懐かしさに目を奪われました。

夏祭りで親から渡された千円を二人でどう使うか悩むシーンがとても印象的で、今では身近な千円も子供の頃はとても大きなお金に感じていたのを思い出しました。場面は千円を二人でどう使うか考えてる主人公を気にせずに、枝梨が近くの屋台で綿あめを買おうとした際に、その屋台のおじさんがカップルだからサービスという形で綿あめを二本くれるというところで、その後に
『枝梨「おじさん、いい人だったね」
 葉人「うん。これでお金が浮いたぞ」
    うきうきしながら言う葉人を枝梨はちょっと微妙な表情で見る。』
という会話があるんですが、このシーンがベタですがとても好きで、ここではおじさんに言われたことよりも目先の得にはしゃぐ主人公を見て、ふとした一言で恋愛感情について考えていた枝梨が呆れているというのが立ち絵を見なくてもわかりました。また余ったお金で主人公が浴衣を着れなくて残念そうにしていた枝梨に髪飾りを買ってあげたのが個人的にとても刺さりました。幼少期にあげた髪飾りが後の恋愛におけるキーになることがあるからです。

中学生時代に関しては小学生時代とは全然違う二人の性格、空いてしまった距離感、周りの環境の変化等が無駄なく描かれていて、お互いが距離を置くきっかけとなった出来事に徐々に触れながら、お互いのことをもっと知るために中学生らしい不器用なやり方で愛を育んでいくお話であり、性行為のシーンですら二人の純愛模様に感動しました。また空いた距離が縮まるきっかけとして、小学生時代の宿題を手伝うというエピソードが、補習を手伝うという形になったのも幼馴染だからこそできることであり、素晴らしかったです。

高校生時代に入るともう結ばれた後の物語であり、家に入り浸る彼女とそれ呆れながらも愛おしく思う主人公のいちゃらぶ生活が描かれています。この話にはもう少しインパクトのある出来事が欲しいなと思ったのですが、長年かけて結ばれた二人はこれ以上にないほど幸せですし、これが二人の終着点なのだなと思いました。この先何か加えられるとしたら、結婚、出産、育児等があるかもしれませんが、そこまで内容に盛り込んでしまうとタイトルとは違った作品になってしまいます。

自分は幼馴染自体は好きだったのですが、どちらかというと“ツンデレ幼馴染”が好きだったのでプレイする前は、やや抵抗がありました。しかしプレイしてみると枝梨の独特のキャラ性、どこか懐かしい夏休みの雰囲気、場面の完成度を高める美しいピアノの旋律、系統は違ってもやはり積み重ねた年月が強く光る幼馴染を感じることができて、涙するシーンはないはずなのに自然と涙が出てきました。この作品と出会ったことで、これまで以上に幼馴染の素晴らしさを知ることが出来たと思います。幼馴染物語の教科書として永劫、私の中に残り続ける作品になるでしょう。