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apple0812さんの月の彼方で逢いましょうの長文感想

ユーザー
apple0812
ゲーム
月の彼方で逢いましょう
ブランド
tone work's
得点
90
参照数
314

一言コメント

人生に少し前向きになれる、そんな勇気をくれる作品

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

雨音√は実質グランドなので、そこだけ守ってもらえればあとはお好きなように。

 どの√も少しずつ毛色が違って、色んな方向から楽しめた。男性耐性0の漫画作家と、最初から狙ってきてたイケメン食いは除くとして、しっかり恋愛していた感が強かった。中学生編はないが、確かにtone work'sのゲームだなと感じた部分。
 個人的な順番は 雨音(グランド)>>>>>せいら>編集長>灯華>先輩

シナリオについて
 前作「銀色、遥か」に比べて、緩急がついたシナリオになっており、純愛一辺倒というよりかは苦悩、葛藤を描く部分も増えているため、はるかに読みごたえのあるシナリオに全体として仕上がっている。感想はプレイ順

灯華√ 
 完全に導入。自分の些細な地雷として、「時系列を追わない別の主人公地雷」というのがあって、要はサノバの if主人公とかが地雷なのだが、そういう感じで過去の主人公には大分苛つきながらプレイしていた。というか、ライターが違うから当たり前なのだが、このルートに関してはAFTERがシナリオの大部分を占めている。高校生編はプロローグでしかない。でも当のヒロインは社会人軸では出て来ないし、Hしてるのは過去だし、これもうわかんねぇな?
 主人公に感情移入できなかった、自分から見て灯華の行動が納得できず好きになれるヒロインではなかったが、導入要素が前述の通り強いルートなので色々とギリで許せた。パッケージヒロインらしさはない√だと思う。
 SFとしては素人が書いた感が強い。導入と割り切って読めばいいと思う。

編集長√
 ちゃんと大人の恋愛できるじゃねぇか、奏汰ァ.....toneらしからぬ社会人恋愛。普通に葛藤して普通に結婚したと言ってしまえばそれまでだが、技量があるライターが書いてるので率直に面白かった。35歳って人によって違いありすぎるラインだよなと思った。絶妙な年齢の采配だと思う。

せいら√
ロリが、、、、、、魔性の女になってた......
 一部の方はそのままであってほしいと願ってたらしいが、自分は普通に両方好きになれた。
 とっととヤるのかと思っていたが(言い方)実際は社会人と学生の恋愛って...といった文章が本文で書かれるくらいには意識のしっかりした主人公で、後半からはノスタル爺になっていた。過去がしっかりと描かれていることと、そうした葛藤の文量がかなりあったので、社会人×過去に付き合ってやると約束をした少女との恋愛というテーマで、普通に及第点をあげられる出来。これ単品で普通におもしろいので、さすがのtone work's。でもあのビキニのデザインはダサいと思う。編集長の大人のパレオを見習え。

先輩√
金ラブ、もしくは青ブタ。それらであのテーマはうまく書かれすぎているのでとくに話すことはない。
一つ文句言いたいのは、学生の頃一回行ったデートで、今まで一切興味のなかったカフェの業界に就職するか?


雨音√
 家族の話。結婚の話。学生から社会人へと成長した私達の、苦しさとこれからの話。
文章量が他と違いすぎる。高校生編だけで灯華のAFTERくらいは多分ある。
言いたいこと多すぎて頭がごっちゃだが、これだけは言いたい。くすはらゆい最強。
 自分がくすはらゆいボイス大好きというのは勿論あるのだが、前作よりも全然ボイスとキャラの噛み合わせがいい。というか、頻繁に「ふにゃっ...!?」とか、「ダーリン」とか話させるのに、あれほど嫌味なく最後まで読み切れたのは間違いなく、くすはらゆいボイスのおかげ。白矢たつきはもっと感謝した方がいい。

 前半はキャラゲー色がとても強く、そこまで語ることはない。バイトのエプロン姿は差分用意した絵師さんにありがとうと強く言いたい。伏線撒きをしながら確実に雨音への好感度を高められる。Hシーンが1回しかないのなにげに巧いなと思っていて、その一回で二人の関係性の結びつきをアピールしつつ、他のHシーンでもちゃんと意味をもたせた場所で差し込んでいる。詰め込み感が一切ない。理想的なHシーンの配置ではないかと思う。

 後半は一気に地に足つけた展開になる。小説家を志していた大学生の主人公が、それを一旦諦めて就職するという、他のルートではわざわざ描かれなかった小さな「挫折」を描写に挟んでいるのがその証左。
 閑話になるが、このゲーム主人公が小説家を目指している割に、色んなルートがあるというのに、わかりやすく夢を叶えて物書きとして大成するというのがない。それは主人公にそこまでの才能がないという決定的な事実の裏付けではあるのだけど、その主人公が自身の名前で本を出版して、それに重版が掛かって...というのが取材で人の話に耳を傾けて、彼女の人生を汲み取って、という流れの上に叶っているというのがなんともこの愚直な主人公らしく、またtoneらしくもあるなと思う。飲み会で友人'sと話した「夢は大人になっても叶えられる。」というのが我々も持つほんわかした葛藤に対するこのゲームのアンサーなんだと私は勝手に解釈した。
 ここまではスラスラ出てくるくらいのシナリオなのに、SSRの方でイチャラブも補完できるからすごいゲームですよこいつは。
 家族と結婚に関しては、私が不得手としているので多くは語らない。皆プレイして各々感じ取ればいいと思う。ただ読んでいる最中、私の中の幸せになりなゲージが天元突破していた。お幸せに!


ほんの少し不可解な点
 SF要素については、別段面白いわけではないけど物語を少し味付けするフレーバーとしてはよく機能していると思う。が、このゲームをSFとして読むのはたぶん適してない。そこに文句付ける人は伊藤計劃でも読んどけ、と思っていたが一つSFとして重大な穴を挙げさせてもらうと、過去のグレイ(エンデュミオン未開発=妻が生存時)にメッセージが送れているということ。そのころは幸せの絶頂で過去との通信の実用化を考えていないはずなので(一つの世界としての通信という発想はあったにせよ、それを実現させようと考えたのは妻の死からであるため)、相互のエンデュミオンと中継役が通信には必要であるという基本的なルールを無視している。厄介なSFオタクみたいなこと言ってごめんなさい。大人しく伊藤計劃読んできます。


楽曲全般について
 ルートごとに曲がついてくるいつもながら嬉しいやつ。After Rainは歌詞もあって最高だった。Lovely Spiceもエロゲらしい軽やかなODのギターが好みだったので好評価。いつも通り個別曲はハズレがない。
bgmも前作よりもちょっと充実していた印象を受けた。おきにbgmはラブリースイート。ローテンポのカッティングが好き。つまり文句なしってことです。

イラストについて
 前よりも更に美しくなってらぁ....最高です。特に目の描き方がより自分の好みに近づいていた。一枚絵の少なさ問題も必要なところにしっかり挟むことで解決に近づいた気がする。たぶん。というわけでこちらも文句のつけようがない。toneはイラストの成長を見守るブランドとはよく言ったものだと思う。

総評になるはずだったもの
 いつもはプレイ後一息に書いているのだが、今回長文になってしまったので間を開けて書いたら、ちょっと途中で感情が薄れてしまった気がする。一言感想の部分は今の自分が読んでも強く共感できることなのだけど、その詳細を文章化できるほどの力が今はないので後に託します。
 他にも頭の中に粗雑に転がっている感想はあるけど、まともな文章になりそうにないのであしからず。ただ今回のことで白矢たつきとは性癖が合うということがわかったので、tone含めてこれからも追っていこうと思った。
それでは私はこれからSSR(FD)遊んでくるので。