BGMや雰囲気づくり、シナリオテキスト自体もなかなか良かったが、何よりイベントCG…特に背景の美しさは頭一つどころか3つくらい抜けている。エロゲにおけるイベントCGは良くも悪くもとにかくキャラを見せる事のみを意識した構図が大半だが、本作は背景も含めて一枚の絵として完成させているものが多い。そういう意味ではpixiv等で人気上位にランクインしているようなイラストに近い。また本編の尺に対しイベントCG枚数が多く、かなりの頻度で表示されるためとても豪華に感じ満足度が高い。総じて、やって良かった。
↓ちゃんとネタバレを含んでいるので気を付けて。
本編全体についての感想は、発売から5年後にプレイしている事もあり他の方も十二分に触れている為、今更長々語ることもない。
中弛みを感じる部分も多少はあれど、短めの尺の中に面白さが詰め込まれており、私にとって良い作品であった。これだけで十分だ。
よってここではED周りについてのみ触れる。
私は元ネタと言えるカミュ周りの知識は皆無だったが、難しそうな内容を感心するほど分かりやすく詳しく説明してくださっているF氏のレビューをクリア後に読ませていただき、その知識だけを仕入れたにわか選手権1位が取れそうな状態だが…
逆に、それ程までの前知識があり、それをもとに様々な考察までされたのならば、なぜもう1歩、元ネタではなくこの作品に対して踏み込んで考えられなかったのだろうか…と、そのせいでその人にとってのこの作品が低評価で終わってしまった事を悔しくすら思ってしまった。
この主人公達は、カミュと酷似した状況、世界観に置かれた、…しかしカミュの登場人物そのものではない。そこを勘違いしてはいけない。
本作はカミュそのものでもリメイクでもエロパッチを当てた物などでもなく、あくまで「青い空のカミュ」なのだから。
とはいえ本作をより楽しむには、元ネタであるカミュ関連の知識は間違いなく一役も二役も買う。逆に何も知らないままでは「なんかイマイチ理解し切れない部分もちらほらあったけどまぁなんとなくいい作品だった」程度の感想にしかなり得なかった。
故にそのレビュワー様には本当に感謝しかない。(というか何も分からん人への説明うますぎでしょ…尊敬。)
前述の通り私はそのレビューを拝見させていただくまで元ネタの存在すら知らなかったレベルであり、クリア後に他者のレビューという偏っているかもしれない知識を得ただけに過ぎないが、前知識がなかったおかげで余計なノイズが入らずに読めたとも思える為むしろこの順番で良かったかもしれない。
そして本題、この作品のラスト。人によって解釈が分かれているように見受けられる部分だが、
蛍は確実に、そして恐らく燐も死んでいる。 と私は解釈した。
燐は、青いドアの家に気を取られた事で列車に乗り遅れる描写があった。あの状況において燐がそれほどまでに気を取られてしまう何かといえば…例えばあの世界に彼の姿でも見たのではないか。
そして乗り遅れたことに気付きすぐ追いかけたが間に合わず、立ち止まってしまう。それにより燐は恐らくあの世界止まり…いや留まることとなり、オオモトサマと同じような状態にでもなったのではないか。
もしかしたら追いかける前か最中にでも、自分とは”行先”が違う事に気付いたのかもしれない。あのシーンからは蛍視点で描かれており、一見燐が一緒に乗るために追いかけたシーンに見える。が、実際は死に行く蛍を燐が引き留めようと手を伸ばす、しかし引き留めたところで意味などない事を悟り立ち尽くした…そんなシーンだったのかもしれない。
蛍は、一見元の世界に戻れたかのようにも見えるものの違和感満載な描写であったが、例のラジオが流れていた事や燐の行先で飛ばした紙飛行機が飛んできた事からも、少なくとも元の世界ではなく、例えば死後の世界的な描写だったのではないだろうか。燐にとっての風車地帯のような、”蛍にとっての”行先とか。
ついでに、あれ程までに徹底してカミュを世界観のベースにしているにも関わらず何故か語られた銀河鉄道の夜という異物も、当然本作に無関係ではなく、この解釈を補強する要素である。
あの列車など分かりやすく、その存在自体も、人によって見える行先が異なる点も、まさにそういう物であったのだろう。
つまり、一見切なさを感じつつも希望もありそうなエンドにも見えるが、
その実たまたま理不尽に巻き込まれただけの2人ともが死に、しかもあれだけお互いを大事に想っていたにも関わらず一緒にすら居られないという残酷な形で終わっているのである。
ここで改めてカミュの話と照らし合わせるならば、
確かにカミュにおいて徹底的に否定されている暴力行為を二人ともが行ってしまった。
それはライターの決定的なミスだと例のレビュワー様は批判されていたが、ここまでしっかりカミュを素地とした世界観を創り出したライターがこうも初歩の初歩ともいえるミスを犯すなど不自然極まりない、もし本当にミスなら急にどうした?と心配する事態であり、あり得ないと言っていい。
当然、狙って行われた行為である。
なぜなら本作はカミュそのものではなく、「青い空のカミュ」なのだから。
しかし同時に、本作の根底にあるのはどうしようもなくカミュなのである。
だからこそ、だ。
世界観における禁忌ともいえる行為を行った2人は、
その罰、代償として死と別離という重く悲しい結末を迎えることになったのではないだろうか。
…と、これで締められればスマートだったのだが、
ここまで書いておいて何だが、蛍はともかく燐については蛍と離れて以降の描写もなく死んだと断言する根拠は正直薄い。
本作において銀河鉄道の夜は主人公達の死を遠回しに表現する為の要素として取り入れられたに過ぎず、あくまで根幹はカミュであり、そして燐もその主役であったのなら、蛍と同等の結末…青いドアの家にとらわれたにせよ後に列車に乗ったにせよ何かしらの形の死を迎えた方が自然であると思う。
しかしもし銀河鉄道の夜の方に即するならば、ジョバンニにあたる燐は生きて母の元へ帰れた事になる。その場合、燐の家の事情もこの為の伏線だったのかと得心が行ってしまう。
あの時青いドアの家に気を取られたのも、もしかしたら現実世界へ続くドア(帰り道)でも見えていたのかもしれない。
現実側の世界はどうしようもなくカミュの世界観だが、あの青いドア…青い空の世界は銀河鉄道の夜が色濃く、あながちあり得ない話でもない。
つまり本作の根底にあるのがカミュであるという認識がそもそも少しだけ間違っていて、
2つの世界観の二本柱…言ってしまえば本作は、銀河鉄道のカミュ、青空鉄道のカミュとでも呼べる作品だったのかもしれない。
とはいえそれはそれであの状況から独り生き残った燐にとってはあまりにも辛い結末だろう。
そしてラストシーン、一見蛍が生き残り燐が死んだかのようにも映るが真実はその逆という、なかなか面白い表現をしていることとなる。
作品の真相としてはこちらの方が秀逸かもしれない。
どちらにせよ悲しい結末である事には変わりないが。