間男が実父じゃなければもっと高評価を得れた気が
全体を俯瞰すれば概ね良好な作品ではあるが、ライターが数人いるせいか若干描写が荒くて常に疑問を抱きながら進めなければならない。
例えば主人公の後輩「歩実」が終盤では空気になり、単なる浮気を疑わせるためだけの当て馬キャラに成り下がる扱いや、一部ルートの後半では産まれた子供が忘れられたような展開だったり。逆にマルチエンドのひとつでは主人公が子供に手を出してたりと、話に没入するにはいろいろ障害も多いが、やはり一番の問題は「間男が実父」であったことだろう。
主人公「直也」の父親「宣践」は、NTR作品の間男としてはいいキャラクターではあった。序盤でこそヒロインを酔わせて襲ってはいるが、狡猾にじわりじわりと攻める手段をとっていて、いわゆる「過程重視」の内容。ヒロインが徐々に篭絡される話が好きな人には寝取るキャラとして申し分ない存在だったであろう。ただ、それが実父となると話が少し違ってきて問題が発生する。このゲームはそれをあまり解消できていない。
まず宣践の設定にこうある。
<妻を溺愛しており、その看病の為にリストラのタイミングで会社を辞める。死後は意気消沈し日がな一日仏壇の前でボーっしている事が多くなる>
確かに冒頭では設定どおりの描写となっており、その落ち込み具合を見かねた直也が妻「叶愛」を連れて同居するところから話がはじまる。ここまでは「普通の父親」だ。不用意にも酔った勢いで直也と叶愛が寝ている宣践の横でセックスするまでは・・・。
いやホント不用意w。それさえしなけりゃ寝取られることもなかったのにとか思わなくもないが、それを言っちゃあお終いだから目を瞑るとして、後に語られる「Side宣践」つまり宣践視点で解かるのが叶愛を寝取ろうと思ったタイミングがここだったという点。こんなところで覚醒したら、そりゃあ誰がみても「豊満エロボディの叶愛が喘いでるのみたら俺も抱きたくなった」としか感じないだろう。しかも面倒をみてくれる叶愛に対して、好意を持ち始めたとかそんな描写は序盤のごくわずかしか出てこず、叶愛に絆される感情の機微はほとんどない。それに覚醒直前まで、落ち込みもほどほどに息子の出世が誇らしいとか「普通に父親」してたのに、その誇らしい息子の嫁を「俺ならもっと喘がせられる」とか考えて寝取ろうと決意するってどう考えても「異常」だ。
もう一度設定を。妻を溺愛?・・・えっと、あの落ち込みっぷりって嘘ですか?しかもそこ仏前なんだが?それに息子に対する親愛や誇りは?
そういう部分をすっ飛ばしてあのタイミングで覚醒したら、そりゃ「息子夫婦のセックスに当てられただけの色欲親父」にしかみえねーわな。「息子に嫉妬した」から「叶愛さんに愛情を感じてる」とか言ってたけど、いやあんた、確かこう考えてましたよね?「オスの本能があの女を奪え云々」みたいなこと。まずこんな考えを持つ「父親が異常」で違和感を覚えずにはいられない。しかもその後の欲望を成就させるための立ち回り。簡単に言えば「この実父の考えがよく解からない」のである。
結局、この違和感を最後まで払拭しきれなかったプレイヤーは多かったはずだ。宣践が叶愛を気遣う描写は数多くあったが、息子をないがしろにして権謀術策で寝取ろうとする姿(エロ描写含む)はどう見ても「愛情<性欲」としか思えず、宣践が何度も言う叶愛への愛情やらが常にうそ臭く感じてしまう。本当に、本当にこの親父の考えがよく解からない。
それが「実父じゃなければ~」に繋がる感想の正体だろう。
よく「寝取られ作品は関係性が大事」といわれるが、この作品では間男を父親にしたことで、よく知らない他人では発生しえない「親子の関係」という問題が浮上し、それをほとんど扱わず解決していないので「間男が実父である必然性」が解消できないままプレイし続けることになってしまっている。
仮に宣践が極悪人だったり、自分の欲望を優先させるキャラなら話は早い。実際、覚醒してからの宣践はエロゲーの間男らしく、姑息かつ巧妙に動き回り(ついでに腰も振り回し)、NTR作品に相応しい立派な寝取り男を演じている。歩実をも利用して叶愛の嫉妬心を煽る策略ぶりは、過程重視のNTRスキーにはとても嬉しい限りだ。
しかし宣践は、あくまで普通の父親として設定されている。であるならば、少なくとも父親が息子の嫁を寝取ろうとする異常性、しかも宣践のように「愛ゆえに」と言うなら「オスの本能」の一言で済ませず、上記のタイミング以前までに溺愛していた亡き妻から叶愛に愛情を寄せる心移りをしっかり描くべきだ。ましてや謀略の最中(=セックス中)の間男がいう「愛してる」ほど胡散臭いものはなく、単なる寝取る作戦の一つにしかみえないから余計に難しい。せっかく寝取る過程をじっくり描く粘り強さを発揮したのだから、息子を悲しませてでも成すべきかの葛藤や心情変化を丹念に描いて、間男が父親である必然性をプレイヤーに納得させる丁寧さも欲しかった。
つまり間男としての「姦計」は十二分に描けていた反面、親子や家族の「関係」は十分に描けていなかったのが本作最大の欠点である。
長々と宣践について書いてきたが、それだけ間男が主人公の実父という設定によって生じたマイナスポイントが重要な部分だったからだ。逆にいえば、そこさえクリア出来ていれば他はそれほど指摘するに及ばない高評価なNTR作品だったと思われる。即堕ちしない過程重視の内容に、濃厚なセックスシーンやアニメーション(立ち絵も動き躍動感がある、主に胸がw)はもちろんのこと、原画家の名前はともかくキャラデザインもイベント絵も良好で、声もキャラにあっている。髪型が変わることで時間経過を感じさせるのも良い設定だ。といっても伸ばすキッカケは宣践の好みに合わせてるのがやる瀬なく、さらに真エンドではまたショートに戻っていて・・・やっぱりそうなのかと余計に切なくなるがw
他にも(内容の是非はともかく)エンディングが多岐にわたるのもいいし、間男の影響で主人公との行為に影響を及ぼす描写があるのもNTR作品ならではだ。なによりポリネシアンセックスを扱っていたのはポイントが高く、エロゲーでもあまり見かけることのないこのシチュエーションは、じっくりと攻め堕とすNTRと相性のいいことも判って良い発見であった。
さて、ここからはもっと個人的な好みで気になった点を少し。
このゲームは選択肢によるマルチエンド方式となっていて、ハッピーエンドはあるものの、序盤に襲われて一度は挿入されているので完全回避が不能となっている。そのハッピーエンドとて時期的に手コキ、パイズリ、フェラチオ(お掃除フェラ含む)、素股、精飲、ベロチュー、69、手マン、クンニ、アナルセックスと、二度目の本番以外の行為が一通り行われた後なので、考えようによっては結構酷い惨状だ。ただ、真エンドへ至るその後の展開(別ルート)と違って、状況的にみても産まれてくる子供はおそらく直也との子で、宣践の魔の手から離れて暮らしていることからも一応ハッピーエンドということになる。人によっては「いやあれは裏で続いてるんだよ、子供も宣践との子だ。だって髪型がロングだし」と疑うかもしれないが、前後の展開からそこまで穿った見方はしなくていいだろうw
そして真エンドへ連なる分岐ルートでも、一部ではほぼ堕ちている様子も窺えるものの、バレ後の態度や制裁エンドの反応から見て一時的にラリっているだけで、おそらく直也に対する愛情が消えたわけではないと思われる。個人的見解だが、本作の叶愛は完堕ちしていないヒロインだと感じている。前作『壁の向こうの妻の嬌声』が完堕ち人妻ヒロインだったので、次は完堕ちしない人妻ヒロインで、という作者側の意図もあるだろう。
その点では、他ルートでの叶愛の気持ちと一貫してブレがないので真エンドでの再構築の流れは了承できるのだが、残念だと思うのは「主人公も浮気して有責持ちでなければ真エンドにたどり着けない」というところだ。そこは叶愛の一方的な浮気でも再構築の道を選ぶ最後であってほしかった。
本作では托卵までされていて、『ボクの彼女はガテン系』ではヒロインすら知らなかったことなのでまだいいが、叶愛は知っててそれを行っているだけに性質が悪い。直也も問い詰めない(察してはいる)が叶愛も自ら言い出さないままの再構築はやはりズルい。これでは制裁エンドでの内容がヌルいとの意見があるのも無理からぬところだろう(制裁エンドの是非については割愛)。
反省してるとはいえ、そんな悪辣なことをしてきた叶愛に対して主人公にも落ち度があると責めるに責めれない心情となり、程度の差はあれ自分も浮気したのだからと再構築の判断にも妥協が生まれる。そうではなく、快楽堕ちしながら托卵までした嫁を許せるかどうかの思考をプレイヤーがめぐらせるには、やはり旦那は無実でなければならないのではないか。それでもなお再構築が納得出来る内容であれば、それだけヒロインが魅力的に描けていたということでもあり、作品への評価に良い形で影響するに違いない。たとえ作品内の主人公がよしとしても、その判断にプレイヤーの共感が伴わなければ後味は良くならない。
そしてもう一つ。快楽堕ちするほど開発された嫁が、旦那との行為で満足できるのかという疑問を解消できていない点だ。
真エンドでは再構築して二人目(こちらは直也との子)が産まれ幸せに暮らす親子4人の姿で締めくくられており、こうした内容のオチとしてはまぁよくある展開だ。爽やかに終わる結び方は嫌いじゃないしそれも結構だが、快楽堕ちしたヒロインに「子供も産まれて幸せです」と言われても「はいそうですか」と簡単に納得できるはずもなく、どうしてもその点を気にせずにはおれない。確かにセックスだけが人生じゃないといわれればある意味リアルだが、これまで暗黙の了解でファンタジー(エロゲー的エロ)を描いておいてそこだけ現実的になられても困るし、主人公がよしとするならそれでいいじゃんといえばそれまでだが気にならないといえば嘘になる。やはりファンタジーなりのリアリティ(物語上の整合性)は必要だろう。
なにせ二度目の挿入前ですら「エッチでは満足できなかったけど一緒にいると安心できて幸せ」と言ってるくらいで、宣践の作戦でお預けを食らっている時には「義父とのセックスが忘れられない。あの快感を求めて体が疼く。夫を求めても物足りず義父でなければあの快感は得られない」とか「夫のことを愛したいし愛されたい、でもそんな気持ちとは別に物足りない」とまで感じていた叶愛だ。別ルートのバレ後では「直也は愛してる。でもセックスは義父とがよくて離れたくない」とまで言い放っているのに、相当開発された末の再構築後だけ「一緒にいるだけで幸せ」で済むはずがない。
・・・思い返せば真エンドで直也の「これからは四人家族だ仲良くしていこう」の問いに対する叶愛の最後の台詞が「えぇ、そうね・・・」となっていたのも気になる。声は明るくハキハキしていて断言しているように聴こえたが、文字面ではなにか含みがあるようにも見える。「・・・」はなにを思い考えてのことなのか?
NTR作品のヒロインが快楽堕ちまでして、さらには劇中で散々間男と比べては落胆している描写があるにも関わらず、再構築してからはセックス抜きでも幸せだとか好きな人と触れ合うだけで安心満足とか言われても冗談にしか聞こえず白けるばかりだ。幸せな姿が見れるのは素直に嬉しいが、それを見せられただけではスッキリしない。簡単にいえば「その後が気になる」訳なのだが、案外その辺を納得できるように踏み込んで描いている作品はごくわずかで、知る限りではそれこそ『ガテン系』くらいである。
絶望感に満ちた完堕ちエンドもNTRの醍醐味で嫌いじゃないが、真エンドのような終わり方は基本的に好きなので、だからこそ納得してスッキリしたい。特に幸せ再構築エンドには必要な要素だと思うのだがどうか。
以上のようにプレイヤーの良識や常識とすり合わせると納得できない部分はいくつかあるものの、ミドルプライスとしてはアベレージの高い内容となっているので買って損のないエロゲーだ。特に快楽堕ちはするが完堕ちまではいかない夫婦のNTRモノが好きな人にはかなりオススメできる作品である。
ちなみに、子供に手を出すロリエンドやボテ腹セックスなどもあるので苦手な人は嫌悪感を示すかもしれないが、そもそも寝取られ自体が相当癖の強い人を選ぶジャンルなので、その程度の苦手嗜好は耐性をつけるか大目にみる寛容さを持とう。所詮エロなんて個人の理性と直結してて好みがあるのは当たり前。正直NTRに比べたらロリやボテ腹なんて趣向は些細なものである(むしろNTRを楽しむならロリやボテ腹くらいあってもいいじゃないかとw)。