テンポいいSLGにランスシリーズの強みを上積みし、かつ旧作の不満を一挙改善。ゲーム・キャラゲー・シリーズ集大成としての面白さを兼ね備えたコンピュータゲームの会心作です。が、その全てを味わいきるための前提条件は厳しく、昨今のプレイヤーが遊んでも「手軽に遊べる良作SLG」程度の評価で止まってしまいそう。初回はランス1~4をプレイ済み、かつ5D以降(含01~03)の情報を入れない状態でのプレイを推奨します。
盗賊団やってたら警備隊にボコられてシィルが捕まった!助けるにも場所はヘルマン領
かつランスも追われる身。よろしいならば戦争だリアと結婚してリーザスを動かそう。
ついでに世界を征服して女の子を一網打尽にしたれ!的なお話。固有名詞の意味が
わからない方は要回避。おそらく楽しみきれません。理由は後述します。
ゲーム基盤は領土を戦争で奪い取るシミュレーションです。といっても内政治政の
要素はほとんどなし。基本的に戦争パートのみを指揮します。戦闘も1回1分ほどで
終わるため、SLGとは思えないほどサクサク進みます。ゆえに止め時を決断しづらく、
気付けばプレイ時間が凄いことに。時間泥棒なゲームです。
かといって何も考えずに進められるほど簡単ではありません。例えば序盤はシィルの
救出が目的なのですが、手間取っているとイベントが発生して助けることができなく
なってしまいます。仮に助けてもまた別の時間制限イベントが発生して、といった具合で
基本時間に追われるプレイになります。
またフラグ立てが複雑で糸口を見つけるのが困難。攻略サイトでも見ない限り、初週
かつ手戻りなしでの攻略は不可能に近いものがあります。まず1周プレイし、発生する
イベントと解決方法を見つけて最初からやり直す、あるいはセーブ&ロードを駆使しての
攻略となることでしょう。
難しいのはここから。フラグを立てながら時限イベントを処理し、かつ領土を広げて
いくその手順に頭を悩ませることになります。加えて1ターン内の行動力が少なく、
ある程度計画的に進めないと攻略しきれません。綿密な進行が求められます。
と書くとえらく面倒くさそうに聞こえますが、テンポが非常に良く手戻りも苦に
ならないのですよね。試行錯誤して攻略法を見つける行為が作業や苦痛に感じず
楽しく感じられるのが見事。快適にトライアンドエラーできるお手軽さと
中毒性が本作のゲーム的な面白さです。
このバランスはおそらく制作側の意図したもので、サクサクな戦闘パートは手戻りを
容易とするためのものでしょう。実際手順さえ把握していればトゥルークリアまで
5時間ぐらい(詰めれば1~2時間ほどで終わるそうで)。ちょっとした気付きや工夫で
一気に楽できる部分も多く、難易度をいくらでも簡単にできるよう調整されていたのは
素晴らしいですね。
これらにランスシリーズとしての面白さが上乗せされた形です。本作のランスは
4.1~2に近いかなり鬼畜なタイプ。一部では行動を選択することも可能で、時には
3以上のえげつない行為も可能だったり。逆に4のような人道的なランスに仕立てる
ことも可能ですし、個性がだいぶユーザに委ねられた形です。
一方で従来シリーズと異なるのが、メイン格でも問答無用で死亡退場すること。
かなみや志津香、マリアでもあっけなく戦死しますし、イベントによる死亡もほぼ
全員に用意。キャラによっては掛け値なしに突然消えるため、彼女達を守りたい時は
常に気が抜けませんし、逆に今までにないヒロインの扱いを楽しむこともできます。
また女性キャラクターがエンディング後幸せになれたか、あるいは不幸なまま終わって
しまったかを判定する、幸・不幸システムなるものが存在します。これがCGモード
よろしく一覧になっていて、条件を満たして埋めていく楽しみもあります。コンプに
ご褒美もない任意コンテンツですが、周回プレイを楽しくする一助を担っています。
そして何より、今まで未踏だった地域もすべて明らかになるのが嬉しいですね。常に
敵側だったヘルマン帝国はもちろん、ゼス王国やJAPAN、魔族に至るまでほぼ
フルオープン。領土内の確執や争いもプレイ進行と共にリアルタイムに描写され、
旧作とは比べ物にならないほど大規模な世界観となっています。
初期マップを見るとわかるのですが、1~4.2で巡った領土は全土の1/4に満たないの
ですよね。それだけでも規模の大きさが伺えるというもの。特に直近作品である4は
舞台の規模が小さく、その落差もあってとにかく壮大に感じられます。なのに後半は
更に話の規模が大きくなりますからね。「どこまで話を広げるんだ?」ってなる。
登場キャラも新顔から懐かしいキャラまで多彩かつ濃ゆいのがいっぱい。懐かしさと
新情報が矢継早に繰り出され、シリーズプレイヤーとしてはテンション上がること
間違いなしです。私も「おー(キャラ名)出てきた!」「あ~いたなこんなヤツ」
「え、そこまで見せるのか...!」的な独り言いっぱい出てました。はい、キモいですw
このようにゲーム・キャラゲー・シリーズ作品としていずれもクオリティが高く、
わけてもランスシリーズ集大成としてはこの上ないほどの傑作です。ですが現代の
エロゲプレイヤーが本作のみ遊んでも「テンポのいいSLG良作。キャラゲーとしては
凡作」な評価になるかと。ランスシリーズをプレイ済みであっても、です。
むしろ5D以降の後期ランスをプレイ済みの方は、シリーズ未プレイの方より楽しめない
かもしれません。というのも、鬼畜王は4以前からの圧倒的な拡張性がセールスポイント
だからです。
以下ネタバレありのため隔離。
繰り返しますが、ランス1~4.2は全てリーザス領および自由都市領内でのエピソード
です。3にてヘルマン帝国の侵略があり一時的に規模は大きくなったものの、基本的には
1地域内でのみエピソードが語られる形式。世界地図に書かれた他の地域に関しては
状況や環境が一切不明でした。ヘルマンにしても領内には一切触れていませんし。
加えて3から4にかけて物語の規模が縮小しました。これは4が世界の歴史を掘り
起こす設定掘り下げに特化したお話ゆえなのですが、ユーザからして見れば小規模に
なった事実は変わらないわけで。結果ゲームとしては格段に進歩したにもかかわらず、
3ほどの好評価は受けていなかったようです。
そこにきて鬼畜王のリリースです。「5はいよいよヘルマン?それともゼス?魔人は
新しいの出るのかな?」⇒まさかの全部乗せマシマシ。しかも一つ一つが旧作の規模
以上の内容。当時のプレイヤーは相当に驚いたことでしょうし、サービスの旺盛さに
感動を覚えたのではないでしょうか。
実際私も最近になって初代から順に、後期作の情報をほぼ入れずに遊んだのですけどね。
凄かったですもん。ヘタレ爺ちゃんのバレスが強くて驚いて、セルの登場に懐かしさを
覚えて、ヘルマン領に乗り込めばパットンやヒューバードが出てきてやっぱり懐かしくて、
かと思えば24いる魔人がほぼ全て登場して「ちょおま、全部出しきっちゃうの!?」と
余計な心配をしつつ嬉しかったり。プレイ中すげー!すげー!ってそればっかでしたw
もちろん土地的な規模にも感動しまくりです。ヘルマンもゼスも右下の日本っぽい島も
全部が舞台。それぞれの国に色々な思惑や諍いがあって、旧作なら国1つだけでシリーズの
1~2本は作れるほど。それが密度を変えず一本に詰め込まれていたわけで、そらもう
驚き喜ぶほかないわけで。ハンティのみだったカラー族にも言及されていましたし。
そして後半の対魔族戦。ここでゲームバランスが一変することで相手の強大さも体感
できるのですよね。3でサテラ1人にランス陣が一蹴されていましたが納得も納得。
最大5000ほどだった敵兵力が3~4倍になるわ、魔人共は2回行動するわでお前ら反則
すぎんよと。土地奪われてもそりゃ仕方ないわーってなる。
けど従来シリーズ通り、人間の英知(ランスのずる賢さと人脈、強運とも)で次々と
撃破できるのですよね。サテラよろしく罠にハメたり、条件で釣って味方に付けたり、
イベントで交戦理由をなくして撤退させたり。もちろんガチの殴り合いもあってテンション
上がってるところにミリが攫われてあばばばロードロード、となった方も多そうです。
んで魔人達も薙ぎ払ってよっしゃ統一!と思ったらさらに先があるじゃないですか。
世界の隅々まで終わったのに「まだ大きくなるの?」という期待と困惑。しかも
ややメタっぽい要素まであって。「面白い」「楽しい」の感情がもう詰め込まれる
だけ詰め込まれているのですよね。シリーズ順にプレイした方ならこれ、わかって
貰えるんじゃないでしょうか。
けど5D以降をプレイ済みだと多分、この感動って降りてこないと思うのですよね。
もう知ってるから。7はJAPANですが事実上別地域なのでさて置いて、6でゼス、
8でカラー族、9でヘルマンの内情や人物を把握してしまっているわけで。
そこで鬼畜王を遊んでもそりゃ私達のような感動はありませんよね。正しくは後期
作品でその感動を既に味わった状態。だから鬼畜王で登場しても「知ってた」で
終わっちゃうのではないでしょうか。
規模の大きさにしても同様です。リーザス・自由都市以外の領土についてある程度
知ってしまっているから、出てきたところで差異の比較はできても新鮮味は薄い。
軽く調べたところ、6以降のボリュームは1地域だけで本作と同レベルにあるみたい
ですし、それを体験した後ではどうしたって見劣りするでしょう。
『鬼畜王ランス』の本質はSLGとキャラクター性、個々のクオリティにはありません。
旧作プレイヤーが望んでいた情報公開と物語の規模拡大を一挙に実装し、かつそれらを
シンプルでテンポ良く楽しめる国盗りSLGに馴染ませ、ゲームを通じてプレイヤーが
実体験できる点にあります。従来シリーズの知識、事前情報のシャットアウト、ゲーム性。
これらすべてが揃いかつ連携してこそのものなのです。
ゆえに1~4を未プレイ、鬼畜王から入ったユーザもまた十全を堪能できません。
ブリティッシュに「まだ埋まってるしwてか名前あったんかw」とはならないし、
ヒューバードの迷宮マイナス補正に苦笑や納得もできません。かなみや志津香といった
レギュラーメンツも誰それおいしいの状態でしょうしね。
「鬼畜王はシリーズ未プレイでも誰でも楽しめる」とよく聞きますが「その全てを
味わい尽くせる」という意味ではありません。あくまで「それなりに楽しめる」程度。
情報の取捨をシリーズの流れに沿って正しく選択したユーザにのみ、本作はその真価を
発揮するのです。
そして従来作プレイ済みだとしても、私を含めた現在のプレイヤーは全てを味わいきる
ことはできません。本作はインターネットが未成熟の世代に生まれたゲーム。情報は
自分で見つけるか、プレイしている友人知人と交換するか、各種雑誌や攻略本からしか
手に入らなかった時代の作品です。
そこに来てこのボリュームとイベント量です。CGも幸不幸も非常に煩雑なフラグで
管理されており、自力で全てを埋めきるのは困難を極めます。そんな無理難題に挑戦
する際に転がりこむ情報の稀少性は現代ゲームの比ではありません。それはググれば
何でも手に入る今となっては体験しづらい感動です。
インターネットは未だ黎明期。攻略情報は評判と共に雑誌や口コミでじわじわと
伝わり、気付けば超超ロングランヒット作となったわけですが、当時の盛り上がりを
私達は情報と伝聞でしか体験することができません。時のビッグウェーブに乗れた
ユーザだけが楽しめた雰囲気ありきの「伝説の名作」なのです。
またWindows95の爆発的ヒットによるPC普及が始まったのもこの頃。「エロゲなんて
ゲームじゃなくてエロアイテムだろ」とタカをくくっていた新参ユーザの鼻を明かすに
本作の中毒性は十分足るものでした。高めの要求スペックもWin98が登場する頃には
常識的なレベルになり、お手軽にプレイできるようになったのもジワ売れの一因です。
発売するタイミングもまた絶妙であったといえます。
エロゲで遊べる名SLGとして評されがちな『鬼畜王ランス』ですが、ゲーム部分が
上質なだけで持ち上げられたわけではありません。シリーズモノとしての爆発的な
ボリューム増。パソコン史の間隙を突いた、当時の時流に適した商品であったこと。
様々な角度から見ても「このタイミングでリリースするしかない」時に発表された、
それこそ奇跡のようなゲームだからです。
ですがその奇跡は人事を尽くしての結果でもあります。ご存知のとおりアリスソフトは
ユーザに対し過剰なまでに丁寧な対応をなされる、大変に真摯なエロゲブランドです。
制作姿勢にしても「いい作品を出せるように」の姿勢を崩さず、プレイヤーが快適に
楽しめるようにアフターケアやサポートも万全。買い手に有利であれば、時には非合法を
推奨することすらありました。
かような方々が人事を尽くされた作品だからこそ「伝説」と呼ばれるまでになったの
でしょう。プレイヤー側にしたって「過去一番の名作」とするゲームは丁寧で真摯な
ブランドさんの作品が良いですよね。エロゲブランドでは軽視されがちな、販売業
サービス業としても襟を正したアリスソフトだからこそ、ここまでの評価を得られたの
でしょう。
こうやって長所を掘り下げていくと本当に伝説なんですよね。内容が良いのは
前提条件。そこから更なるプラスアルファを数多に持ち得たがゆえの評価なのだなと。
その魅力に気付くたび「こんな条件二度と揃うわけない!」と実感させられました。
だからこその100点です。他の満点と異なり私のマイベストというわけではありません。
しかしここまで奇跡を生み出した作品に低評価を下すなどとてもできない。それほどの
インパクトを持ったゲームでした。
以上「生まれるべき時に生まれた奇跡の作品」。それが『鬼畜王ランス』に対する
私の評です。20年以上前の作品ですが、プレイできて本当に良かったです。