地に足の着いた、とても普通な恋愛模様を綴った物語。日常系エロゲレベルの問題も発生せず進む恋愛模様は、眩しすぎない現実的な青春だからこそプレイヤーによりリアルな憧れを抱かせます。ありきたりなようで、その実オリジナリティ溢れる良キャラゲーですね。なおかぐや姫の設定はほとんど話に絡みません。題材詐欺です。
「こんな青春を過ごしたかった」
という感想を青春系エロゲでよく見かけますが、私がその手の感慨を受けた物語は
ごくごく僅かです。
ソアリング部を通した青春恋愛をえがく『この大空に翼をひろげて』。
離れ島の学園寮生活を楽園のように綴る『この青空に約束を――』。
一例として上げましたが、いずれの作品も物語・キャラ萌えなどの面から見れば
(一般的には)まごう事なき名作です。ワクワク、感動、ニヨニヨできます。ですが
こんな青春送りたかったか?といわれたら「まぁ物語の中の話だからねー」って
なっちゃうんですよね。
非現実的というのもあるんですけど、それ以上に彼ら彼女らは眩しすぎる。目標に
向かって青春を楽しんで、非常に困難な壁にブチ当たって、でも努力や大人たちの
理解を得て克服していくその姿が崇高の域なんですよね。ぼくにはとてもまねできない。
ぶっちゃけリア充なんです。それも特上の。だから非現実的すぎて憧れなんて抱けない。
いやいや普通の恋愛エロゲたくさんあるじゃん、という声もあるでしょう。それに
したって敷居が高すぎる。『ラブラブル』とか、普通なようで主人公のスペック激高
ですよ?ちとマイナーですが『Love Sweets』も普通の恋愛を書いているようで
主人公のコミュスキル尋常じゃないですから。それぞれ花穂・結衣が更にハイスペで
隠れてるだけ。とても現実的ではありません。エロも行動も「主人公」ですし。
ここまで書けばお分かりかと思いますが、『ドコのドナタの感情経路』(以下ドコドナ)
は地に足を付けたような恋愛を見せてくれるんです。冒頭こそかぐや姫設定が飛び出て
「あーエロゲお約束ね」と印象付けられますが、2話3話と読み進めていくとどうにも
派手さが足りない。でも退屈でもなくて、主人公やヒロイン達の現実的な葛藤や主張が
細かに綴られていて、それが妙な親近感を呼ぶんです。
例えば3話の前半。3人のヒロインに言い寄られた主人公と、妹として見ていた幼馴染に
告白された親友が、主人公の部屋で長尺使って延々語り合うんですよ。「俺たちは
純情派なんだよ」とかいっちゃって。お互いの悩みはわかってて、でも行動する勇気
動機は足りなくて、でも話していくうちにスッキリして、やるべきことを見つけた様な
気になれる。
これです。私が憧れる青春ってのはこういうのなんですよ!(そこキモいとかいわない)
ヒロイン側もまた同様で頭を抱えてたり、あるいは過去の失敗を糧に押せ押せドンドンで
攻めたりと、それぞれの悩みと解決を繰り返している。その様子が現実的のように見える
んです。
キャラ付けの方もかなり地に足を付けた印象ですね。ラブラブアタックがややウザい翼や
言葉が乱暴になりがちな心菜はもちろん、優しい心とドスケベボディを持った美春でさえ、
薄汚れないレベルでの人間臭さというか性格的欠点が見え隠れしていて絶妙に生々しい。
いいところもダメなところもリアルの境界線を越えない程度で見せてくれている。だから
現実感がある。「こういう娘達と学園生活送りたかったなぁ」と思わされたのでしょう。
正しくは「書き手が現実的に見えるギリギリのラインで動かしている」わけですが、
その塩梅が絶妙ということですね。基本相手を思いやるいい奴らだけど、ときおり
生々しい影や欠点も見せていて決して聖人君主ではない。プレイするきっかけとなった
本作評では彼ら彼女らの性格をして「育ちがいい」と評されていましたが、実に的確な
表現だと思います。
話の運びとキャラ付け共に地から足の浮かないラインを攻め、読み手に現実感ある
恋愛を見せてくれるエロゲ。それがドコドナです。
本作のキャッチフレーズは「おとぎ話みたいな恋しませんか?」。その真実は竹取物語を
指しているのではなく、現実ではもちろんエロゲでも見られないような、地味だけど
理想的な恋を指しているのでしょう。一見地味でスカスカに見える作品ですが、意図を
しっかり持った芯のある物語だと思います。
この手の物語は小説・エロゲよりアニメ・コミックが得意とする領分。いわゆる
日常系はもちろんのこと、少女コミックスなどにも本作に近い作風は少なからず存在
します。その点アニメを意識した本作の画風は狙いとマッチしており非常に有効だった
のではないでしょうか。エロシーンでアニメやコミックとは差別化できていますし、
エロゲならではの見せ方を上手いこと表現できています。この辺も見事ですね。
以降はキャラ別感想とかを少々ネタバレ込みで。
上記が該当するのは翼・心菜・美春の3人ですね。特に翼と心菜は良かったです。
翼は押せ押せのウザい後輩キャラかと思いきや予想以上に考えを持っていて、そこが
普段とのギャップとなり可愛らしさを受け止めることができました。自分をしっかり
持っていて、だからこそ生意気になってしまうあたりはなかなかに現実的。そのルーツが
前世での悲恋と、放置された舞台設定ともリンク。さすがはセンターヒロインです。
また個別ルートもプレゼント絡みとこれまた現実味ある内容で、ほのぼののんびりと
楽しませてもらえました。
そんな翼を幇助していたのが真宮ゆずさんの声。ウザさ幼さ一途さをこの上なく的確に
表現していて、正直真宮さん以外の翼はちょっと想像がつかない。そのぐらいの適役
っぷりでした。
心菜も普段の勝ち気な性格と乙女な一面が絶妙塩梅で、生臭くならない程度に欠点を
見せているのが好感触。あと彼女が一番ふつーの恋愛してるんですよね。好きな彼の
自宅前でウロウロしたり、素直になった時がとても可愛かったり、帰り道に手を繋いで
にへら~ってなったり、体重で必死になったり。もうね、すっごい普通。だからこそ
ウリである平凡が最も浮き彫りになっていて、シナリオの出来は一番良かったです。
美春で一番印象的なのは性格。「いいひと」がこれでもかと前に出ていたのが印象に
残っています。加えてこの娘、グチるんですよね。いい人である境遇に。他のエロゲ
なら間違いなく困ったり悩むんですよ。でも美春は「私だってみんなと帰りたかった
のに」不平不満がつい口に出る。ここがとても人間臭くて本当に大好きです。
普通の萌えエロゲとしてプレイしていたら、この愚痴はマイナス印象にしかならない
のですが、いい娘の影を見せてこその本作だと思いますので。
ただ翼や心菜と違って、少々エロゲーくさい面があったのもまた事実。エアホッケーの
胸チラはさすがにワザとすぎました。あと「壁ドン」も。ただストーカーでの顛末を
含めて鑑みると、美春ルートは男らしさ・女らしさを意識したシナリオ、という印象も
受けます。
更にいえば女性視点から見た純情な恋愛、という面もあったのかなぁと思わなくも
ない。自分の欠点を分かってくれて、彼氏にしたいから海で誘惑して、壁ドンで告白
されて、露出の多い服で誘って、ピンチの時に怒ってくれて。女性が妄想する理想
パターンてんこ盛りなんです。エロゲなんで女性視点はどうなんだろう、とは思う
んですけどね。でもドコドナならそんな視点もまたアリかもしれません。
あと3人共通で好きなのが初エッチシーン。「ひと夏の過ち」なんて言葉が作中に
ありますが、全員ヤってから事後告白なんですよね。段取りを大切にする主人公が
女の子の彼氏にしたい欲望に流され負けるのが生々しいといいますか、そんなもん
だよねー的な。まぁ翼は狙い通りですがw
一方でイッシー先輩こと彩夏と美里先生はマイナス点の多いヒロインでした。
美里は単純にヒロインの出来が悪すぎます。いわゆる残念美人キャラですが、
あまりにも残念さが勝ちすぎ。特に個別ラストが・・・かぐやに助けて貰うのは
さすがにどうなのよと。ドコドナで難題展開というマイナス点もありますが、それ
以上に美里が大人として情けなさすぎでした。まぁあまりの酷さが逆に笑いを誘い、
そっち方面で楽しめはしましたがw
彩夏は普通のエロゲとして見た場合、本作で最もクオリティの高いシナリオです。
昔引っ越した幼なじみの過去を題材に、家族をテーマにした物語は相応に見どころが
ありました。鬼ごっこのシーンとかとてもよかったですしね。一番エロゲしています。
しかしドコドナはあくまで普通の恋愛模様を見せる作品であり、彩夏シナリオの
ような感動的な物語は味が濃すぎて他シナリオの良さを殺してしまいます。事実本作を
プレイした熟練エロゲプレイヤーは「イッシーは良シナリオ。他は空気」という印象を
持たれたのではないでしょうか。
シナリオ自体も個人的には面白くありません。昔別れた幼なじみが高校で再開とか
それどこのときメモ2だよといいたい。それなんてエロゲ?です。更に家族に問題を
抱えてて、挙句主人公の母親が「可哀想だからウチで下宿しなさい」とか、それはもう
私がドコドナに求める恋愛模様ではありません。あえて「エロゲでやれ」といいたい。
更にいえば彩夏自身、非の打ち所がない完璧ヒロインです。性格よし料理よし成績よし
可愛いリーダーシップが取れる万能幼なじみ。欠点がないことがドコドナにおいては
欠点です。神岸あかりだってトロいという弱点があるというのに!藤崎詩織だって
性格に難があるのに!陽ノ下光だって爆弾製造機という弱点があるのに!・・・最後は
違うか。
本作を空気にした最たる原因は彩夏の別次元なスペックとシナリオ。そう評しても
決して過言ではありません。1シナリオとしては良質でも、作品の本質と調和できて
いなければそれは欠点です。(欠点を吹き飛ばせすほどの傑作なら別ですが。)
最後は不満になってしまいましたが、それでも翼・心菜・美春の3ルートは穏やかな
恋愛を楽しませてもらいましたし、美里もクソゲー方面で笑わせてもらいました。
彩夏だって切り離して見れば十分上質で、良シナリオといっても差し支えないぐらいの
内容です。地味ですが総じてレベルの高い作品だと思います。点数が今ひとつ伸びない
のは、単に私が足並みの揃っていない作品を好まないからなので。
早ければ10時間足らずで終了しますし、興味を持たれた方はぜひプレイしていただきたい
作品ですね。埋もれた良作と評するには十分なクオリティですので。