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akann0721さんのそして明日の世界より――の長文感想

ユーザー
akann0721
ゲーム
そして明日の世界より――
ブランド
etude
得点
85
参照数
254

一言コメント

とにかく死生観漂う雰囲気がいい作品。opもedもとても素晴らしい。夕陽や御波など魅力的なキャラもいて萌え成分も十分に摂取できる。限られた時間の中でどのように生きていくか、また生きることとは何なのかという問いをつきつけられるそんな作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

世界は滅亡するその時まで変わらない。
変わっているのは自分たちの滅亡を予期して絶望した状態で世界をみつめている人類なのだ。
どのような目で世界を観測するかで世界の在り様は変わってくる。



ここからはネタバレ全開で各キャラ、各√についてオナニー感想を(忘備録として内容をある程度要約してまとめてるのでご了承を)




夕陽というキャラは本当に「強い」。
依存体質ではあるのだがそれ故にブレないということが彼女の強みであると思う。
主人公に襲われてもそこは揺らがなかった(彼女が主人公の何もかもを理解していたということもあるが)。いつも夕陽を守ってきたと自負していた主人公が逆に夕陽によって支えられることでようやっと平静を保てていられるほどなのだ。
「大切な相手と一緒なら死ぬのも怖くない」などという考えができるような人間が果たしてどれだけいるだろうか。
だが、それも主人公と一緒にいられるが故である。


主人公が避難計画に選ばれた途端に夕陽は元気を失くす。
ここで首をかしげてしまったのは元気を失くしている夕陽の心情を主人公がすぐに汲み取っていなかったことだ。夕陽のことをよく知っているならばそこはすぐさまフォローにまわらなければならなかったはず。
にもかかわらず「なんか問題があったら言えよ?」ってそれはちょっと違うんじゃないかと思ってしまった。
夕陽が自分に依存していて自分なしではどうにもならないことくらい分かっていたはずである。
ここに気付けなかったのは持ち前の鈍さ故か、それとも普段の言動を軽く受け止めすぎていたのか、どちらにしろいただけなかった。
かと思えば夕陽が泣いて「行かないで!」と言った時に「結局思った通りになった」という文があってどっちだよと思わず突っ込んでしまった。
それでも結局夕陽と居続けるという結果になったので問題な
いのだが。

お互いがお互いを大切に想いすぎたせいで生じたすれ違いは気づけばほんの小さなことで、片方がもう片方に依存するのではなく互いに支えあってこそなんだというのが夕陽√の主な内容だった。
やっぱり主人公が鈍感すぎるとは思ってしまったが綺麗にまとまっていた√だった。
この√では両親にも感動させられた。親は子のことをよく分かっているということを実感させられた。
どうでもいいが夕陽の「あいあい」がかわいすぎてどうしようもない。



朝陽というキャラは常に1歩引いた位置から皆を見守っている。
そしていつも気丈に振る舞い弱音を吐いたり安易に人に頼ったりしない。
自分を庇って死んでしまった母の代わりを務めることでかろうじて自分の存在意義を見出している。そのために音楽の道という自分の夢を諦めてしまうほどに、母の死は彼女を強く縛り付けていたのであろう。
手のかかる夕陽の存在が彼女のその部分を強めていたりもする。

だがそれも世界が滅亡することを知ると段々と綻びが出てくる。主人公に対して弱い自分を見せるようになっていくのだ。これが本来の彼女そのものなのであろう。
主人公が自分の頼れるイメージや影響力の強さを煩わしく思うのと同時に朝陽もイメージとしての自分でいることに疲れることを主人公に打ち明け、それが共鳴しあい2人の想いが交わるようになっていく。
いきなりキスしてきたのには驚いたがやはり燻ってた主人公への想いがあったのだろう。
夕陽にすら嫉妬したりと意外とかわいいところもあった。ふと気になったのは朝陽√でも主人公が夕陽の自分への想いを軽く見すぎていたということ。
もう少し察してあげて欲しかった。

結局この√は2人で夕陽を守っていくということに囚われすぎて「夕陽」そのものを2人が見失ってしまっていたことに気付くという内容だった。
夕陽√でのすれ違いに朝陽を絡めたような印象。「恋人」や「夫婦」などの枠に収まらないほどの愛というのは身近に感じられず、理解が及ばなかったが、それほどまでに3人の絆が強いということは印象づけられた。朝陽√というより日向姉妹√みたいであった。


青葉というキャラは「弱い」。普段はとても元気な娘であったが世界が滅亡するということを現実として捉えて以降急速に元気がなくなっていく。明るい性格に裏打ちされた本性とでも言うべきような物が段々と滲み出てくる。

主人公のことがずっと好きだったのだが、主人公が彼女を「よきライバル」のように扱ったり、憎んでいる母親のことを思い出すと「女」としての自分というものを認識できない、あるいは認識したくなかった。
主人公が求めているポジションになりきろうとしすぎてしまって本来の自分が出せないというのもあった。
それがプレイしてても見て取れて主人公が頻りに「親友」と連呼するのに憤りを感じてしまった。
また、青葉は素直に主人公に甘えることができる夕陽のことを常に羨ましく思っていた。
走ることで夕陽に勝とうと努力していたのもその裏返しなのだ。

青葉√では青葉は今までのやり方で主人公を手に入れることが不可能であると悟り、主人公の望む行動をとりつつも、「女」を主人公に意識させていく(この辺の青葉とてもエロくていい)。だが主人公は自分にとって都合のいい「青葉」を求めるばかりでなかなか噛み合わない。
主人公は自棄になっていくが、青葉の悲痛な叫びを聞いて「本当の青葉」を思い出す。ここの王子様と少女と騎士のたとえ話を混ぜてくる描写がとても綺麗でよかった。


御波というキャラは達観しているというか、どこか食えないところがあった。朝陽のように1歩引いた位置から全体を見通せるような娘であるといった印象だった。
元気がない主人公や青葉のことを察して、前向きな行動をとることがよくある。

病気でいつ死ぬか分からないような体であったため、世界が滅亡するという現実に対しても動じない。これも慣れというか消極的強さと言ったところだろうか。皆が憔悴していく中彼女だけ余計に元気に見えたりする(相対的にそうなって見えるというのもあるが)。
それは今までの生活と比べると充実しているからだろう、と御波√をやるまでは思っていた。

彼女には何もなかった。失うものがなかったからこそ死に対しても鈍感でいられたのだ。主人公とつきあい、島という環境に愛着を覚えることで逆に失う悲しみを知ってしまう。
ここは√の山場っぽい部分だったがじいちゃんの活躍であっさり解決(もう少し描写あってもよかったような・・・)。

また細かい部分だが、彼女のすごいところは主人公が皆の前では頼られる「役割」を無意識に気にしているところを序盤で見抜き、指摘していることだ。
他√ではたったこれだけのことを見落として遠回りをすることなどもあったので本当によく見ている娘だと驚いた(それは彼女が最近来たばかりで客観視しやすいからかもしれないが)。
また、この√は恋愛関係へ至る過程がとてもいいと思った。御波だけ幼馴染ではないので他√に比べて新鮮な気持ちでプレイできたのもよかった。



ノーマルエンドは、主人公が特定のヒロインと結ばれずに終わるパターンであった。しかしシナリオ自体は各√とあまり変わらず、主人公の葛藤や各ヒロインとの距離感などが主に描かれる。
ただこの√ではじいちゃんや主人公の父親などの内面を1番深く描写し、それを主人公に伝えている。
この2人の主人公をのことを慮るその姿には胸を打たれ、とても心に残った。

そして、この√からのアフターへの繋ぎがとてもいい。温泉を発掘し、写真を見つけるシーンは不覚にもホロりと来てしまった。最後の最後まで雰囲気を崩すことなく、描ききっていたのでコンプ後「もっとこの世界に浸っていたい」という寂寥感にやられてしまった。
やはり、値段が高いだけあり、良作だった。
関係ないがノーマル√の島民の悪意が他√に比べて異常に強いと感じてしまったのは私だけだろうか。







ちなみに主人公がシェルターへの避難の権利を得るだろうことは早い段階からなんとなく予想できたのでそこに驚きはなかった。
日常を守って死んでいくか、それとも全てを捨ててでも生きるか、このような選択を迫られれば主人公のような考え方の人は困ってしまうだろう。
それでも選ばなければならない。
朝陽の「もしかして私たちが重荷になってない?」という台詞がかなり的を射ていると思った。

人は大切な物があるからこそ大事な局面で安易な選択がとれない。その場合大切な物がその人に対して牙を剥く。人間はなまじ賢くなり、理性というものを得てしまったからこそこのようなことが起きる。
主人公が「鳥は幸せなんだろな」と言っていたがまさにその通りだと思った。










しかしふと疑問に思ったことがある。暴動を鎮圧してるのは警察だという話だったが、彼らも全員どころかむしろほとんど生きられないだろう。それで人間の本能に従うのならば、むしろ暴動に協力するのではないだろうか。よほど正義感が強いのか、それとも鎮圧している人たちは実は特別に生きられるようにでもなっているのだろうか。話の本筋とは全く関係ないが気になってしまった。


もう一つ気になったのは夕陽の態度。夕陽√の夕陽は主人公がシェルター入りする事実を知ると途端に元気を失くした。しかし、青葉√や御波√ではむしろ喜んでいる。他ヒロインを追っかけているとはいえ共通部分では夕陽との絡みも多く、また夕陽の主人公への依存が強いことも描写されている。この矛盾(?)のようなものが気になった。もしかしたら他ヒロインを追っかけることで夕陽と自然と距離が開き、夕陽が自分を客観的に見直すことができていたのかもしれないが(考えすぎかも)。