紙芝居としては最高峰の演出周りが強みの乙女ゲー。一方でシナリオはまだ改善の余地がある。
舞台はアメリカのニューシーグなる都市。
他人になって時を遡るという特殊能力を持つ主人公が、ある事件をきっかけに社会の裏で暗躍する男たちの仲間になる。
そして、彼らの手助けをしていく中で関係を深めていくという物語。
○演出等
Switchのゲームだからということもあるのかもしれないが、演出を筆頭にとにかく丁寧に作られている。
この点では男性向け含めて今のところ一番レベルが高いんじゃないだろうか。
CSのノベルゲームってほぼやらないのでもっとすごいのもあるかもだけど。
・すめらぎ琥珀氏の描く美しい立ち絵を自然な目パチ・口パクで動かしている。
メイン・サブ合わせて登場人物は19人もいるが、その全員で。
特にメインキャラ(主人公含む)は立ち絵・スチル共に差分が豊富でつくりに妥協が無い。
・背景がぬるぬる動くし、オープニング等の映像も3Dをうまく使って奥行きを出していてクオリティが高い。
これらを担当している高橋昂也氏は、NHKとか国立博物館とかのイラスト・アニメーションにも携わっているすごい方らしい。
・画面効果や小物の使い方が細かい。
例えば携帯でメッセージアプリを使っているシーン。
入力している最中は「入力中ですよ」ということを示す(・・・)が点滅したり、既読がついたものは"Read"と文字が付いたり。
ここらへんがほんと凝ってて、見ているだけで飽きない。
すみません。嘘つきました。飽きることもあります。
個別ルートで毎回Capablancaとフルサークルで同じやり取りさせるのやめてください。
・声優陣は細谷佳正さんや福山潤さん、杉田智和さん等豪華なメンツで無論上手い。
男が聞いても細谷さんとか杉田さんの声はかっこいい。
主人公に声が付いているのに加え、キャラが立っていてかわいい。
・テキストは基本的に主人公の一人称で平易な文体。
おそらく海外ドラマを意識して軽快な会話劇を主体とし、読者がテンポ良く読めるように配慮している。
これらの作り込みによって、ノベルゲームとしてはトップレベルの没入感を有する作品に仕上がっている。
○シナリオ
共通パートはプロローグ+4つの章で構成されており、そこで選んだ選択肢によって5人の個別ルートに分岐する。
個別ルートではHAPPYエンドとBADエンドがそれぞれ1つ(リンボのみBAD2つ)ずつ用意されている。
5人全てのHAPPYエンドを見ると、真相編として追加シナリオを2つ順番にプレイできるようになる。
まず、主人公サイドであるリンボ達の目的がふわっとしているのが気になった。
悪事を働いているものの法で裁けない奴らを自分なりの正義で懲らしめる、みたいな話。
悪の定義がはっきりしない上にそもそもメンバー5人(主人公除く)が寄せ集めなのでそれぞれの正義が一致しないのでは…。
分かりやすい黒幕が存在すればそいつ=悪、主人公サイド=正義ということで簡単な構図になるんだけども。
一応それにあたる組織が作中に存在するのだが、影が薄い。
共通パートではそれなりに存在感を出し、主人公はそのトップにコンタクトを取ったりするものの(厳密には個別ルート内だが、全ルートでこのくだりが挟まれる)はっきり敵対とまではいかない。
この組織の話は、個別ルートでは全く関わってこずに、真相シナリオAで一気に解決へと持っていく。
個別ルート5つというのは結構長いので、プレイヤーからすれば既に組織のことは頭の片隅に追いやられている。
それを、一気に新事実ぽんぽんぽーん!はい解決!!!って感じで割と尺短めで終わるのでプレイヤー置いてきぼりの消化試合感ハンパない。
個別ルート内で組織について小出しに触れていくか、真相シナリオA自体の尺を長めにとるかしてスケールを大きく見せてほしかった。
カルメンが決めるシーンはBGMもあいまってかっこよかった。
ただ、解決方法が序盤のおっさん相手と同じでスマホで撮影して全世界に晒すというのは地味だし新鮮味が無い。
真相シナリオBはとても好みな話。
無償の愛でもって主人公のために身を削るけど結ばれない不憫なキャラ、アダムがメイン。
俺こういうのに弱いんすよね…。
ずっと主人公への想いを募らせてきた幼馴染だからこそ愛に説得力が出るし、その心情を想像すると泣ける。
更に、このシナリオでは徹底して主人公視点を廃しアダムの視点のみに絞ったのが素晴らしい。
この仕組みがあるからこそアダムの苦しみや葛藤がダイレクトに伝わってくる。
一つ気になったのは、サウリ先生が放置されていること。
次回作への布石とも取れるし、悪役が皆制裁を受けるべきだという考えを持っているわけではない。
しかし、主人公サイドは自分達の正義に従って悪者たちを懲らしめるというのが目的である以上、あの場でサウリ先生を黙って帰すとは思えない。
刑務所にぶちこむまではいかないにしても、なんらかの制裁を与えるだろうと思っていたから拍子抜けした。
攻略対象中で好きなキャラは
クロ>リンボ>シュウ>モズ>ヘルベチカ の順
男としては、クロのようにウブで誠実さがあるキャラが受け入れやすい。
ヘルベチカは主人公のベッドで一人マフラー抱きしめて「君が欲しい」とかほざいてたシーンがキモすぎたのでアウト。
それ以外は拒否反応が出るキャラは居なかった。
不快なキャラが少ない、男からみてもかっこいい攻略対象が多いというのはなかなかすごい。
一周年でシーズン2製作が発表されたようで。
アダム、サウリ先生周りの話をやってくれるんだろうか。
楽しみに待ってます。