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TyrantさんのFate/stay nightの長文感想

ユーザー
Tyrant
ゲーム
Fate/stay night
ブランド
TYPE-MOON
得点
96
参照数
743

一言コメント

良いか悪いか。ライターとの相性もあり、人それぞれですが、プレイ後、私にとっては他の作品では得られないモノを得られる作品でした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

他に類を見ない出来の作品。


前作、月姫も、同人作品ながら、一般作品を軽く凌駕する出来で驚かされましたが、
今作はそのさらに上を行きます。


まずBGM。
コメディ部分を除き、全てに共通するのが"幻想的"であるということ。
全編に渡って、これを見事に表現しきっているBGMでした。
心に留まったBGMを挙げればキリがなく。
今、どの音楽を聴いても、
Fateのこの世界を、細部に至るまで鮮明に脳裏に描くことができます。
それほどよくマッチしていました。


立ち絵やCGに関して。
CGは、前作月姫と比べると、月とすっぽん。という表現を使わずにはいられないほど、
飛躍的な進歩をしています。
前作に見られた、どこか素人臭い匂いはどこにも残っておらず、
作品の持つ、独特な雰囲気を、見事に繊細なタッチで表現しています。
よく見ないと気づかないところが多いのが難点ですが、
非常に細部まで拘って描かれたのだとよく分かります。

立ち絵はところどころ、まだ不安定で崩れているところもありました。
CGの気合の入りようから、どうしてもそういうミスが目立ってしまい、
非常にもったいなかった・・・。
ただ。
全編を通し、ただ、1度しか使われていない立ち絵が存在すると知ったとき、
この作品に込められた気合の度合いと、ユーザーに対する誠意、
作品に対する意気込みが感じ取れ、
プレイしていて非常に気持ちよかった。

最近、「売れれば手段選ばなくてもいいや~。」っていう、
ユーザー舐め切ったブランドが非常に多いので。

こういう採算を度外視しているというか、
作品に込められた魂を感じると、長いことこのブランドと付き合っていこう
という気を起こさせます。



演出に関して。
画面ぐりぐり動きます。
この作品が革命を起こしたと言っても過言ではないでしょう。
事実、この作品以降、この演出を模した作品が複数出ているのは
知っている方は知っているでしょう。
作品を余すところなく伝えよう。という意気込みが込められた演出は必見。
ムービーを使っているわけでもないのに、一瞬アニメや映画を見ているような
錯覚を起こしてくれます。


効果音について。
これもこの作品を語る上で外せないファクターでしょう。
日常生活シーンから、もちろん戦闘シーンに置けるまで。
足音から障子を開ける音に始まり、小鳥の囀る声、
食事中に響く、食器のこすれる硬質な音まで。
再現されているものは実に多岐に渡ります。
この効果音だけで、この世界に実態を持たせ、
プレイヤーが楽に世界に入り込める手助けをしています。


そして何より、きのこ氏によるシナリオ。
月姫の時にも感じましたが、この方の書くシナリオには類を見ない魅力があります。
正直、言い回しや表現がうざったかったり、
難しかったりすることがあるんですが、
ひとつの作品として見たとき、
その些細な表現の仕方の違和感でさえ、
この作品の核を成している雰囲気作りに一役買っていると思えます。

登場人物たちに関しても、主人公、ヒロインに始まって、
脇役から悪役に至るまで。
人物としての善悪はおいておいて、
とても存在感が濃いキャラになっています。
適当に扱われているキャラなど、ただの一人として存在せず。
それぞれが物語りを彩るための、重要な役割を担っていて目が離せません。
また、キャラ一人ひとりには非常に細かい所まで設定が盛り込まれ、
一人ひとりがキャラクターとして、作中で生き生きと輝いています。
これだけでも、魅力的な作品にならないわけがないと思えます。


各キャラのルート。

どのルートも時間が経つのを忘れるくらいにのめり込みましたが、
中でも最初にプレイしたセイバールートは忘れようがない。

感動。衝撃。涙。
そんなものはありませんでした。

ただ、ただ、物語が、登場人物が、シナリオのなぞる軌跡が、
全てが丁寧で、細かく美しく。

ラストシーンも涙は出ず、
胸に去来したものは、シロウとセイバーのあり方に対する、理解のみ。

その在り方は、出来そうで出来ない、人間としての理想のひとつで、
ただ、ただ、美しく。

言葉にし難い、ある種、爽快感が胸に残りました。

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

・・・と、らしくなく胡散臭いほどベタ褒めしましたが、
ぶっちゃけ、この作品は、きのこ氏のシナリオとの相性が全てだと思います。

上記で述べた感想に偽りは一片もありませんが、
何せこのきのこ氏のシナリオが、かなり癖が強い!

人気の度合いを見ると、結構一般受けするようですが、
合わない人は徹底的に合わないんじゃないかな。

私も最初、月姫プレイしたときは、
序盤でゲーム放棄して、1ヶ月押入れで寝かせた人ですので(笑

正直ここまでハマれるようになるとは思いませんでしたね・・・。


まぁ、とりあえずこの作品が名作である。というのは間違いないでしょう。
私の評価で、この作品が満点でない理由はただひとつ。
私がプレイした、全ての作品の中での位置づけのためだけです。

満点は1作品のみにしかつけない、と決めているので。
個人的には文句なしで100点です。