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Tyrantさんの装甲悪鬼村正の長文感想

ユーザー
Tyrant
ゲーム
装甲悪鬼村正
ブランド
NitroPlus
得点
95
参照数
2573

一言コメント

割と陳腐なテーマなのに、ハンッと鼻で笑えない重みのある世界でした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

よくここまで一貫して、善悪相殺、このテーマを表現できたなぁ、
と何よりもまず驚愕しました。

だらだらと主人公の思考という形でプレイヤーにテーマを直接説くことというのは極めて簡単。
もちろんこのライターさんもその手法は取っていますが、それだけじゃありません。

このテーマに従って、キャラクター一人一人の善と悪、
両方の面がしっかり描かれていました。

少し例を挙げてみます。


六波羅の王、足利護氏。


彼は"国"にも"国民"にも、一切興味を持ちません。
ただ覇道を貫き、大和を統一した、という事実のみを求める。
そのための犠牲になるならば、国民が何人犠牲になろうが、知ったことではない。
大英帝国が侵攻してきた際、国のために戦うこともせず、
不利と見るやあっさりと降伏。国を敵国に売り渡しました。

もう、問答無用で極悪な感じですね。

しかし、大英帝国が大和に侵攻してきた際、
彼が率いる六波羅が降伏せず、最後まで抵抗していたらどうなっていたか。
国中が戦火に巻き込まれ、考えたくないほどの被害が出ていたことは確実。
負け戦をする愚を犯さず、先んじて降伏、国民を抑えたことは、
結果的に多くの国民の命を救いました。

また、彼の政治力、統率力、人を惹きつける力は尋常ではなく、
国と国民を強く上から押さえつけ、堅く縛り付けることで、
同時に外敵から国と国民を堅く護ることになりました。



GHQの、チャールズ・ウィロー少将。


大英帝国の軍に所属し、その禄を食みながら、謀反を考える外道。
周りの讒言に簡単に踊らされ利用される、とんでもない小人物。
目的のためならば大和人が犠牲になろうが関係ないが、
支配のためには表向き印象を良くしておかなければならないので狡猾に振舞う。
器が足りないのに大きな権力を持っているという、典型的な危ない人物。

典型的な脇役キャラですね、それもあっさりと惨い死に方するタイプの。

だがそんな彼の目的は、かつてあった祖国の同志が寄って立つ国を、
新たな独立国として大和の地で建国すること。
抑圧された支配を受け続け、心身共に辛い日々を送る同志達の解放を強く望み、
国と同志たちのために命を賭けている男。
自分が死の際に立たされても、憂うことは祖国のことのみ。
自分の信じるものに対して、最期まで忠義を貫いた人物でした。


この二人は、脇役の中でも大して出番がなく、
ボス的な立場なのに、あまり目立たない部類のキャラクターです。

出番の多い他の脇役にも、当然全て善悪が設定してあり、
上記二人の解釈も私独自のものではなく、ゲーム中でそのように表現されています。

そのようなキャラクター達が、ゲーム中で生き死にを、殺し殺されを魅せてくれるのです。


"善悪相殺"の説得力は、それはもう、尋常ではありませんでした。


ですがまぁ、善悪相殺のテーマ自体は、やはり賛否が分かれるところでしょうね。

説得力があるといっても、日本人の気質上、正義は受け入れられやすく、
逆に悪は嫌悪感を抱かれやすい。

殺人を語るわけですから、物語に同調はし難いところもだいぶ出てくるかと思います。


昔から伝わる言葉に、こんな言葉があります。


"勝てば官軍、負ければ賊軍"


結構メジャーな諺ですよね。
この諺に対する私の解釈としては、

"正義か悪かなんてものは、戦いの後の世に生きる人が決めることである。
 すなわち、生き残った方、戦に勝った方が正義となるのである。"

生き残った軍がその後、プロパガンダによって我々こそ正義だと民に刷り込み、
真実はどうあれ、正義となるのだ、という風に受け取っていました。

一般的な解釈の仕方も、同じようなものです。


しかし、本作のライターさんがこの諺を解釈すると、
おそらく大きく違う内容となることだと思います。

このライターさんから見るとこの諺は、

"勝てば官軍、負ければ賊軍(笑)"

(笑)までちゃんと全て入れて、諺として完成している。
そのように見たのだと思います。

つまり、

"勝った負けたで正義の有無を語るなんて、ちゃんちゃら可笑しい。
 戦争、殺人それ自体に正義や悪なんて存在せず、
 真実、それが存在したとしても、少なくともそれは当事者達が決めることではない。"

諺の意味をライターさんはこのように解釈するのではないのかなー、
と、このライターさんの主張を、私は無理やり解釈しています。

事実、元を辿ればこの諺は、
お互いを朝敵と罵り合っていた勢力同士を見て滑稽に思った当時の人々が歌った唄の一節であるそうで、
現代ではビジネス用語的な要素が加わったりしてだいぶ意味が歪んでいますが、
本当にこの諺が言い表したかったことは、ライターさんの解釈するところだったのではないかな(多分)と思います。



ちょっとテーマに文字数取りすぎましたが、
もちろんテーマのみならず、作品の部分部分、ほぼ全て高い完成度を誇っています。


まず構成力の高さ。

"これは英雄の物語ではない。"

と最初見たときは「ふぅ~ん。」くらいにしか思いませんでしたが、
1章終わった後で改めて見せられると、ゾクッとするものがありました。

1章の内容を見た結果得られた、"英雄ではない"ということについての少しの理解と、
2章以降に対する期待の結果です。

紛れもない構成力の勝利。

また、一般的にどう見ても善人な主人公なのに、最後まで"悪鬼"として描かれており、
それに対して違和感や不満が出てこない、というところも凄い。


惜しむらくは、エロの面ですね。

私そもそも陵辱系があんまり好きじゃない上に、
エロシーン自体が極めて淡白、かつ短い。

シナリオとエロの両方が輝いて、初めて"エロゲー"としての完成度を高めることになりますので、
読み物としては非ッ常に優れていましたが、エロゲーとしては微妙でした。


まぁでも残念なところはそれくらいですかね。

Nitro作品の作風を好まれる人なら、文句なしにオススメできる作品だと思います。