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TassaさんのEver17 -the out of infinity-の長文感想

ユーザー
Tassa
ゲーム
Ever17 -the out of infinity-
ブランド
KID
得点
100
参照数
1829

一言コメント

「ゲーム」の究極の形 ネタバレ特大

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

各ヒロインの個別ルートだけ見ても上質に仕上がっているのは見事だが、まさに「別次元」のレベルであるココ編にはやはり及ばない。
「恋愛アドベンチャーゲーム」という形式を最大限に活かした芸術品であり、
アドベンチャーの、恋愛アドベンチャーの、ゲームの一つの究極の形を作り上げたと断言できる。


マルチエンドという本来わかり得ないはずの別の展開を知るシステムを逆手に取った発想、
自分で自分の顔は見えないという常識を利用する大胆さ、
取説からセリフ一言一言に至るまで最後の一点に集約させる構成、
そして何より、
「主人公」とそれに仮託して世界を見る「BW」(とそれに仮託してゲーム世界に参加する「プレイヤー」)という設定。

それらから生まれたこの作品は、
マルチエンドのすべてを飲み込んだベストエンドへと導かれるアドベンチャーとして最上級の逸品だが、
そのトリックだけ見てはただの(とてつもなくだが)「上手い」だけの作品である。


肝腎なのは「主人公」≒「BW」≒(=としてもよい)「プレイヤー」と定義されたこと。

どれだけのギャルゲーをこなし、どれだけのヒロインを攻略しても、それは単に「ただその物語の主人公であるだけのキャラ」とヒロインがくっつくだけのこと。
そのキャラがどれだけ無個性で、どれだけプレイヤー自身を代入できたとしても越えられない一線がある。

しかしこの作品においては「プレイヤー」はその一線を越えてヒロインと心を通わせた「主人公」に限りなく近い存在であり、
同時にヒロインに限らずキャラクターたちに直接語りかけられた「BW」そのものでもある。


これは恋愛ゲームの誕生から探し続けられてきた、「プレイヤー」とヒロインが本当の恋愛をするゲームシステムであり、
ドラクエの昔からゲームが追い求め続けてきた、「プレイヤー」が人々と触れ合いそして世界を救う物語なのである。


2008年1月23日 加筆
「RPG」を文字通り「役割を演じるゲーム」とするならば、これほど「『世界を救い』『ヒロインと恋愛する』主人公」という役割を体験できるゲームも珍しいなんて考えてみた。

「プレイヤー」=「主人公」、この「お約束」を「お約束」として定着させるのに先人たちは多大な努力をしてきたが、
それが定着した今となってはもはや「プレイヤー」が「主人公」に自己投影する・できることは当然と考えられ、
作り手は「プレイヤー」が自己投影しやすいものを作るという意識もなく作り、
受け手は(例えその作品がそんなことを「敢えて」目指さなかったものだとしても)「主人公」に「感情移入」できないと不満を言うような時代になってしまった。
恋愛という「他人」のものを見せられても全く面白くない主題を扱ったギャルゲー界においてもそれは変わらない。

(「感情移入」や「自己投影」という言葉の使い方には個人差があること、ゲーマーは必ずしも「主人公」に自己投影しようとは思っていないこと、「主人公」自己投影を想定せず単に優れた物語を見せようとする作品もあること、といった注意点があるが)

そんな中、「プレイヤー」は「主人公」だとはっきり規定しヒロインと心を通わせることに成功した本作を作ったKIDは、
まさに最高のギャルゲメーカーだったし、そこらのなにも考えずに「RPG」を作ってるゲームメーカーよりよっぽど「RPG」好きの心理をわかっていたんじゃないかと思う。