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Roofieさんのsense off ~a sacred story in the wind~の長文感想

ユーザー
Roofie
ゲーム
sense off ~a sacred story in the wind~
ブランド
otherwise
得点
98
参照数
648

一言コメント

十数年ぶりにリプレイしてみましたがやはり名作です。解釈を楽しめる方にお勧めします。(H29.6.26 長文書き直し)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

(H29.6.26)
十数年ぶりにリプレイしてみたのでレビューを書き直そうかと思いましたが、
理論的にまとめるのは無理そうなんで長々と雑感とキーワードだけ書き連ねる事にします。


・少なくともヒロイン全員と直弥はいわゆる同族。
 なので各々がある程度世界を読み替える能力を持っています。

・直弥の能力は触媒能力で、これは全シナリオ共通。
 ただ、珠季シナリオや透子シナリオのように、能力が自らに向かう可能性を否定できない。
 彼は周りの運命を変質させるが、同時に自らの運命を変質させているのかもしれない。

・エンディング直前の選択肢を誤ると(=Hシーンに突入しない選択肢を選ぶと)、end of the worldは出てこない。
 これにシナリオ上の意味があるとすれば、ヒロインとの共生関係(少し強引だけどイコール肉体関係と解釈してもいいや)を結べない限り、
 グッドエンディングは迎えられないと解釈する事も出来る。

・そもそもend of the worldってどういう意味なんだろうか。
 素直に、古い世界(肉体に囚われ、孤独であった世界)が終わり、新しい世界が始まった、という解釈でいいんだろうか。



・成瀬シナリオ。同族でありながら同族の事が語られない。
 彼女の能力は未来予知と言うよりは未来の固定化にあるように思う。

・いくらラプラスの悪魔であろうと完全な未来予知が不可能(cf.不確定性原理)である直弥に対して、
 恐らくはh(プランク定数)の値をゼロにしていくことで未来を固定していく彼女の能力は、
 ある意味直弥を補完するのに最も適したものであるように思えた。

・ただし彼女はゲーム全体からすると役目をあまり持っていない。
 そして他シナリオに入った時には、他ヒロインと直弥の仲立ちをしているようにすら思える描写がある。
 メインヒロインとしてのお約束を繰り返す彼女はとてもゲーム的な存在で、敢えて魅力が減殺されているように思えた。

・成瀬のend of the worldは素直に遠い未来に転生した二人の情景と捉えてもいいんじゃないでしょうか。
 同一人物には見えないし。



・珠季シナリオ。一つの言葉が世界を変えるというテーゼを昔は全く理解できなかったが、
 今は実感として理解できる気がする。人生経験の産物ですかネ。

・彼女(と美凪)が登場するだけでテキストが明るくなるのは良いことです。
 若干ワンパターン気味に見える事もありますが。

・グランマは同族なんだろうか。美凪シナリオで語られた同族の人間への癒着は1人の人間に2つ以上の意識が入る事を否定してはいない。
 これが肯定されるなら、肉体の死は思惟の死ではない(cf.美凪シナリオ)と考えると、珠季の思惟が直弥に宿ったと考える事はできる。

・逆に、珠季の思惟を直弥が演算によってエミュレートしたという考え方も出来る。
 ただこれだと珠季が思惟としてこの時点で存在する(転生待ち)理由が付けられないので、多分前者の考えの方が自然かな。



・椎子シナリオ。細かいことを考えなくてもこのシナリオはとても楽しい。
 私が数学好きになった元凶のシナリオでもありますし、遍歴のテキストは心惹かれる物がある。

・ただ遍歴は本当に書きたいこと書いたんだろうなーという空気がちらほらと。
 ガロアの話も出てきましたが、彼は決闘で死んだという以前に生前認められなかった天才である、というベルトホルトとの共通点がある。
 その辺を勘案して話に出したんじゃないんでしょうか。コーシー(このシナリオではライプニッツ)は反省するといいよ。

・確かに前世からの因縁、という繋がりはあるが、それに加えて椎子もさらに昔は同族であった事に注意する必要がある。
 ただそこまでの記憶はお互いないので、end of the worldの解釈をそこに求めるのは無理がある。



・美凪シナリオ。もっと楽しいシナリオを期待していたような気はするが思ったより重かった。
 サトリと他者との関係不全に関しては様々な作品で語られている気がするので、違和感はさほどないけど。

・珠季もそうだが、彼ら/彼女らは何らかの力を持ち、それゆえに同族以外との関係を持つことが出来ない。
 それが端的に表されているのがこのシナリオかとは思う。

・同族の怨念については他シナリオで全く語られていないのでどう定義付けてよいか悩むところ。
 ただ、ゲーム全体を考えるとやはり各シナリオで設定が異なるとは思えないので、恐らく他シナリオでも怨念はあるのだろう。
 もしかしたら全体的にバッドな方向へ話が引きずられているのはこのせいかもしれない。

・end of the worldは最も難解。
 何せ彼女の持つ能力は世界を読み替えるとしては弱い方じゃないか? と思えるので。

・美凪が怨念に打ち勝ったという解釈をするのが素直なんだろうけれど、根拠がない。
 そもそもこれを美凪が自覚していたかも疑わしい。今後の課題。



・透子シナリオ。彼女はそもそも人間なのだろうか。
 食事の事など考えると、そもそも生物学的にかなり変質しているのでは?

・透子には「あの人」が居て(居た?)、直弥にも美凪(このシナリオでは覚えていないが)が居るのに関係を持とうとする。
 さらに選択肢にあるように「俺はこの肉体で透子に触れていたい」という風に直弥が表現している通り、
 思惟としての繋がりではなくむしろ肉体(変な意味ではなく)としての繋がりを求めているように思えます。
 これはこれでエロゲ的には間違っちゃいないと言うかむしろ常道なんですが、テーマ的にどうなんだろう?

・end of the worldではショーウィンドウの服を着ているCGが出て来る。
 これは彼女が人間でなかったものから人間に変質した事を示しているのでは?

・素直に、彼女は直弥の事を最後まで思うことが出来たという根拠で復活したという事もありえる。
 形而上学的な問題で「なぜ私は私なのか」という命題があるが、直弥の存在によって他者との関係性を確立することにより、
 「私は他の何かではない」という認識に目覚めたという解釈は出来ないだろうか?



・彼女に限らずヒロインたちや直弥の破壊は結局のところ彼ら/彼女らが肉体を持つ故の破壊であると感じる事ができる。
 (先述の「怨念による破壊」という事を差っ引いても)
 つまるところ、彼ら/彼女らが志向すべき所は結局のところ原始の思惟生命体だ。

・それを踏まえて、慧子シナリオは人間が進化してこうなっていくべきだという提示。
 彼女が内線電話まで道を作った経緯は、まさに思惟生命体となる前の機械の進化である。
 そして彼女は(ほぼ確実に)同族ではなく、人間だからこそ進化のモデルケースとしての価値がある。

・ただ彼女も永遠では居られなかった。結局のところこれは脳だけであってもその軛から逃れられないからである。
 完全な思惟となった所に進化してこそ永遠の繋がりがあるといった所だろうか。

・この物語が唯物論的である、と以前は考えていたけれどよくよく考えるとむしろ観念論的だと感じる。
 慧子における脳にせよ、思惟生命体における機械にせよ、それは思惟を限定する軛であるし、
 特に珠季・慧子シナリオにおける帰結はこれらを解き放ったからこその結末である。

・但しハードウェアが全くない状態で思惟が存在する状態、という物が今ひとつ理解できない。
 そしてこの可能性を提示してくれたわけでもない。今後の課題。



以下評価に関係ない雑感。
・これくらいの媚びてない感じのCGがとても好きです。
 全体的に引いた構図が多く、ヒロインと直弥だけではなく空気感を表現しているのも良い。
・一切ノーモザイク。美凪のはアレ大丈夫なのか?
・やはり全体的に解釈を楽しむゲームかなとは思う。
 日常会話はダルいという声もありますが、個人的にはこういうの嫌いじゃないですよ。
・依子さんについては特に語る事はございません。
・このゲームで唯一自信を持ってお勧めできるのはやはり音楽。
 コズミック・ランは情景も相まってエロゲー史に残ってもよい名曲だと思うんですがどうでしょう。