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RIGHT EYEさんのアトリの空と真鍮の月の長文感想

ユーザー
RIGHT EYE
ゲーム
アトリの空と真鍮の月
ブランド
TOPCAT
得点
90
参照数
1465

一言コメント

「そんなに優しくするからこんなことになっちゃったんじゃないっ!」 という台詞は胸に突き刺さりました。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

●<評>
設定・シナリオ・テキスト
- ヒロインは六者それぞれが、物語上重要な役割を持ち
  それが順に一つずつ明らかにされていく構成です。
  だから攻略順は{立花・三葉・朝}→{砌}→{月乃・文乃}固定。
  巧みに物語は編まれています。
  {立花・三葉・朝}→{砌}までは
  それぞれのヒロインの物語上の立ち位置から
  舞台設定・物語設定について紐解かれていきます。
  こうして物語の概要を掴むまでが少々長い道程になります。
  加えて、最後の展開はほぼすべて同じですので
  ここまでゲームプレイをするモチベーションを
  どのくらい維持出来るかは
  この田舎伝奇物語という設定に興味がもてるかどうか
  あるいはお気に入りのキャラクターがみつかるかどうか
  などによって、分かれてしまうでしょう。
  もう少しコンパクトに出来たはずですが
  この重厚な設定が当作品の肝ですので
  これはこれで。  

  物語の終わりは、どれも完全にHappyと言える物ではありません。
  なにがしか犠牲があります。
  それがこの作品の魅力です。
  国破れて山河ありです。
  ただ、本作では多少配慮されているのか
  不思議と何故か、何かが帰ってきたり生きていたりと
  するのは良くありません。
  それには、はっきりとした理由付けが欲しい所です。
  
  前作の『果てしなく青い、この空の下で…。』をプレイしていると
  物語は分かりやすくなり、より深みを感じますが
  プレイしていなくても理解に問題はありません。
  反対に、この作品から『果てしなく青い、この空の下で…。』に
  移行しても同じ事が言えますので
  それもいいかも知れません。
    
原画・背景・彩色
- 原画家は、かどつかささん。
  初めて見る方ですが
  本来、この方の描かれる絵を見ると
  本作と全く違う指向性です…。
  逆にここまで元祖のたかみちさん絵に
  似せて描かれていることにプロを感じます。
  (反対に、じゃあ何故たかみちさんを起用しないのか?
  という疑問も大きくなりましたが)
  全く萌え系の絵ではありませんが
  作品的にはこの指向性で宜しいかと。
  もう少しだけ、萌え系の要素が欲しいのは
  確かですが…。
  絵の枚数は物凄いことになっています。
  シーンによっては
  特にHシーンでは使い回しも多いですが
  背景まできちっと描かれた絵の枚数は圧巻。
  絵崩れと呼べるようなものはありません。
  CG彩色のおかげか
  ヒロインの肌感はエロイですし
  全体に統一感があります。

  この作品は舞台が特殊なので
  背景が一つの勝負。
  見事なまでの田舎。
  そして田舎の長閑な部分と
  陰鬱な部分が巧く表現されていると思います。
  ただ、洞窟内や水の表現は
  もうちょっとバリエーションが
  欲しかったです。

その他
- 800x600の画面サイズですが
  フルスクリーン拡大すると
  少々画が粗くなります。
  テキストウインドウは
  通常時とイベント時別に
  縦書ウインドウと
  横書ウインドウが選べます。
  どちらもウインドウ内は最大6行表示と
  やや多めですが
  ウインドウ透過率を高めてやれば
  あまり邪魔にはなりません。
  SAVEは100マスまで。
  分岐が細かいので
  やや不足に感じるかも。
  その他基本的な機能が揃っており
  クリックボイスSKIP/継続選択可。
  インターフェースはアイコンではなく
  機能名表記なので分かりやすく
  SAVE/LOADはワンクリックで
  画面呼び出し可能です。

  音楽はいつもの安定SYUNさん。
  今回はいつものKIYφさんに加えて
  AKIRAさんが歌う
  「陽の当たる場所」(ED)が素晴らしいです。
  そしてOPはなんと榊原ゆいさん。
  「Pieris」(OP)はこの作品らしからぬ
  爽やかで明るい曲なのですが
  実は終わってみればこの作品に
  ぴったりの曲。
  その他、BGMもバリエーションが広く
  伝奇物であり学園物であり恋愛物であり昭和であり
  作品世界を美しく彩っています。

  また、この作品
  とても歓心したのがBGV(バックグラウンドボイス)。
  商店街での店前の歓談の声など
  BGMでシーンをつなぐのではなく
  音楽は敢えて無音で、そうした喧音やセミの声など
  BGVでシーンが流れることが多々あります。
  前作「果てしなく青い、この空の下で…。」で
  好評だった手法ですが
  今作でもかなり効果的で
  臨場感半端無いです。  
  
  役者陣は
  久々、北都南さんがドメイン。
  その他もかわしまりのさん、草柳順子さんなど
  かなりの演技派が揃っています。
  かなり難しい演技がありますので
  順当な配役だと思います。
  昔からエロゲを遊ばれている方には
  やや古くさく感じる布陣かも知れませんが
  その中で一際異彩を放つのが
  あじ秋刀魚さん。
  なんというか、この方の
  素人くささというかヘタウマというか
  ジブリ作品のヒロインのような
  透明感のある声が
  作品の中で光っています。
  また、男性陣の演技も今作では
  特に重要なシーンが多いので重要でした。
  山神役の一条和矢さんなど
  かなりゾクゾクさせられます。
  全て、ここまではまる配役も中々ありません。

●<感想>
- 最後にエンディングでPierisが流れ出した時の寂寥感。
  作品世界が閉じられていく口惜しさ。
  久々、この作品終わりたくないと思いました。
  すごく古くささがあって
  絵が好みに合わない方、鬱要素が少しでも苦手な方など
  端からバイバイな作品ですが
  Playしていくうちに慣れますので
  是非とPlayしてみて欲しい作品です。
  デモムービーにもありました
  「そんなに優しくするから
   こんなことになっちゃったんじゃないっ!」
  という台詞は胸に突き刺さりました。
  このゲームちょっと選択肢が難しくて
  意図せずに「こんなこと」になっちゃうんですよね…。

  なんだかやるせなさ、どうにもならない思い。
  そんな中で必死にもがく子どもたちの美しさ。
  そんな作品でした。
  シナリオが良い作品。まさにその一語です。

  一番面白いのは月乃/文乃ルートなんですが
  ちょっとちょっとちょっと、これふみのんが
  全然救われてないよっ!
  安曇村から6年ふみのんに何があったのよぉぉっ
  でも、かわいいよふみのんのん。
  文乃がツン9.9:0.1デレ黄金配合になってるのに対して
  ツン8:デレ2くらいになったのが月乃。
  文乃は前作、果て青からのヒロインですので
  置いておいて
  一番、今回好きなのは月乃ですね。
  いつも輩人を突き放すのだけど
  いつの間にかデレデレに気にしちゃってる
  あの微妙なさじ加減が最高!
  あ、でも三葉も同じくらい良かった。
  三塵荘で輩人と幽霊に会うのですが
  三葉は全く気付けなくて
  せっかくの幽霊のアクションを全て無に返す
  天然のボケ殺し三葉。
  あのシーンは笑い転げました。
  あと、露骨なまでに裸を全く気にも留めない
  天然ぷりも何度も笑わせてくれました。

  そんなコメディーと
  物語全般に沈着するシリアス。
  特にこのゲームはBadエンドに真骨頂が
  あるのではないだろうか、と思わせるほどに
  Badが物語として完璧です。
  これでもBadは何度も書き直して
  ずいぶん穏やかにした、と
  鷹取さんのコメントにありますが
  その凄惨Badも読んでみたいです。
  逆に、各ヒロインのGoodエンドも
  完全なHappyでは終わりませんが。
  コメディ-とシリアス。
  そのコントラストがとても心地よいです。