一人一人との恋愛が丁寧に描かれているが、共通ルート特有の賑やかさが皆無なのは残念だった。
・丁寧に作られた学園モノ
HOOKの過去の学園モノの場合、現実にはありえないようなシステムの学園や学園都市が舞台となることが多かったが、本作は比較的オーソドックスな学園が舞台となっている。
共通ルートらしい賑やかな展開は殆どないが、代わりに、各ヒロインとの出会いから付き合うまでの過程を共通ルート中で丁寧に描いているので、徐々に打ち解けていき、気になる異性へと移り変わる過程と、付き合ってからのイチャラブの両方をしっかりと楽しめた。
瑛美を除けば初対面だったヒロインたちと、(瑛美も含めて)学園で会っている内に仲良くなっていく過程がしっかりしているので、二人の距離が自然に縮まっていき、意識し合うようになる過程は見ていて青春らしさを感じた。
登場する女の子全員と付き合えるのも嬉しい点で、サブヒロインもサブヒロインなりのボリュームがしっかりとあり、付き合うまでの過程も丁寧に描かれていた。
逆に選択肢で積極的にヒロインと関わるようにしないと、顔見知りの域を出ないままなのも、ある意味でリアルだった。
個別ルート(付き合いだしてから)の内容も、特に印象に残るものではないかもしれないが、順当なイチャラブが楽しめる内容のため、正に本作のジャンルである「どストレートな学園恋愛」を楽しめる作品だった。
それぞれのルートが丁寧に作られている反面、上述したように、複数のヒロインが同時に登場する場面は皆無に近かった。
ヒロイン同士に面識があるかすら微妙なラインで、ヒロイン同士の会話シーンも殆どなくて、そういった点では寂しいと感じた。
HOOKの過去作では共通ルートが非常に楽しく、個人的には大きな魅力の一つだと考えていたので、本作の完成度は別として、共通ルートの寂しさは残念だった。
サブキャラが少ないのも寂しく感じた理由の一つで、裕香のシナリオ以外では関わってこない武藤を除くと、亨と嶋林の二人しかサブキャラがいなかった。
各ヒロインを平等に扱うためか、シェアハウスをしている瑛美や、クラスメイトの望愛も彼女たちを選択肢で選んだ場合以外では殆ど登場しないのも、せっかくの設定が活かせていないと感じた。
また、各ヒロインのルートが半ば独立していることもあり、過去作よりもハーレム感、モテモテ感は薄かった。
主人公も前作のようなハイスペック主人公ではないが、女の子に免疫がないというプロローグ時に語られた設定など何処吹く風で積極的に行動するので、強く印象に残るわけではないが、好感の持てる主人公だった。
ヒロインは全員非常に魅力的で、個人的な好き嫌いが大きい部分ではあるが、ハズレ(好みではない)ヒロインは存在しなかった。
サブも含めると7人のヒロインがいるが、属性がかぶっていないし、いい意味で普通なヒロインばかりで、照れたり、恋人である主人公にしか見せてくれない表情があったりと、萌えポイントがしっかりと押さえられていた。
定番の幼馴染ヒロインである瑛美は、長いこと離れていて、大人らしくなっていたことに対するドキドキや、逆に昔を思い出してしんみりしたりと、幼馴染らしさの感じられるヒロインだった。
他のヒロインも魅力的だったのだが、個人的にはサブヒロインの3人が特に好きだったので、サブ扱いなのは残念だった。
・学園生活を楽しむための工夫
本作のコンセプトやポイントを公式HPで確認してみると、学園モノを楽しむために「3つの時間の要素」や噂話を聞ける「STAND TALK+」という機能が挙げられている。
3つの時間の要素とは、登校時間と放課後の行動の選択、および四季を通じた学園生活のことで、放課後の行動に関しては、攻略したいヒロインに会いに行くだけの単純なものとなっている。
登校時間については、前日の夜に早く寝る、普通の時間に寝る、夜更かしする、徹夜をするの四択から選ぶことができ、就寝時間次第で、登校時間も変わるというシステムになっている。
登校時間によって朝に出会うヒロインが変化するのだが、別に朝早くに登校したからと言って、会えるヒロインが固定されているわけではなく、日によって同じ登校時間でも出会えるヒロインは変化する。
最初はどの選択肢が目当てのヒロインに繋がっているのかわからず不便だと感じたが、別に目当てのヒロインに会えなくても攻略には影響しないので、深く考えずにプレイしても問題ない機能だった。
むしろ、待ち合わせもしていないのに、毎回同じ相手に登校時に会うのも不自然なので、学園に通っている感覚を演出するためには、誰に合うかわからないというのはリアルでよかったのかもしれない。
とはいえ、選択肢が多くなる機能のため、スキップで周回をしている場合には面倒に感じることもあったので、何らかの快適にプレイできる工夫がほしかった。
四季を通じた学園生活を描くことについては、それが果たして学園に通っている感覚が得られるのかは疑問なのだが、年間通しての色々なイベントがあったことや、服装に差分があったのはよかった。
ただ、夏休み頃から付き合いだし、大体卒業式くらいまでを各ヒロインの個別ルートで描くために暦の進みが非常に早く、バレンタインやクリスマスのような定番イベントすら描かれないルートも多く、また、恋人同士の日常をピックアップしたものを見せるような構成になってしまうため、場面と場面の繋がりが薄く、恋人同士になってからの進展は急だと感じた。
STAND TALK+(以下、ST+)は昼休みにモブキャラと会話したり、会話を立ち聞くことで、ヒロインたちの噂を集めることができるシステムとなっている。
HOOKはモブキャラの存在感を出すことに力を入れているメーカーで、過去には学園性たちが書き込める掲示板機能などを実装していたが、本作はST+という新しいシステムでモブキャラの存在感を出そうとしている。
ST+ではヒロインの情報以外にも、単なるモブキャラたちの会話だけの場合もあり、確かにモブキャラの存在は他ブランドの学園モノよりはあったかもしれないが、正直に言うと地味だと感じた。
また、興味がなければ(周回時には)無視できる掲示板と異なり、ST+は強制な上に、最低限目当てのヒロインの情報を集める必要はあるので、周回プレイ時には少し面倒だった。
二週目以降はどのモブキャラに話しかければ、どのヒロインの情報が手に入るか表示されるため、一組に話しかけるだけでいいのだが、それはそれで作業感があるだけだったので、HOOKのモブキャラに存在感を出そうとする試み自体は好きなのだが、ST+に関して言うとイマイチだった。
ST+を別にしても、いつもよりはモブキャラの登場頻度が低めなのは残念な点で、特にヒロイン同士のやり取りの無い本作でこそ、モブキャラに頑張ってもらうことで賑やかさを出してほしかった。
・完成の域に達したグラフィック
本作のCG枚数は全部で85枚となっており、フルプライスでも満足できるボリュームとなっている。
また、単純な枚数だけでなく、年間を通しての物語のため、冬服と夏服が用意されているのも嬉しかった。
立ち絵には目パチアニメーションがあり、また、喋りながらも立ち絵は切り替わるため、ヒロインたちに躍動感があってよかった。
HOOKはここ数作でRINKSという原画家を起用しており、オンリーワンの魅力があった反面、原画がやや安定しないという欠点があったのだが、RINKS氏担当の三作目である本作では安定しており、完成の域に達したと言えるクオリティになっていた。
サブヒロインの凛はステレオタイプのモブキャラのように、前髪で顔を完全に隠した状態なのだが、告白する段階で顔を半分だけ隠した状態(片目だけ見える)にするか、顔を隠さない状態にするかを選択できる。
顔を隠さない状態にしてしまうと、可愛くはあるのだが、誰だこれ状態になってしまい、個性が薄くなってしまったので、自分は顔を半分だけ隠した状態にしたのだが、選択できるというのはありがたかった。
・エッチシーンは可もなく不可もなく
本作のエッチシーン数は22回となっており、メインヒロインが4回、サブヒロインが2回となっている。
尺は萌えゲーとしては並程度で、猥語はピー音修正ありな上に、ピー音のボリュームが大きめだったのだが、猥語自体が少ないため、耳にする機会は少なかった。
モザイクがかなり大きいのは残念な点で、更に、モザイクが大きいせいで、モザイクの上に精液とか処女喪失時の血があると違和感があった。
良かった点としては、射精時に中か外かを事前に選べることと、Hシーン時の服装を半裸か全裸か選べることで、特に、服装を選べるシステムは非常によかった。
シーン内容は可もなく不可もなくなもので、特には印象に残らなかったのだが、グラフィックの出来はよかったので、絵的にはよかった。
・システムは概ね快適
本作のコンフィグやシステム周りは普通の一言で、設定したい項目は一通り設定できるため、概ね快適にプレイすることができた。
右クリック、および上下ホイールの動作設定や、キーボードショートカットも設定可能で、バックログからのジャンプや、直前の選択肢へのジャンプもあった。
逆に不便な点としては、周回時には最初からが前提の作りなのに、次の選択肢へジャンプできないのと、ウィンドウサイズを変更できないのは少し不便に感じた。
また、テキストウィンドウ上にセーブ/ロード画面に直接ジャンプできる項目がないのも不便な点で、セーブ/ロード画面に飛ぶにはコンフィグ画面を開いてから、セーブ/ロード画面に飛ぶ必要があった。
本作にはプロフィールという機能があるのだが、共通ルート中に知り得たヒロインの好きなことや嫌いなこと、苦手なことが記載されているのだが、果たして必要なのか疑問な機能だった。
とはいえ、邪魔というわけでもないので、何とも言えない機能だった。
初回特典ディスクに入っているパッチを当てると、全ヒロインのシステムボイスが使用できるようになるのだが、自分は単なるサントラだと思っていたので、プレイ後に存在に気づいた。
パッチを当てないと、無機質なシステムSEなので、システムボイスがほしい人はプレイ前にパッチを当てるといいだろう。
・まとめ
メイン、サブを問わず、ヒロインとの仲良くなっていく過程が丁寧に描かれており、オーソドックスにヒロインとの学内恋愛を楽しめる作品だった。
ヒロインもそれぞれ魅力的で、消化試合的にプレイしたルートが存在せず、どのヒロインのルートも楽しむことができた。
反面、HOOKらしい複数の登場人物を交えた賑やかなイベントやモテモテ感がなかったのは残念だった。
本作で三作目となるHOOK専属(?)のRINKS氏のグラフィックは、過去作と比べて大幅に安定しており、HOOKだけの独自の魅力を作ることに成功していた。