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Predawnvagabondさんのソーサリージョーカーズの長文感想

ユーザー
Predawnvagabond
ゲーム
ソーサリージョーカーズ
ブランド
3rdEye
得点
98
参照数
2020

一言コメント

色々と見所の多い作品だが、今作も一番の見所はやっぱり人間ドラマの部分だった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

・複数の思惑乱れる現代社会+魔法の世界観

現代社会に突如魔法が現れ、それから12年後の魔法技術が社会の深い部分にまで浸透した世界を舞台とする本作は、魔法というものに対する価値観がしっかりと定まっていない不安定な社会情勢をバックグラウンドとして展開するストーリーで、色々なキャラクターの思惑が複雑に交じり合い、敵味方もわかりづらく、先の展開が気になる非常に魅力的なストーリーだった。
ストーリーは大きく2つに分かれており、前半と後半ではキャラクター相関図も大きく変わるし、物語も終盤に行くにつれてどんどん盛り上がっていくので、プレイの中断どころを見つけるのに苦労するくらいだった。
特に、前半終了部の主人公である陽斗の以外の正体の判明や、センリが奮闘むなしく陰謀の阻止を失敗する終わり方から後半部分への繋ぎ方は非常に秀逸で、OP曲も別に用意されていたりと、非常に燃える展開だった。
ただ、最終的に魔法は何故出現したのかみたいな部分にまで、物語は触れるのだが、そこに行くまでの謎解きや伏線は見事だったかもしれないが、真相自体はあっけないというか、肝心の部分はわからないまま終わってしまったように感じた。

・人間的成長を主軸に置いたストーリーと無駄の無いキャラ配置

世界観や謎解き、戦闘も面白い本作だが、個人的には一番の見所は人間ドラマだった。
立ち絵ありのキャラクターだけでも約20人存在する本作だが、主人公2人+ヒロイン4人のそれぞれの成長模様が作品を通して描かれる。
やはり一番大きな成長を遂げるのは陽斗で、正しくない行為を見過ごすことの出来ない正義感の強い陽斗が、物語を通して自分の価値観を成長させていくのは、本作の大きな見所の一つだろう。
陽斗サイドのヒロイン二人も学生らしく、作中で挫折を経験しながら、仲間の力を借りつつも、再び立ち上がって大きく成長していくという展開で、総じて陽斗サイドのストーリー展開は良い意味で青臭い物語だった。
逆にセンリサイドの物語は、同じく人間的成長を描いているとはいえ、センリとフィオナはある程度成熟した大人ということで、どちらかというと、過去からの脱却や清算みたいな側面が強く、ハードボイルド的な物語だった。
ノアの場合は特殊で、生まれたばかりで、しかも人間ですらないということで、人間性の獲得が一つのテーマとなっていた。
また、主人公は二人とも、中二病患者なら燃えないわけが無い、と言いたくなるバックグランドを抱えており、その辺りは流石に中二病作品のみを作り続けている3rdeydと言えるだろう。
メインの6人以外のキャラクターの配置も絶妙で、チョイ役に見えるエトーやミキヒサにも見せ場が用意されていたり、他のキャラクターも主人公たちの敵として立ち塞がるだけでなく、成長を促したりと、20人以上登場するのに、どのキャラクターにおいても、わざわざ登場させる必要があるか疑問に思えるようなキャラクターは存在しなかった。

本作はエロゲーであり、主人公とヒロイン、男と女、ということで、恋愛描写もあるかと思いきや、本編中ではほとんど無い。
フィオナや凛久の二人は、異性としての好意らしきものを多少は見せるものの、作品全体を通して恋愛要素はほとんどなかった。
プレイしていると別に気にならないし、それ自体は問題ではないのだが、本編クリア後に鑑賞可能になるエピローグでは、それぞれのヒロインと恋人状態になっているエピローグを見ることが出来る。
例えば、フィオナのエピローグだとセンリが何と神父になっていたり、あさひのシナリオだと陽斗と同棲状態になっているのだが、プレイヤー側は何がどうなってそういう状況になったのかわからないので、置いてけぼり感が非常に強かった。
エピローグで、擬似的にルートをどこかで分岐させたことにして、各ヒロインと結ばれたシナリオを描くのはむしろ歓迎なので、ただのエピローグ扱いにせず、もう少し丁寧に描写してほしかった。

・マルチ視点を活かしたストーリー展開

複数視点を通して描かれる本作は、前半部分は特に視点が頻繁に切り替わることにより、テンポがやや悪く感じられ、焦らされることもあるが、総じて視点切り替えの使い方は良く、単一主人公視点の作品では出来ないような伏線の散りばめ方もされていて、終盤で色々な伏線が回収されていくのは面白かった。
また、前途有望な正義感溢れる主人公と、犯罪者予備軍のような歓楽街に住む二人の主人公を用いることにより、現代社会と魔法が混じりあった社会の光と闇の両面を知ることが出来るようになっているのも良かった。
前半は主人公二人+ノア以外のヒロインの5人の視点でストーリーが進むのだが、複数視点を用いたお陰で、背後に潜む黒々とした陰謀の気配もありありと描けていたと思う。
また、前作の「幻創のイデア」同様、主人公同士はラストバトル以外では邂逅することなく、ヒロインの方も別の主人公と必要以上に馴れ合ったりせずに、最低限の交わりに留めておいて、一つの物語を二人の主人公で描くというよりは、二つの物語として描いていたのも、キャラクターの成長にも主軸が置かれている本作では良かった。

・戦闘シーンは前作よりも進化している

中二病作品に魔法という、鬼に金棒な組み合わせの本作では、もちろん戦闘シーンも大きな見せ場の一つである。
前作「幻創のイデア」では、やや物足りなかった戦闘シーンだが、今作ではしっかりと描かれており、特にセンリルートにおいては戦闘シーンも多く、単純に魔法をぶつけあったりするだけでなく、実戦経験の多いセンリらしい心理戦などの頭脳戦も含めた何でもありの戦闘術は面白かった。
また、自分は詳しくないので良くわからない部分も多いが、戦闘中の格闘術や、体の細かい動きなどは、それっぽく描写できていたと思う。
逆に陽斗ルートは成長部分に特に重きを置いているためか、戦闘シーンは少なめで、また、物語開始時点では魔法使いではあっても、戦闘に関しては素人だったこともあって、戦闘シーンも単純に魔法をぶっ放すだけだったりと、どちらかというと、根性バトルみたいな感じだった。

特に戦闘シーンで顕著なのだが、本作のテキストは癖が強めで、例えば、水の魔法を使うシーンでは水の流れる擬音を「水々々々々・・・」とかいて「ごうごう」と読んだり、それ以外にも、センリやフィオナの何でもありの戦い方を「正々堂々」と書いて「汚い方法」みたいなルビをふったりと、独特なものとなっている。
実は最初は、このクセの強さが結構目に付いたのだが、プレイしていくうちに自分も毒されて(?)、むしろ本作のテキストはこうじゃないと落ち着かない!と言いたくなるくらいになってしまった。それでもやっぱり、ルビはともかく、擬音は普通に効果音を使って表したほうが良いと思った。


・ボリューム満点のグラフィック

本作のCG枚数は全部で115枚となっており、気合の入ったバトルもののフルプライスものとしては標準的ボリュームかもしれないが、単純にフルプライスモノとしてみると、かなりのボリュームとなっている。
正直なところ、それもCG回想での枚数に入れちゃうの?みたいなCGも無いわけではないが、それ引いても100枚は優に超える大ボリュームであり、CGの質も高く、塗りも良かった。
また、登場キャラクター数が多いのに単独原画なのも、高評価できる部分だった。

・存在意義の微妙なHシーン

Hシーンは各ヒロイン4回ずつの計16回となっているが、本編中では各キャラ本番なしのフェラや手コキのみとなっており、ノアに至ってはキスシーンだけである。
残りはクリア後に鑑賞可能になるエピローグに集約されているが、ヒロイン4人とも処女だが、初めてのHシーンは描かれず、既に深い恋人関係になった状態でのHシーンのみ描かれる。
はっきり言って、本作をエロゲーに分類するためだけにあるんじゃないかと言いたくなるような扱いのHシーンだったが、ストーリー重視な上に一本道の本作ではテンポを悪くすることになりかねないので、エピローグにHシーンを持ってくるという構成は正解だった。
上述したように、もう少しエピローグを丁寧に描いていれば、もう少しHシーンの価値も上がったんじゃないかと思う。

・プレイを助けてくれるチャートと用語辞典、雰囲気を盛り上げる秀逸なBGM

ストーリー重視でコミカルなシーンから、戦闘シーン、シリアスなシーンと、色々な場面のある本作ではBGMも非常に重要で、雰囲気を盛り上げるのに一役も二役も買っている。
戦闘シーンでの曲数も多く、場面に応じて切り替わるので、盛り上がる。

システム面に関しては、ADV関連で設定できる部分は必要なものは揃っており、プレイする上で不便は感じなかった。
フルスクリーン時はデスクトップでの設定解像度のままフルスクリーンになるのもありがたかった。
本作は、複数視点の作品ということで、ストーリーチャートも用意されている。チャートが必要なほど複雑な作品ではなかったと思うが、ゲーム内での日時も表示されるため、陽斗があの行動をしている時、センリは何をしていたのか、ということを知ることも出来て面白い。
また、独自用語の多い作品なので、ゲーム内用語の辞典も用意されており、用語の意味を忘れてしまっても簡単に調べることができるようになっているが、辞書を見ないと理解できないような部分は無く、辞書の解説が簡便な上、不要な用語解説も多いので、本当に忘れた用語確認程度にしか使えなかった。


・前作「幻創のイデア」が好きならプレイする価値あり

前作の幻創のイデア同様に、今作もしっかりと作られた世界観を舞台にした戦闘や、謎解き、人間ドラマと、色々なものが詰め込まれた作品だが、ストーリーにおいて一番の見所は、やはり人間ドラマ部分だった。
メインの6人はもちろんのこと、他のキャラクターも見せ場があるし、徐々に陰謀の核心部分に迫っていく過程も面白く、非常に濃密なプレイ体験が出来ると思う。
また、CG枚数も豊富に用意されており、CG自体のクオリティも高めだし、BGMも秀逸なものが多かった。
ただ、主人公とヒロインの恋愛要素は少ないので、そういうのに期待するとガッカリすることになるかもしれないが、ヒロインはしっかりと可愛く描けていた。
いずれにしろ、前作のイデアと同系統の作品なので、前作が好きな人はもちろん、3rdeyeの作品を以前にプレイしたことが無くても、中二モノが好きならハマれると思う。