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Predawnvagabondさんのあきゆめくくるの長文感想

ユーザー
Predawnvagabond
ゲーム
あきゆめくくる
ブランド
すみっこソフト
得点
100
参照数
647

一言コメント

SF部分も含めて面白かった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

・SFネタがテンコ盛り

ストーリー的な繋がりは存在しないが、前作の「なつくもゆるる」が相対性理論を扱ったSF作品だったのに対し、本作は量子論を扱ったSF作品となっている。
細かい物理的制約や説明は脇においたSF作品はエロゲーでもそこまで珍しくはないが、本作のような細部にまで拘ったハードコアに分類出来そうなSF自体がエロゲーでは非常に珍しいので、「今世紀最初で最後の『量子力学ラブコメディ』」という公式HPの謳い文句は、SF好きの自分にとっては残念なことだが誇大な謳い文句ではないと思う。
ミクロの世界にしか適用出来ない(厳密には違うが)量子論を量子爆弾が爆発したせいでマクロな世界でも同じ法則が適用されるようになったという設定は、読んでいてこれからどうなるのかと非常にワクワクした。
PCやスマホなどに使用されている半導体を筆頭に、身の回りの様々なものに使われている量子論は、「シュレディンガーの猫」くらいは聞いたことがあっても詳しいことはわからんという人が多いと思うのだが、本作の主人公も量子論のことはその程度の知識しかなく、プレイヤーと一緒に物語が進むに連れて必要なことを学んでいくという形になるので、量子論について詳しく知らなくても問題ないだろう。

量子論以外にもSF要素はいくつもあり、ファーストコンタクトや遺伝工学、宇宙などの要素が詰め込まれており、プレイ後に思い返してみると、よくもこれだけの要素を破綻なく、しかもラブコメ要素と絡めつつ詰め込むことが出来たなと感心した。
エロゲーの選択肢にしてもカオス理論を持ち出したりと、本シリーズは今作で終わりらしいので、とにかく渡辺僚一氏の詰め込みたいSF要素を全部ぶち込んだのではないかと思う。
とくに遺伝子工学は本作の第二のテーマどころか、メインテーマのはずの量子論よりも目立っており、ノア(?)とサリを除けば登場人物はXNAという人工的な遺伝子を組み込まれた、遺伝子操作を施された人間となっている。
それにより特殊能力を得た反面、主人公とその幼馴染の歩は普通の人から迫害され、身を守るために闘争した結果、多数の死傷者を出しつつも闘争で敗北してしまったという過去を持っている。
他のヒロインにしても遺伝子操作をされた結果による、本人たちには過失のない罪業を背負わされており、遺伝子操作による人類の新たな可能性と、それによる倫理的問題も本作では扱われている。
また、XNA保持者特有の価値観が存在したりと細かい部分まで考えられているので、設定によりリアリティが感じられた。


・下ネタだらけのラブコメ

SFや細かい背景設定を抜きにしても本作は非常に面白く、一癖も二癖もある登場人物たちが織りなす学園物語はプレイしていてとても面白かった。
会話でのネタとシリアスの緩急が素晴らしく、渡辺僚一氏(あるいは本シリーズ)独特の下ネタは本作でも健在で、キャラクター問わず真面目な会話をしているのにおもむろに下ネタをさしてくるので、色んな意味でヒロインは衝撃的だった。
初対面で本気で去勢を提案してくる柚月、難解な理論で人の不安を煽るキス、ナイフを突きつけてくる沙織と、幼馴染の歩を除けば強烈な出会い方をするヒロインばかりなのだが、出自故にそれぞれが背負っているものがあり、普段のふざけた言動も掘り下げてみると彼女たちなりに意味があるので、奇抜な面ばかりではなく、それぞれのキャラクターに深みもしっかりと感じることが出来た。
また、比較的穏当な出会い方をするサブヒロイン(?)のノアも珍しい設定で、男の娘ではなくニューハーフしかもHシーンつきで、金玉の皮を女性器の形に整形したことまで赤裸々に語ってくれるという有様で、彼女(?)も非常に印象に残るキャラクターだった。

ラブコメ部分もラブコメを前面に押し出しているだけあってボリュームもしっかりとしており、とても面白かった。ただし、これが公式が謳う通りに「普通のラブコメ」かと問われると首を傾げてしまうが・・・。
主人公がたまたま手に入れたラブコメをテーマにしたコミックと、キスの色々と偏った知識を素にラブコメをしようとするのだが、如何せん知識不足な上に、一癖も二癖もある人物ばかりなので極端に走ることも多く、それがまた面白かった。
ノーパンの意義をここまで真剣に考える作品は本作くらいだろう。
また、多少強引な部分はあるものの、エロいイベントやラブコメもストーリー上重要な役割を担っており、それが何らかの出来事の引鉄となったり逆に問題を解決することもあり、単に愛を確かめるとか快楽を得るためだけじゃないのも良かった。

本作は全部でメインヒロインの4ルート+サブヒロイン2人のルートがあるが、サブヒロインに関しては中途半端に終わるノーマルエンドの代わりみたいなものなので、いつプレイしてもいいと思うが、個人的には沙織(トゥルー)ルートの前にはプレイしておいた方がいいのではないかと思う。
ネタバレが面白さを大きく損ないかねないタイプの作品だが、一番重要な沙織ルートは他3人をクリアするまではロックされているので、そこまでヒロインの攻略順序に神経質になる必要はないかもしれないが、歩ルートは主人公の能力が何なのかが判明するシナリオで、他ルートでも主人公の能力がわかっている方が読み進めやすいと思うので、歩ルートは最初にプレイしておいた方がいいだろう。
キスと柚月ルートに関しては、それぞれが補完しあったり、歩ルート以外の知識が必要だったりするわけではないので、どちらから攻略しても問題ないと思う。
本作は全てのルートをプレイすることで完成するタイプの作品だが、だからといってそれぞれのルートが中途半端に終わったりすることもなく綺麗に纏まっているので、作品全体(エピローグ鑑賞後)の読後感は勿論、それぞれのルートの読後感も良かった。


・やや物足りないCGボリューム

本作のCG枚数は70枚+SD14枚となっており、SD絵で補われているとはいえ、全体のボリュームが大きいこともあって枚数がやや物足りないと感じた。
反面、立ち絵は非常に多彩に動く(E-mote非搭載)のとSD絵が多めのため、実際にプレイしていると殆ど気になることはなく、プレイ後にCG回想を見ていてもう少しあればなぁと感じる程度だった。
沙織は己の乳の揺らし方にコダワリのあるヒロインなのに、本作にアニメーションは存在しないので実際に乳が揺れるのを見ることが出来ない。
一応は数枚のSD絵を交互に切り替えるタイプの単純なGifアニメーション的な乳揺れは見ることが出来るのだが、出来れば通常の頭身の立ち絵かイベントCGでの乳揺れが見たかった。
それさえあればCG枚数の少なさなど思い浮かびもしなかっただろう。
CGのクオリティに関しては非常に安定しており、シリーズ最初の「はるまで、くるる。」と比べると大きな進化を感じた。
背景もしっかりとしており、謎を解かなければならない街の背景がショボくて萎えるということもなかった。


・サリのHシーンは?

本作のHシーン回数は全部で15回となっており、歩、柚月、キスの3人が3回、沙織が4回、サブヒロインのみはやとノアは1回ずつとなっている。
沙織の枠なのかサブヒロインの枠なのかわからない部分に空きがあったので、沙織ルートをクリアするまでは、何か重要な秘密を握ってそうだしサリのHシーンが何処かで挿入されると信じていたのだが、残念ながらサリのシーンは存在しなかった。
猥語修正はやや高音のピー音だったので耳に残ると感じたが、Hシーン以外での猥語に使用されることの方が圧倒的に多かったので、逆に多少耳に残るくらいのピー音の方が面白くてよかったと感じた。
柚月を除けばHシーンはそこまで印象に残るものではなかったが、尺はしっかりとしていた。
作中でノーパンと露出趣味に目覚める柚月は青姦が多めで、自意識があるのかどうかすら曖昧な「WSP」という存在の目の前でエロいことをするという擬似的な露出プレイもあった。


・必要なものは一通り揃っている環境設定

環境設定は一通り必要なものが揃っており、プレイする上で不便には感じなかった。
ウィンドウサイズは可変で、バックログからのジャンプ、次の選択肢までジャンプ機能も搭載されているので、機能面でも必要なものが揃っており快適にプレイすることができた。
プレイする上で必要な機能は揃っていたが、個人的な要望を言うなら用語集が欲しいと感じた。
というのも、量子論などの物理の用語が作中で出てきて、その知識が後に必要となったときに簡単に思い出すことができるのと、プレイのテンポを損なわないために手短な説明だけの時もあり、その場合にはもう少し詳しく知りたいと思うことがあったためである。
物理の知識に関しては「ググれ」の一言で済んでしまうかもしれないが、WSPや量子爆弾、XNAとそれによる特殊能力などの独自設定も多く、特定のヒロインのルート中に別のヒロインで入手した情報をもう一度確認したいと思うことがあったので、独自用語も含めての用語集があれば便利なのにと感じることが何度かあった。