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Peetaroさんの魔法少女消耗戦線 another record -ちいさきものたちのゆめ-の長文感想

ユーザー
Peetaro
ゲーム
魔法少女消耗戦線 another record -ちいさきものたちのゆめ-
ブランド
metalogiq
得点
85
参照数
335

一言コメント

隠れた名作が、正真正銘の名作であると証明したFDです。 短編で構成されたEPの中で、アリシャとキバキのEPは群を抜いた完成度でした。 刹那的な希望と交わされた約束。 心を震わせるに十分。 やはりこの作品凄いです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

とても優れた内容のFDでした。
本編の補完を含め、期待していたものはしっかり提供しつつ、それ以上に新たな驚きも与えてくれる。
FDらしい戯れのエピソードを入れ込みつつ、本編をさらに奥深い作品とした事に価値がありました。


★アリシャ・オラオンは死んだ★
いくつかの短編の中でもこのEPが飛びぬけて満足度が高かったです。本編では名前のみで立ち絵すらなかった少女達が掘り下げられたことは物語に奥行を与えていました。
アリシャとキバキの関係性はどこか儚げで、物語の状況の異常性を色濃く伝えてくれています。
心が折れてしまうような絶望のなか、僅かな心のオアシスとして二人の結びつきを描いた手法は、一緒にタバコを吸う事。
甘い煙の香りと、紫の環が天井に登り静かに消えていく描写。
どうやら月に2回ほどしかない時間だそうで、なおかつ会話を交わすのはタバコを1本を吸う時間だけ。この刹那に2人の今まで生きてきた理由を交えながら交わされた約束は、抜群に上手い演出だったと思います。
死者となったアリシャは最後にキバキとの約束を果たすわけですが、スチルの力もありかなり印象に残るシーンでした。素晴らしい。


★イリューシャの過去★
思ってた以上に可哀そうな状況でした…。アイドル時代に枕営業していたことは知っていましたが、ここまで酷かったとは…。お気に入りヒロインだったので可哀そうな状況に心でガッツポーズ決めながら泣きました。
芯が通った強い意志の少女が、抗いようも退く状況に押しつぶされ蹂躙されていく。
哀しい事ではありますが、間違いなくイリューシャの魅力を底上げしてくれたエピソードでした。
この過去の事実を知ったうえで本編のイリューシャを思うと泣けてきますね。辛い。
深彫りによりキャラ造形をさらにくっきり描いたことで、イリューシャの背負ってきたものがプレイヤーの心を抉る。素晴らしい。


★残雪の過去★
本編プレイして一番気になっていた残雪脱走の真相と、キルケが黒幕となる理由が描かれました。本編のような「消費される少女」完全な搾取構造が完成する前ですが、抗いようなく躰を弄ばれる展開は本作最大の魅力です。この悲惨な状況がヒロイン達への感情移入とプレイヤーの心を抉る刃となり、さらに深く物語に引き込まれていく事になります。
EPの内容より、SF設定と辱設定のバランスが見事だったという感想です。
3人の英雄の中で残雪というヒロインの魅力はカンスト状態ですね。本編に過去編として差し込んでも良かった気がしますが、サイドストーリーとして見せてくれた方がクローズアップ感もあって、結果良かったのかもしれませんね。


★ちいさきものたちのゆめ★
グランドエンドと言われても納得できてしまう熱い展開のIFストーリーでした。
ただこれは個人的感想ですが、大団円のように見えて、結局は世界の搾取構造は維持されているので、あくまでエンタメ物語の範囲内という印象です。救いの無い完全シリアス路線が魅力だった本編とは異なり、時折コミカルが挟まれるのは違和感を感じてしまいました。あくまでダークに徹底してほしかったのが本音です。
とは言え物語はめちゃくちゃ面白かったので満足しています。
特にアリシャ・キバキの約束が絡むのは胸アツでしたね。


★えっちシーンに関して★
本編同様に凌辱シーン中心で上田メタヲさんの原画が素晴らしいものでした。
肝心の内容に関しては攻撃力が若干下がっていた印象です。
シーン数はFDにしてはかなり少なく、尺も短め。
願わくばリゼットとキルケの情事を見せてほしかった。
過去編の流れからするとあっても良かったじゃないかと寂しい気持ち。
ただその分の補填ではないですが、イリューシャの過去の抗えない恥辱と、残雪の流されるままに快楽を受け入れる状況が見れたことは素直に嬉しかったですね。
本作の魅力そのものだったと思います。


最後に。
改めて設定が勝利していた名作だと結論づけます。
このFDに関しては本編が好きだった方は必須の作品でした。
終わってしまった事に寂しさを覚えつつ、振り返れば素晴らしいプレイ体験となりました。
ありがとうございました。