武人として主のため一心に忠義を尽くす主人公と、その忠義にふさわしい主としてが振る舞おうとする主従が素敵。学院ねじ込む必要はなかった気がする。シナリオの9割は朱璃√で、他はオマケ。
8月のゲームはFORTUNE ARTERIALしかやったことのないニワカの感想です。
戦後日本のようでそうでもない世界を舞台に皇国の姫が国の再興を目指すお話。
シナリオとしては朱璃√がほぼ全て。
ケチのつけようはいろいろあったとは思うもののプレイ後の余韻は良いし
やってよかった。8月のやつ2個しかやってないけど今んとこ自分の中で外れはない。
今作は特に主人公が素敵。
武人として主への忠義を貫き一心に剣を振う姿は、キャラとして作られすぎな気はするものの、やはりかっこいい。
野郎主人公フルボイス(Hシーン以外)というのもあんまり見ないけど
かっこいいからオールおけー。
話の細部についてはちょっと配慮すれば済むところを
「こういうシーンが描きたいんだ」という神の意思で投げ捨ててるようにも思う。
たとえば、主人公サイドの人たちは非合法的な活動をするにあたって、もう少し素性を隠す努力をするべきではないか、とか。
特に滸は、稲生家の後継者で武人たちの精神的支柱であり父の刻庵は8月8日事件で捕縛されてるという
どう考えても奉刀会とのつながりを疑われる立場で、実際そのとおりなんだから、
テロ的な行為を働くにあたっては当然覆面とかして最低限でも身バレしない努力をする必要があると思うんだけど
そういう配慮が全く見えない。
帝宮へ潜入するときでさえ一目でばれる格好で行動している。
これはまあ立ち絵の都合と言ってしまえばそれまでだけど、服装差分を用意すれば済むことでもある。
それをしなかったのは「戦いのときに睨みながら刃を構えるほうがかっこいいから」ぐらいしかないんではなかろうか。
学院設定についても、どうあがいても成人にしか見えない主人公がいきなり通い始めるあたり違和感しかないんだけど、
でも、それでも、翠帝と臨海学校行きたいだろ!? 古杜音の水着が見たいだろ!!
という意思の元、雲上人の翡翠帝と普通に海水浴してしまうあたりは突っ込むだけ野暮にも思える。
とはいえ学院設定はいろいろ無理を生んでたんで、もう少しうまく話の流れを作れなかったのかなとも。
たとえば、滸さんが武人の棟梁でトップアイドルで学生というわけのわからん三重生活になったり
朱璃が「学籍あるから」というだけでいきなり通い始めたり
生徒会という名目の、革命を起こす以外に目的の見えないご都合機関が作られたり、などなど。
平常なら出会うはずのないキャラたちが一堂に会するご都合空間として使いやすかったという面もあるんだろうけど。
3話(火取虫)ぐらいまではそういう粗の部分が気になってたんだけど
帝京を離れ明確な敵が現れ、話の道筋が見えてきた朱璃√後半は特に気にならなくなった。
この辺もいろいろご都合主義が働いてるっていうかほとんど神頼み頼りなのはどうなんとも言えるとは思うけど、
そういう理屈以前に、愛する者のために命を賭ける覚悟で闘う話がすごく好きなので、ケチをつけたくない。
たぶん自分がエロゲなんかやってるのはこういう話を見たいがためなので、
朱璃√後半については余計なことは言わず面白かったとだけ。
以下、各要素について
■絵について
べっかんこうさんと影武者の夏野イオさんについては毎度の安定感なのでいいとして
今作は背景が綺麗。
これは立ち絵で会話してるときの背景だけじゃなくて、CG1枚1枚が細部まですごく良い。
8月ゲーってこんなに絵が綺麗だったっけ?
自分が前にやったのはFORTUNE ARTERIALで、あれからもう8年も経ってるとはいえ、
ずっと大して変わらないと思ってた8月の絵も年月で変わるもんだなと再認識される。
それはそれとして、
べっかんこうさん自身の絵はモノクロのほうが良いように思う。
カラーは見慣れただけかもしれないけど。
■曲について
全体的にはもう少し和風っぽさがほしかった。
そこはかとなく信長の野望リスペクトしてそうなやつが好き。
具体的にはこの辺
「君がため(刃濤の中)」
「しらつゆ」
「駆ける山風」とか野戦で使えそう。
あと信長関係ないけど(元々関係ないけど)
「祈り届くなら」
「千の刃濤」
「烏木」
辺りも好き
主題歌について。
「嗚呼 絢爛の泡沫ゆめが如く」がすごくいいんだけど、ゲーム中では特に使われてないのはなぜなのか。PV第2弾だけ?
→タイトル画面放置してたら出てくるなんて気づくか
第2弾PVは歌は良いんだけど1話のダイジェストにしてるため絵の切り替わりが早くてPV単体として見るとイマイチな気がする。
今さら無理だろうけど個人的にはこの歌でもう少し普通のPVも見たかった。
あとED。
自分には朱璃√で使われてる「日ノ環」より他ヒロインの「月夜に舞う恋の花」のほうが断然良いと思うので逆にしてほしかった。
「日ノ環」はなんであんな暗いの。朱璃√後半の不満はそこだけ。
■CVについて
ちょっと前まで「千恋*万花」をやってたんだけど
遥そらさんと小鳥居夕花さんは主従の契りでも結んだんでしょうか。
同時期の千のつく和ゲーで宿命を背負う姫とその従者となった2人。
(厳密には古杜音は従者とはちょっと違うけど)
シンクロニシティ的なものが働いてて素敵です。
遥そらさんが演じる朱璃は、1話「雪割草」の辺りはそこはかとなく小娘感が出てて
そのために全体として学芸会っぽい雰囲気があって最初はどうかなと思ってたんだけど、
話が進むにつれ小娘感が薄れてきて落ち着いた主らしい声になっていく。気がする。
徐々に演じ慣れたのか狙ってやったのかこっちが聞き慣れただけなのか。
狙ってやったのならさすがやなと思うので狙ってやったことにしたい。
■システムについて
タブレットモードとかゲームパッド設定とかなんかいろいろ充実してる
自分はほとんど使いこなせなかったけど・・・
あとシステムボイスね。
遥そらさん好きだから朱璃をシステムボイスにしたら終了するたびに下郎呼ばわりされるのが辛い。
もう少しましなセリフがあったんじゃないですかね。
■各ルートについて
朱璃以外はサービス的な余談レベルなのでキャラが気に入るか否かしかないんだけど、
思ったことをちょっとだけ。
・奏海
朱璃のあと最初にやったせいかかなり微妙な印象。
奏海がお兄様第一すぎて引く。
まあ奏海自身はこんなんでもいいかもしれないけど、
宗仁たちが無難な落としどころを探してるのに奏海だけが「お兄様を犠牲にしたくありません」で台無しにしてしまうのを
宗仁やエルザがまるでたしなめることもなく
「(奏海はお兄様第一主義だから)仕方ないな・・・」で済ませてしまうのが消化不良。
・古杜音
エピローグでこの後50年うんたらとか言及してるの自分にはどう考えても蛇足なんだけど
そこは触れとかないと苦情でも来ちゃうのかな。そういうことなら仕方ない。
・滸
朱璃以外の√で唯一シナリオ的に触れといたほうが良い√。
冒頭でシナリオ分の9割は朱璃とか書いたけど、残りの1割は何かと言ったら滸。
というか2話(花篝)で帝宮に潜入したときに地下でいきなり御前試合始めたのが無理やりすぎるので
相対的にこっちがマトモな流れに見える。本来あるべき本編は、花篝だけはこっちだったんではなかろうか。
√自体は「俺たちの戦いはこれからだ!」エンドにしか見えないので打切りっぽい。
・エルザ
最後のCGのエルザがなんか太ましい。
夏野イオさんはべっかんこうさんの上位互換の影武者かと思ってたけど
まだまだ8月の看板は譲れないか。
終わってみればほとんどの√でエルザの理想が実現してるので
意外と朱璃にとっての最大の敵はエルザだったのかなと思ったり。
■追記
全√やって物語の背景が見えてきても
イマイチ何がやりたかったのかよくわからないのが小此木氏。
朱璃が結果として皇帝の座に返り咲けたのはたまたま宗仁と再会できたからで、
場合によっては頼れる人もいないまま玉砕せざるを得ない境遇にまで追いつめてしまったのまで
「奮起させたかったのです」の一言で全て説明つくんだろうか。つかない気がする。
で、少し考えてみたんだけど
小此木さんがやりたかったのは朱璃と皇国民の怒りの矛先を共和国から共和国+奸臣に変え
未熟な後継者である朱璃も奸臣を取り除けばとりあえずオッケー!
共和国の戦いはそれからだ!
という状況にしたかっただけで、
つまり朱璃の当面のハードルを共和国の排除から奸臣の排除に下げるのが当初の目的で、
あとはすべて誤算だったのではなかろうか。
小此木さんの誤算は
1.天御剣が早々に破壊されてしまったこと
朱璃がどんなに未熟であろうとも天御剣さえあればどうにでもなり、少なくとも小此木をぬっ殺すぐらい造作もなかったはずが
戦争開始早々切り札が失われてしまった。
そのために天御剣が再生するための時間稼ぎと皇国維持のため、替え玉の皇帝を立てざるを得なくなった。
この間に朱璃単独で帝宮に突撃されたらまずいんだけど
ここがプレイヤー側の先入観で、冒頭から朱璃が小此木に暗殺しかけるせいで皇姫ってそういうものだと思い込まされてるだけで
普通に考えたら皇姫が一人で呪装刀を持って特攻してくるわけがないよね。
武力もなく天御剣もなしに落ち延びた姫様が頼るとしたら当然、武人筆頭の稲生家当主、稲生刻庵。
その刻庵に回収した天御剣を管理させ、武人を統率させるとともに姫様の接触を待つ。
姫様が接触してきたら、天御剣の再生を待ち、奉刀会が決起する。
こう書くと小此木さんの差配は特に問題なかったように見える。
しかしここで小此木さんのもう一つの誤算が
2.朱璃と落ち延びた付き人が無能・里中だった
小此木さんもまさか姫様が武人とも巫女とも接触せず
自力で小此木氏を暗殺すべく3年間も木刀振ってるだけとは思わなかったのではなかろうか。
里中さん、一見貫録のあるババアなので皇家の事情に通じる風格を感じるけど、実のところ何も知らんかったのではないか。
そのため武人に頼る伝手もなく、朱璃を暗殺マシーンにするぐらいしかできることがなかった。
とはいえ伝手がなかろうとも姫様のために武人との接触をはかることが本来あるべき里中の役目だったと思えてならず、
全ての皇国人が皇国を維持すべく奔走してた中で、ただ一人姫様になんかズレた指導をして結果的に皇国をつぶそうとしてた里中は
アホなんじゃないかと断ぜざるを得ません。
そうやってダラダラと年月がすぎるうちに共和国に奉刀会の動きが察知され、刻庵が捕縛されてしまう。
そしてさらにもう1つの誤算で、代役で立てた翡翠帝がなぜか国民的な人気を得てしまい、朱璃の戻る場所が失われてしまう。
そのうえ朱璃の行方はまるでわからない。
朱璃引きこもりのせいで小此木さんマジ大ピンチになってしまったわけです。
なので、序盤の小此木さん暗殺未遂で内心一番はしゃいでたのは小此木さんだったのではないか。
ようやく売国ムーブから解放されるぜ、
となるはずが、ここに来てさらにもう一つの誤算が発生することに
3.朱璃氏、学生になる
せっかく朱璃が天京に帰ってきたのに、暗殺失敗後なんか学生になり共和国人と馴れ合い始めてしまう。
奉刀会は血筋の証明がとか言って朱璃の存在を認めない。
その辺も当然ながら監視者から逐一小此木さんに報告行ってたはずで、
ようやくお役目から解放されると思ったら目前でチンタラ足踏みされてる小此木さんの心情はお察しです。
ここから小此木さんの親切攻撃が始まるのは本編見ればわかるので省略。
早くぶっ殺しにきてくださいよ!
というのが小此木さんの本音だったけど、それは本編で伝わる以上のものだったのではないか。
3話「火取虫」の最後で小此木さんがやたら饒舌で、見てるほうは喋りすぎだろおっさんとなるのも
こういう経緯をふまえると致し方なしではないかと同情します。
本当はここでぶちまけてる本音を2年以上前に言いたかったんだろうなと。