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Nus2014さんのこの大空に、翼をひろげての長文感想

ユーザー
Nus2014
ゲーム
この大空に、翼をひろげて
ブランド
PULLTOP
得点
86
参照数
850

一言コメント

ラノベの「尾木花詩希」が面白かったので書き手つながりでやってみたけど、こっちも面白かった。エロゲ界隈ではありがちのようであまり見かけない真っ当 な青春学園部活恋愛物。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

そのうちやろうと思いつつ放置したまま4年経ってしまったけど
「尾木花詩希」をきっかけに手を出してみた。


導入の引き込み方が良く、
雄大さを感じさせるBGMに、広がる青空、ゆったり流れる白い雲、からから回る風車の群れと、横切っていく紙飛行機。
なんか面白い話になりそうというつかみは成功している。

PULL TOPの過去作品では「ゆのはな」がマイベストエロゲの1つなんだけど、
ゆのはなの場合、導入のゆのは登場シーンが一番つまらず、続けるうえであそこが最難関だった。

あれから10年経ち、作り手側も学習したのか、単に書き手が変わったからというだけか。



話としては小鳥√が一番よくできてて、他はオマケ。

小鳥√だけしかやらないと、

・イスカは今どこにいるの?
・双子とイスカは知り合いなの?
・飛岡先生が小鳥の心配をしたのはなんでなの?
・あげはは秘密基地が取り壊されたときに何をしたの?
・双子のガレージを昔使ってた人は何をしてたの?
・なんで亜紗ちゃんは家出したの?

といった辺りがわからないままになるけど、
いずれも大した伏線ではないので、よほど好きなキャラでなければ小鳥√以外はそんなにやる必要ないように思う。


個人的には、小鳥√の他は天音ちゃん√だけやって、あげは√の前半のほたるを愛でて途中でやめるのがベスト。




個々のシナリオ感想は後述するとして、以下、各要素について。


■絵

2人原画体制らしいけど違和感はない。立ち絵については。
イベント絵だと双子・あげは担当の人はもうちょっと頑張りましょう。



■BGM

上述の導入で流れる「A New World」の他、
日常曲の「Brightening Way」(ぱぱやぱやぱやってやつ)
上昇してる時に流れる「Open the Wind」
辺りが好き。

主題歌の「Precious Wing」はそんなでもないけど
演出として流すタイミングが良いです。


■声

なんか合ってなくね、というのが2人。小鳥とイスカ。

小鳥のほうの中の人は可愛らしい声だし特にダメというわけではなく
合わない気がするのは単に自分の耳の問題ではないかという思いもありつつ
申し訳なさを抱きながらオフにしたんだけど
イスカの中の人はガチで棒読みだと思う。

しかし脇役は「その他・女性」と一まとめにされているため、イスカだけ消すことができない。
一まとめにするのはモブと存在感のないキャラだけにしてほしい。



■各√について
クリアした順に
小鳥→天音ちゃん→双子→あげは

小鳥√は良、天音ちゃん√は普通、双子√とあげは√はイマイチ。



・小鳥

全体的に手堅い作り。
子供たちのワガママと大人たちの心配を無難なバランスで描き、
空を飛ぶための諸問題とその解決に至るまでを綺麗にまとめている。
何より設定上、小鳥が飛ぶ役目を担うのが一番しっくりくる。

キャラ同士の距離感もこの√が一番バランス良い。
ソアリング部と温度差のある天音ちゃんとか、会長に全く相手にされてないマー坊とか
お祭り事のときだけ助けに来てくれるモブ寮生とか、
「亜紗!」の一言で小鳥の配下のごとく現れる亜紗ちゃんとか。

紙飛行機や自転車など小道具の使い方が秀逸で、見せ場の作り方も上手い。
特にさざなみ大橋のシーンが素敵。あんなん誰でも惚れるわ。



ほんとにこんなやり方で飛べるのか、というか飛ばしていいのか、とか
グライダーを取り戻す部分雑すぎでは、という細かいケチはつけられるけど
外してほしくないとこは外さず、全体としては満足度の高い√です。



・天音

「尾木花詩希」を先に読んでたので、感情を色彩で表現するあたりに書き手のこだわりを感じる。
実際この√のシナリオ担当が誰かは知らないけど、そこは置いといて。

話の評価は、ふつー。

天音を突き放したイスカの真意を
イスカの人となりなんて全然知らないのに実は先輩のためなんだ、裏にはこういう意図があるんだと解釈してあげて
実際そうでしたという流れはやはりどうしても予定調和感がある。

先輩が最後までイスカにこだわってて、今の仲間たちよりもイスカが優先になってしまったのも不満。
最後飛ぶ理由は「みんなで作り上げた翼で飛びたいから」というのを先輩自身が求める、というほうが個人的には好み。


とはいえ後にやった双子・あげはと比べると
ちょっと自分の好みに合わなかっただけできちんとまとまってる先輩√のほうがマシではあった。



・双子

つまらなくて途中でスキップしてしまった。
二股は別に良いんだけど、この√だけ個人的に各キャラがやってほしくない行動が多かった。

たとえば主人公の・・・頭ぽんぽんやナチュラル口説きまでは仕方ない。ギャルゲ主人公というのはそういうものだから仕方ない。
しかし包丁で切った指をいきなり咥えるのは変態だ。
マー坊の盗撮も幼馴染相手でもギリアウトなのに特に親しくもない後輩相手にやるのはどうなのか。
双子の恋愛脳モノローグがやたら多いのも辛い。
佳奈子さんやモブ寮生たちが合宿に参加するレベルでソアリング部に関わってしまうのも、これまでの距離感を壊してていただけなかった。

また、他√では天才天才言われながらあまりその頭脳をいかすことなくパンツ泥棒してた程度の依瑠ちゃんも
この√ではさすがに活躍するだろうと期待したけど、特に変わり映えもなく、
その能力は後半のご都合主義に使われただけなのは残念。
四六時中亜紗ちゃんとべったべたな依瑠ちゃんが行間でライセンス取ってました、はいくらエロゲでも無理がある。




・あげは

他√では温存されてたほたるが弾ける√。
こんな愉快な子が他のルートでは影薄いのは整合性とれてない気がするが、可愛いからなんでもいい。

ただし良かったのはほたるだけで、話はイマイチ。というかダメ。

あげはが仲間たちにも理由を明かさず行動したり、その結果としてソアリング部や碧から距離をとろうとした理由が薄弱で
「子どもの頃に碧の告白を断ったら碧がいなくなり秘密基地も失くなってしまった」というトラウマと繋がらない。
あげはの行動が意味不明なため、ひたすら主人公にアプローチしてるだけのほたるのほうが可愛く見えてしまう。

またクライマックスの飛行は、それを止めようとした飛岡先生が全面的に正しすぎる。
テスト飛行が不十分といって天音ちゃんが止めようとする流れは必要だったんだろうか。


他√と比べると、あげはのキャラを意識してかはっちゃけ度合いが強く、
そこだけ見ればときどき空回りしてるものの楽しい√ではあるんだけど、
話はもうちょっと考えて作ったほうが良かったと思う。