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Nus2014さんのグリザイアの果実 -LE FRUIT DE LA GRISAIA-の長文感想

ユーザー
Nus2014
ゲーム
グリザイアの果実 -LE FRUIT DE LA GRISAIA-
ブランド
FrontWing
得点
78
参照数
381

一言コメント

絵は良い。シナリオはルートごとに格差あり。共通が無駄に長く、導入もイマイチ。ただ主人公が良いキャラしてるのでそれなりに楽しめる内容です。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

発売日に購入したものの共通をやってるとどうしても
エッチなお姉さんのルートしか選べず
2年の冷却期間を経てようやくクリアしての感想です。


■絵について。
フミオさんはようやく良いころの絵に戻ってきたように思えます。
個人的にはそらうたの頃が一番好きで、
Piaキャロや智代と渡り歩いてた頃も絵は好きだったんですが、なんかゲームそのものとのズレがあったような印象で、
今作については文句ないです。

ぽよよん・・・じゃなくて渡辺昭夫さんは今作の絵については思ったより不安定な印象。
由美子はイベントでところどころ別人みたいになるし、
みちるの髪型は脱着可能みたいな不自然さを感じるし・・・まあみちるの場合はそういうキャラ立てなのかもしれませんが。


■設定について。
「問題を抱えた子たちが通う学園」という設定が功を奏してたように思います。
この手のエロゲって日常イベントにおいて変なキャラづけを与えられた登場人物たちが
ありえない行動をひたすら続けるイメージで
そういうのが許容範囲を超えると脳が文字を追うことを拒絶してしまいがちですが、
今作の場合、ヒロインたちがどんなにエキセントリックなことをやらかしても
「ああ、そういう問題を抱えた子なんだな」となんか納得してしまうので、あまり気になりません。
個別ルートに入ってみると「問題」というのは各ヒロインのパーソナリティよりも
家庭環境によるものだったりしますが。


■シナリオについて
個別ルートはそんなに悪くないですが、
そこに至るまでの部分で短所はけっこうあります。

まず導入がイマイチ。
導入ってのは最初の職質のことですけど、あれはもう主人公も警官もひたすらうざくてあそこだけで投げ出しそうになります。
シーンとしてはそんなに重要でもありませんが、ゲームの第一印象に関わるとこなんだからもうちょっと考えて書いてほしい。

次に共通パート。
これは最初のうちはそれなりに楽しめますけど、途中で選択肢もはさまず長いことダラダラ続くので、さすがに冗長。
マグロマンの辺りで辛さを感じ始めました。
長いなら長いで個別ルートでの伏線を仕込むなり、
「何気ない日常の積み重ねで少しずつ変わっていく」描写をするなりすれば読む気にはなりますけど
そういうのもあまりないし。
また、冗長さの一因としてBGMの「オレンジサンシャイン」の多用もあるようにも思います。「たったったーたった」というイントロで始まるやつ。
あのイントロが毎度毎度区切りがつくたびに流れてくるんで、あれが流れるたびに「また似たような日常の繰り返しか・・・」とげんなりしてしまうので
日常BGMのイントロはあまり強いものは使わないほうがいいんじゃないかと。

この辺に目をつぶれば、主人公が面白いやつなので個々のイベントは概ね楽しめます。



■個別ルートについて
全体的には悪くはないですけど、蒔菜のルートだけは別格で出来が悪い印象。
他の人の感想見ると天音と蒔菜は評価高いみたいだけど、そうかなあ・・・。

以下、各ルートについて。順番はプレイ順。
名前の横の()内はABCの3段階評価。

○天音(A)
キャラが好きなので甘めの評価。エッチなお姉さんは大正義ですね。
けっこう壮絶な話で、読んでる間はだんだん先を読むのが嫌になってきますけど、
共通にもつながる話だし構成はしっかりしてると思います。
天音がユウジにおっぱい押し付けるのはこんな理由があったなんて。
あとエンディングに至るまでの力技が凄い。

展開としてはバッドの前半部分からトゥルーにつなげるのが一番面白いような。
なんでこういう構成にしたのかなってのがちょっと疑問。


○由美子(B)
全編通じて由美子パパが何したかったんだかよくわかりませんが、
(目的はわかるけど、なんで手段がそれなのかがわからない)
最後はまあベタに良いところに落ち着いたので後味は悪くないです。

ただ、話の途中で由美子が日常のあらゆる面で「自分が何もできない」ことを感じてるのに
そこから成長する描写がほぼ省略されてるのは物足りないです。


○みちる(B)
共通パートをやってるうちはこんなアホな子の攻略ルートをやろうとは微塵も思ってませんでしたが
個別ルートに入れる直前で引き込まれる設定が提示され
個別ルートをやってるうちにこのアホさも可愛らしさではないかと
次第に洗脳される感じですね。引き込み方が上手かった。

ただ物足りないのは主人公のほうで
なんか最後までみちるに対するデレ成分が足りなかったように思います。
ユウジのクーデレぶりが個別ルートには必須じゃないかと。


○蒔菜(C)
このルートだけ出来の悪い2次創作みたい。
ところどころの描写でキャラの言動や行動に違和感があって読んでられませんでした。

主なのをあげてくとこの辺。
・主人公が「モギタン」とは何かをごまかす。
 蒔菜に教えてる「モギタン」とは何かと天音に問い詰められるシーン。
 普段なら「モギタンとは模擬短刀のことだ」と真顔で返しそうなもんですが
 これをごまかしたということは「天音に怒られるようなことを蒔菜にやらせている」と
 主人公が認識してたということだし、あまり良い印象ではありません。

・目の前で妹が爆破テロに巻き込まれるのを目撃した数日後にいつものドタバタイベント。
 蒔菜としてはかなりショッキングな体験をしてるはずなのに、ほぼ影響ないのがすごく変です。
 また入巣家の設定を考えると妹の行動圏内に蒔菜がいるのは不自然だし、
 「宗家」の仕業なら蒔菜がいる可能性のある場所で爆破するのも変な感じ。
 そもそも「家庭の事情で数年間音信不通の妹を偶然街で見かけたら直後に爆破された」というのがどうなのかと。

・蒔菜についての情報を得るため、由美子の部屋を訪れた主人公が唐突に下ネタをかます。
 他のルートでも主人公は下ネタを多用してますけど、それの多くは相手からふられた話をはぐらかすのが主で、
 自分から真面目なお願いをしに行ったときに話をごまかすようなバカではなかったと思います。
 股間が血塗れになってるとかネタ自体もつまらない。

・蒔菜が危機に陥るまでの一連の行動
 詳述は避けますけど、この辺はもうちょっとなんとかならなかったのかな・・・。

なんか長くなってしまいましたけど、
このルートだけはやっててすごくモヤモヤが溜まりました。


○幸(B)
幸が抱える問題は幸自身の精神的なもので、主人公の内面に通じるものでもあったので、
描き方さえよければもっといい話になったんじゃないかと思えて、
なんかもったいない。

前半、主人公が幸の異常さに気付くとこまでは良いです。
その後主人公は幸の問題を解決するためいろいろ奔走することになりますけど、
全体的に口で説明することが多すぎだったと思います。
目を引く派手なシーンをまず最初に配置するけど、それだけじゃ説明不足になるので口で延々説明することになっちゃってる印象。

「(天音たちは)良い子じゃなかったら離れて行ってしまうようなやつらだと思うのか?」
なんてのは幸に口で言って聞かせることじゃなくて主人公が体を張って証明してほしかった。