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NoiminさんのMemoryBlueの長文感想

ユーザー
Noimin
ゲーム
MemoryBlue
ブランド
LiLiM DARKNESS
得点
72
参照数
2155

一言コメント

妻が同窓会に参加するところから始まる NTR ……というよりW不倫もの。 原画、塗り、テキスト、設定、BGM、主題歌と、良い素材は揃っているのにあらゆるルートがぶつ切りのような終わり方をするのが非常にもったいない。大どんでん返しや隠された設定を追加しなくとも、本編のほんの数週間先に訪れるであろう、快楽に流された先の末路を描き切ってくれたら良作になれる素質はあったと思うのだが。 やっぱり NTR ものはちゃんと "奪われる" ところを描いてほしいし、NTR ものこそ主人公だけは一途であってほしい。情けなさと悲愴感が NTR の魅力の結構な部分を占めるとおもっているので。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

最初にやったのは主人公の同期・慶太のルート。
慶太は静那と紗絵、両方を堕とすタイプの間男。2人を堕とす動機が単なる性欲のみならず主人公へのコンプレックスも絡んでいるのが屈折していて良かった。大学の同級生で同じタイミングで入社したにもかかわらずスピード出世していく主人公にコンプレックスを抱くのは、コンプレックスの表現方法こそ悪辣だが理解はできる。また、2人ともを堕とすことで、慶太と静那、慶太と紗絵の体の相性の違いが描かれることになるのもこのルートの魅力。
2人の身体だけを堕とし、主人公の単身赴任が決まったところでエンディング。そこは主人公にバレるところまでやってほしいが、コンプレックスが行動原理の慶太には主人公にばらして開き直るほどの度胸はなかったということだろうか。

次にやったのは主人公たちのマンションの管理人・洋ルート。
こちらも静那と紗絵、両方を堕とすタイプの間男。見た目と設定(盗撮趣味)通りのプレイをする。このルートは可も不可もなくかな……と思っていたら、最後の最後で管理人と静那とプレイを主人公に見せるという美味しいイベントが! しかしこれも主人公が絶望したところで終わってしまう。そこは夫婦の関係性の崩壊までを描くべきだろう。静那の痴態が頭から離れない主人公が、自分と静那とのセックスでは勃たなくなるとか、愛情が冷め切って仮面夫婦として暮らすとか、勝手に妄想して補完した。

続いて静那のかつての担任の先生・泰造ルート。
夫である自分に対して自らを曝け出してくれなかった妻が、他の男に会って魅力的になり、他の男のために少女のようにおめかしするようになる。寝取られらしい喪失感を一番味わえるルート。先生の趣味ゆえ、Hシーンも他のルートより濃い目で良い。
しかし最後に明かされる余命設定は衝撃的な割にはいまいち生かされずに終わってしまい、打ち切り感も一番味わったルートだった。
あの後先生は亡くなって静那は形だけ主人公の元に戻ってくるけど、静那のお腹には先生の赤ちゃんが……! みたいな展開を妄想した。これが妄想じゃなくて本編のエンディングだったらなぁ。
何気に主人公と紗絵との関係性も深まるルート。サブヒロインと結ばれる展開は個人的には好きだけど、寝取られの喪失感が緩和されてしまうから紗絵ルートは紗絵ルートで別に欲しかった気もする。

お次は静那の元同級生で元彼の友人・庸介ルート。
設定を読んだときは策略で追い詰めてくるのかな、なんて思ったりしたが、実際は幼稚な恋愛観を持ったままそれ以外の部分は「できる大人」になってしまった、探せばいそうなラインを突いてくる間男だった。レイプまがいのことをしておきながらいっちょ前に静那の顔色を窺うところは生々しい。そんな男を放っておけない優柔不断な女も含めて。
「恋愛感情ではないが、体だけの関係でもない」と言いながらずぶずぶとその関係に嵌っていく静那が庸介に旅行に誘われたところでエンディング。旅行を見せろ旅行を。
しかし主人公の気持ちが静那だけに向きつつも、仕事に打ち込みすぎるあまり静那の抱える悩みに向き合ってあげられず夫婦の絆が付け入られていく過程は悪くなかった。

ここで寝取られないルートを挟んだが、非常に短く個人的には特筆すべきこともなかったので割愛。
りんごりんのエンディングテーマは良かった。

最後に取っておいたのはやはり元彼・秀俊ルート。
特典CDのあらすじを見る限り、やはり主人公と別れて自分のところ来るように静那に言うのかなーと思っていたがそんなことはなかった。
Hシーンは全体的にノスタルジックかつ情熱的で、プレイ自体は普通でありながら他のルートより楽しめた。
静那の心は一応終盤まで主人公に向いているものの、紗絵と主人公の裏切りに気づいてしまった静那は秀俊との関係に一層溺れていく。

> 「静那……静那っ……! うぅっ……愛してるよ!」
>  私はその言葉に何も答えられなかった。
> (略)
>  体に引き摺られて言ってしまったら、何もかもが嘘になってしまうようで。
>  秀俊君には感謝しているけれど、それとこれとは別だから。

>  頭の中にある昴さんの顔が、段々とその輪郭を失っていく。
>  目はどうだっただろう、鼻はどんな形だっただろう、口は、眉は、耳は。

静那の心の中で主人公の存在が徐々に小さくなっていくさまは良く描かれていたのだが、これも夫婦関係の崩壊までやってほしかった。

総じてHシーンはシーン数こそフルプライス相応に多いが、似たシチュエーションのものがあったり、1つあたり短めだったりと抜き目的のプレイヤーには少し物足りなさそう。堕ちる心理描写が秀逸で好きになったシーンはいくつかあったのだが、先生との軽い緊縛プレイをするシーン、紗絵が報われない想いに自棄になり慶太に屈するシーンなど、大体体験版で見られる範囲だった。

個人的に一番評価したいのは音楽だった。主題歌の Memory Blue は Dearest Blue の系譜を感じる nao のかっこいい曲だし、青葉りんご、Rita が歌うエンディングももっと知られてほしいと思う。Hシーンの BGM もどこかノスタルジックで本作のテーマに合っている。

評価したいところは色々あって楽しめたけど、それゆえに物足りなさがそれを上回ってしまう惜しい作品だった。